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眠れない24時間


めちゃくちゃ久しぶりの更新である。

最近の僕はというと舞台に出ながら紹介してもらったバイトの研修に励んでいる。

バイト先は芸人の後輩や俳優志望の人がいたりして、みんないい人ばかりである。

仕事にもかなり慣れてきた。

かなり遅くなったがようやくちゃんとした東京の生活を始める事が出来てきたと言える。

しかしここにきて約2ヶ月に渡る無職生活の弊害が。

そう。

お金がない。


織田裕二も真っ青である。

2ヶ月働いてなかったら起こる当たり前の事が当たり前に起きているのだ。

何とかして日銭を稼がなければ。

そう考えた僕は先日、あるバイトに行ってきた。

「交通量調査」である。

みなさんは交通量調査を知っているだろうか?

あの道路の隅の方でカウンターをカチャカチャしている人達である。

誰もが一度は見た事あるんじゃないだろうか。

あれは基本的に時間毎に車の通行量を車種別にカウントしているのである。

仕事内容としては非常に簡単である。

しかも仕事が終わるとすぐに給料が支払われる。

言い方は悪いが

お金がないけどあまり何もしたくない人にはうってつけの仕事なのだ。

生まれながらのぐうたらおデブちゃんである僕には非常に相性のいいバイトと言える。

しかし物事には何でもメリット・デメリットがある。

この仕事における最大のデメリットは


究極にヒマ。


ヒマなバイトなんて最高じゃないか!て思うかもしれないが、何にでも限度ってものがある。

交通量調査は人体が耐えれるヒマさを軽く超えてくるのだ。

しかも調査中はスマホ等を見る事はもちろん出来ない。

ひたすら己と向き合うのみである。

そしてもう一つのデメリット。


めちゃくちゃ寒い。


交通量調査は基本的にめちゃくちゃ寒い。

気温的にはそこまで寒くなくてもずっと座っているだけという状態が体に寒さを染み込ませてくるのだ。

特に夜になり気温が下がると想像を絶する寒さとなり襲いかかってくる。

しかしいかに寒かろうが僕達はイスから離れる事は出来ない。

ひたすら寒さに耐えるのみである。

お金がない中、体温を奪われながら自分と向き合い続ける。

こんな苦行があるだろうか。

おそらく調査中に悟りを開いた人は数知れないはずだ。

そしてこれが最後のデメリット。


メンバーがヤバい。


このバイトに来るのはほとんどがおじさんなのだが、このおじさん達が実に粒揃いである。

お金はいるけど複雑な仕事はしたくない、言わばぐうたらおじさんのエリート達だ。

もちろんそうじゃない人もいるが、大半はエリートが占めていると言っていい。

エリートは見た目も凄い。

ありとあらゆる汚い格好をしている。

逆パリコレである。

みすぼらしい格好をしたい時はエリート達のコーディネートを参考にすればいい。

きっとあなたに合うみすぼらしい格好がそこにはあるはずだ。


と、酷い書き方になったが僕ももちろんエリートの一員である。

決して他のおじさん達をバカにしているわけではない。

ちなみに僕はこのバイトを大学生の頃から定期的にやっている。

なぜ大学時代にこのバイトをやろうと思ったのかは覚えていない。

もし今の僕が大学時代の僕に語りかける事が出来たならこれだけは言いたい。


他のバイトをやりなさい。


とまあ前置きが長くなったが、今回僕はこの交通量調査のバイトの24時間バージョンをやる事になった。

24時間。

朝の7時から翌朝の7時まで。

そう。

地獄である。


交通量調査は主に12時間調査と24時間調査がある。

今回はその24時間の方。

24時間調査は交通量調査の中の交通量調査。

究極の交通量調査と言える。

24時間ひたすら何もない時間を戦い抜くのだ。

昔海外で流行り今日本でリメイク版が放送されている大ヒットドラマ「24」の逆バージョンみたいなものである。

「24」はめまぐるしく事態が変わる中テロを阻止する為24時間戦っていたが、僕達は何も起こらない中日銭を稼ぐため戦うのだ。

前日、僕は明日の長い戦いに備えるため早く寝た。


調査当日。

AM4:30

起床。


早え。。。


朝の6時に品川駅集合なのでめちゃくちゃ早い時間に起きなければいけない。

昨日は早くにベッドに入ったが寝ないといけないプレッシャーからか何やかんやで結局あまり寝れていない。

すっごい逃げ出したい。。。

そう思いながら僕はしぶしぶ身支度をした。


AM5:50

品川駅到着。

遠くから見ても分かる。

エリートおじさんがわんさかいる。

朝の品川駅は異様な雰囲気に包まれていた。

カイジと闇金ウシジマくんを足して2で割ったような世界観である。

売れたい。。。

僕は心底思った。

ハングリー精神を掻き立てるにはこのバイトはある意味うってつけかもしれない。


「斎藤さん!!!」


大きな声が聞こえた。

声の方を見ると

ギャルのパンティーのような変なマスクをした大柄なおじさんが斎藤さんと呼ばれるおじさんに向かって駆け寄っていた。

「おお!!!」

斎藤さんも大きな声を出した。

そしてそのままギャルのパンティーのようなマスクをしたおじさんと斎藤さんはハグをした。

ゴリゴリのおじさん2人が出会うなりハグをしている。

ただ事ではない。

「よかった!よかった!」

ギャルのパンティーのようなマスクをしたおじさんはしきりによかったと言っている。

この2人もしかして生き別れた兄弟だろうか?

幼い頃に生き別れた兄弟がこの交通量調査の現場で再会したのだろうか。

だとすれば奇跡である。

ギャルのパンティーのようなマスクをしたおじさんは続けて言った。

「話し相手がいてよかった!!」

それだけかい。

大げさやねん。

そんな事でハグすんなよ。

ただ交通量調査仲間が同じ現場入ってただけやないか。


そんなこんなで点呼が終わり、チーム分けをしそれぞれ調査地点に向かう事になった。

1チームは大体6人ぐらいで3・3に別れて片方が3時間調査をしてその後もう片方の3人と交代し休憩に入る。

3時間調査→3時間休憩

これの繰り返しである。

ちなみに僕のチームはというと

優しそうなおじさん

優しそうなおばさん

ハゲた凛々しいおじさん

斎藤さん

ギャルのパンティーのようなマスクをしたおじさん

この6人である。

僕は思った。


ギャルパンマスクと一緒やん。。。


何でよりによってギャルパンマスクとチームになんねん。

一番トリッキーなおじさん引いてもうたやん。

いやまあ悪い人ではなさそうやけど。


そうこう思っていると調査地点に到着した。

イスなど準備をする。

3人が3方向それぞれの道路を調査する。

最初の3時間は僕、優しそうなおじさん、優しそうなおばさんが行う事になった。

よかった。

とりあえずギャルパンマスクとは交代の時会うだけや。


AM7:00

いよいよ交通量調査が始まった。

ここから24時間である。

長い戦いだ。

僕の横には優しそうなおじさん、少し離れて優しそうなおばさんが座っている。

カチャカチャ。

3人とも無言でカウントしている。

僕はこの調査中の時間を早く経たせる方法を知っている。

長年の経験から培った極意だ。

それは

ひたすら自分の半生を振り返る事である。


今までの事をずっと思い返していくのだ。

すると意外なぐらい時間が早く経過していく。

僕はまず小学校時代を思い出した。


小学校の頃、好きだった脇田さん。

元気にしているだろうか。

毎日一緒に登校してたなあ。

確か今、子供が2人ぐらいいるんだっけ。

脇田さん。

僕は今東京で交通量調査をしているよ。


わけがわからない事になっているよ。

東京のお台場付近でカチャカチャやってるよ。

すっごく帰りたいよ。

うう。。。

あかん、泣きそうになってきた。

僕は小学校時代を思い出す事をやめた。


AM10:00

最初の3時間が終わった。

まだまだ余裕である。

交代の3人がやってくる。

斎藤さんとギャルパンマスクが楽しそうに話している。

仲良いな。

ギャルパンマスクが僕に話しかけてくる。

「お疲れ様です!いや、いい天気でよかったですね!どうですか?車は通りますか?」

陽気なおじさんである。

変なマスクだけどいい人そうだ。

変なマスクだけど。


PM1:00

3時間の休憩を経て2ターン目の調査が始まる。

今回は中学時代の事を思い出そう。

中学時代といえばやはり告白未遂事件である。

好きな子に告白しようとしたら教室に前日に付き合った彼氏が入ってきてその2人を見た僕はグランドまで一目散に逃げていくのである。

そして翌日にはみんなにこの話は広まっていた。

このnoteにもチラホラ書いている僕史上最大のトラウマである。

今思い出してもあの期間は本当にロクでもない。

しかしあれがきっかけで僕はラグビー部に入り人生が動き出していくのだ。

ラグビー部に入っていなかったら回り回って芸人になる事もなかったかもしれない。

という事はあの告白未遂がなければ今の僕はなかったといえるのだ。


あの時のお2人さん。

元気にしてるかい?

あの時君達が前日に付き合ってくれたおかげで

僕は今東京で交通量調査をしているよ。


わけがわからない事になっているよ。

東京のお台場付近でカチャカチャやってるよ。

すっごく帰りたいよ。

何でよりによって前日に付き合ってしかも人が告白しようとしてる時に教室に入ってくるんだい?

勘弁してくれよ。

おかげさまで僕は今、東京で資金難に陥って交通量調査をするはめになったよ。

うう。。。

あかん、泣きそうになってきた。

僕は中学時代を思い出す事をやめた。


PM3:40

あと20分で休憩である。

ギャルパンマスクが現れるのが待ち遠しい。

早く来い来いギャルパンマスク。

横の優しそうなおじさんをチラッと見る。


完全に寝ている。


優しそうなおじさんは目をしっかり閉じて完全に寝ている。

調査が始まって約9時間。

優しそうなおじさんは活動停止した。

僕は思った。


早ない??

まだ9時間やで。

あと15時間あるで。

寝落ちすんの早いて。

どうすんのこれから。


そしてギャルパンマスクの大きな「お疲れ様でーす!!」という声で優しそうなおじさんは目を覚ました。


PM7:00

3ターン目の調査である。

ここから夜の10時までやって次は1時から4時で最後の3時間は休憩でナシとなるので僕達のグループは4時で解散である。

ちょっと終わりが見えてきた。

すでにフラフラやけど。

休憩の3時間と言っても公園でぼ〜としてるだけなので何か妙に疲れる。

交代時ギャルパンマスクは元気に言っていた。

「今から公園で寝てきますわ!!!」

何を元気に言うとんねん。

内容やばすぎやろ。


PM8:30

いよいよ寒くなってきた。

ここから本格的に厳しい戦いになりそうだ。


ボンッッッ!!!


??

何か大きな音が聞こえた。


ボンッッッ!!!

また聞こえた。

遠くの方から聞こえる。

横にいる優しそうなおじさんが言った。


「花火だ。」


遠くの方で花火が上がっているのである。

何でこの時期に?

しかもこのタイミングで?

遠いがハッキリ見える。

めちゃくちゃキレイである。

僕と優しそうなおじさんは花火に見惚れていた。

打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?交通量調査しながら見るか?


下からでも横からでもどっちでもいいが、最後だけは違うのは分かる。

2020年秋東京。

僕は優しそうなおじさんと花火を見た。

あの日見た花火を僕は忘れない。

こともないだろう。


AM0:50

最後の休憩を終え、いよいよラストのターンである。

調査地点まで向かう道中、監督員からこんな情報が入った。

「調査地点に不審者が出たという通報があり警察が来るみたいです!」

どよめく優しそうなおじさんとおばさん。

「不審者って何!?」

「あんな車道しかないところに不審者が出るの!?」

「いや〜怖い」

僕の頭の中にはある事がふとよぎった。


AM1:00

調査地点に到着した。

監督員と僕達が地点に向かうと

寒空の下


ギャルパンマスクが踊っていた。


はい、確定。

不審者絶対こいつ。

正確には踊っているわけではなかったのだが、あまりの寒さに手足を動かして暖をとっていたのである。

その様が踊っているように見えたのだ。

ギャルのパンティーのようなマスクをした大柄なおじさんが踊っているのである。

通報されても無理はない。

ていうか友達の斎藤さんも止めろよ。


AM3:00

あと1時間。

いよいよ寒い。

完全に限界を超えている。

僕は気を紛らわすため今度は高校時代を思い出した。

高校時代は色々な事があった。

ラグビー部の様々な思い出が蘇る。

しかし僕の中で1番覚えているのは高3の文化祭である。

僕はラグビー部の友達数人と文化祭のイベントの1つである「仮装大会」に出場した。

ラグビーの練習も忙しい中、衣装をみんなで作って舞台に立った。

信じられないほどウケた。

あの時耳にしたみんなが一斉に笑った音は今でも僕の耳に残っている。

あの日僕は舞台でウケる快感を初めて経験したのだ。

あの日から僕の夢はお笑い芸人になった。


あの時の僕へ。

やあ、18年後の僕だよ。

君があの時芸人を夢見てくれたおかげで

僕は今東京で交通量調査をしているよ。


わけがわからない事になっているよ。

東京のお台場付近でカチャカチャやってるよ。

すっごく帰りたいよ。

信じられないぐらい寒いよ。

君が今の僕を見たらあまりの悲惨さにきっと卒倒すると思うよ。


でも1つ言えるのは


君よりも今の僕の方がお笑いが好きだよ。

びっくりするぐらいまだ全然諦めていないよ。

だからあの時君が見つけた夢は何も間違っていないよ。


うん。

何か燃えてきた。

ここから頑張ろう。

R-1、絶対に決勝に行くんや。

そのために出来る事全部やっていこう。

僕は高校時代を思い出す事をやめた。


AM3:50

僕はここにきてまさかのポジティブになって燃えていた。

交通量調査をしていると分かる事がある。

人は極限状態で自分と向き合い続けると自分の中の1番大事なものが姿を現すのである。

何かに悩んでいる人はみんな1回交通量調査をしてみたらいいかもしれない。

もしかしたら大事な何かに気付けるかもしれない。

知らんけど。


AM4:00

ギャルパンマスク達がやって来た。

交代である。

僕の交通量調査は終わった。

長い戦いだった。

始発がまだ無かったため、東京テレポート駅まで歩いた。

東京テレポート駅は踊る大捜査線の青島刑事が出勤してくる駅である。

僕は大の踊る大捜査線好きだ。

ラブサンバディを口ずさみながら歩いた。

2020年のお台場をラブサンバディを口ずさみながら歩いているのは僕か織田裕二ぐらいだろう。

夜明け前のお台場の空気が非常に気持ちよかった。

僕の足どりは軽かった。














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