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「ノイズキャンセリングヘッドホンのソニー」を作り上げたのは新卒入社直後の20代だった

次の日経を考えるチーム」では記事連載企画「U40の匠」をはじめました。活躍する若手社会人の働きぶりに迫ります。ぜひ読んで感想を聞かせてくださいね。
第1回は「音楽の楽しみ方を変えた男」ソニーの大庭さんです。

周囲の雑音を打ち消して音楽が聞ける「ノイズキャンセリング機能」付きのヘッドホンが人気だ。国内シェアで首位を走るのはソニー。同社の大ヒット商品「1000Xシリーズ」の商品企画を担当した29歳、大庭寛にそのこだわりを聞いた。

「U40の匠」とは 各界で活躍する40歳未満(Under40)の若手社会人を「匠」(たくみ)と位置づけ、彼らが残してきた足跡に迫る連載企画です。

イギリスの権威あるオーディオ誌「What Hi-Fi?」が発表した「ベストノイズキャンセリングヘッドホン2019」ではソニー製品が上位2機種を独占した。トップの製品の価格は3万円台と決して安くはないが、ユーザーからの支持は圧倒的だ。

大庭は2015年にソニーに入社。2016年発売の初代モデルから1000Xシリーズの開発に関わる。

大庭が「1000X」プロジェクトに入る前、ソニーはこの商品を(1)ノイズキャンセリング(2)高音質(3)独自技術や高機能の搭載の3本柱を特長に打ち出す計画だった。ただ大庭は「どれも機能としてかなり優秀なだけに、ユーザーにどんな商品なのか強いメッセージが伝わらず、かえって混乱してしまうのではないか」と懸念。コンセプトの一本化に乗り出した。この調整活動が、入社直後の大庭の最大の仕事になった。

大庭は「1000X」のすべての機能を「ノイズキャンセリングヘッドホンを使った最高の音楽体験」に寄せることにした。「雑踏や飛行機などの騒がしい場所でも高音質の音楽が楽しめるのは、ノイズキャンセリングがあるから」。各機能はノイズキャンセリング機能を引き立てる存在と位置付けた。

「1000X」はフリークエントトラベラーと呼ばれる飛行機で移動する人向けけに作られている。大庭は届けたい体験として目指すコンセプトを「持ち歩けるコンサートホール」と位置付けた。

「ノイズキャンセリングヘッドホンのソニー」を打ち出すことにした大庭には、もう一つ超えなければならない壁があった。それはこの機能が「業界最高性能」という証拠を示すこと。No.1と言い切ることができれば、ユーザーにわかりやすく商品の魅力が伝わるからだ。

業界最高性能と示すことは一見簡単に見えるが、社内で実際に商品をつくるエンジニア側には抵抗感があった。世の中のあらゆるヘッドホンを抜け漏れなく調べる必要もあるし、商品の発売直前に高性能な製品が突然他社から出るリスクもあり、不確実要素が大きいからだ。

社内説得の足がかかりとするため、大庭がまず開いたのが「販売会社向けデモ」だ。世界中の販売会社を東京に集め、ヘッドホンの実物を触ってもらう機会を設けた。他社と比べ群を抜いた性能が販売における武器だと認識してもらえれば、販売員が自信をもって各国に帰れると考えたからだ。

ヘッドホンとしては異例のデモを実施したことで、高いノイズキャンセリング性能が社内で知れ渡ることになった。これによって「業界最高性能」を計測して外部にもアピールしていこうという方向性も明確になった。最終的に電子情報技術産業協会(JEITA)の基準を使って社内で測定・比較し、業界最高クラスの性能の裏付けとした。こうして、「ノイズキャンセリングヘッドホンのソニー」を打ち出すことができた。

大庭のマイルールはこの3つだ。3つ目の「タイミング良く空気を読まない」に関して、大庭は「過去に一度やると決めたことでも、その後に時流を読み違えたとわかったならその時点でやめたり変更したりすることは多かった」と振り返る。大庭とともに働くエンジニアの横山智優は「商品を良くしたいという思いを強く感じるから、提案をないがしろにはできなかった」と語る。

大庭の上司の足利裕二から本人の印象を聞いたところ、「大庭は物事を調べ上げることに長けている」と評価する。ミーティングではあらゆる質問に対する想定問答を用意しており、「あとで調べておきます」と答えることが非常に少ないという。

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