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「時間泥棒」完結済み 全16話

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平和な僕らの町で、ある日、イエローバスが衝突するという事故が起こった。ライオン公園で撮った覚えのない五人の写真を見つけた千斗たちは、意味ありげに逃げる白猫を追いかけて商店街まで行…
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#追跡

「時間泥棒」第一話

「時間泥棒」第一話

第一章動かない猫

「いってきまーす!」
 スニーカーを履いて玄関から飛び出すと、四月の風が頬をなでる。通いなれた道を歩いて今年で六年目。満開まであと少しの桜と日差しが、気持ちいい。
 急にぽかぽかしてきた陽気のせいなのか、ベンチで眠りこけてるお年寄りや、バスが来てるのにぼーっと立ち尽くしているスーツ服のお姉さんなんかで目白押しだ。
 大人になると忙しすぎて、みんな疲れちゃうのかな。
 そんなこと

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「時間泥棒」第六話

「時間泥棒」第六話

第六章スカーフェイスを追って(1)

 ライオン公園はとにかく広い。園内マップが描かれた大看板の前で、紅葉が振り返る。
「手分けした方がいいよね? 通信機もあるし。でも誰がどこに行く?」
 黄道区は、海のある北側と南側で緩やかな高低差がある。南側のここ獅子丘町は山に面して緑も多いし、高台は見晴らし最高。起伏を活かした遊具やジョギングコースも運動に最適で、黄道区一大きなライオン公園がここに作られたの

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「時間泥棒」第七話

「時間泥棒」第七話

スカーフェイスを追って(2)

《乙女町》

 乙女町は住宅地で、紅葉とミチルの家もある。ただっ広いライオン公園よりは探しやすい気はするけれど立ち並ぶ建物のせいで死角が多く、見通しは悪い。
 なにしろ相手は猫。隠れるのなんてお手のもの。ひょいひょいと塀に登ったり、建物の間や民家の庭先を通り抜けたりされれば、追いかけるのは困難だ。
「まだ近くにいるかもしれないから、見落とさないようにね」
 マシュマ

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「時間泥棒」第八話

「時間泥棒」第八話

天川の行方不明事件
(1)

 自宅に戻ると、いつもより元気のない僕に気づいて、お母さんが心配そうな顔をした。だけど、靴を脱ぎながら黙っている僕に、それ以上話しかけてはこない。
 今のままではスカーフェイスを捕まえるどころか、姿さえ見つけるのは難しい。手がかりと言えば救急車のサイレンだけ。その音を頼りにあいつを追うわけだけど、救急車が現場に到着するまで、親切にスカーフェイスが僕たちを待っているはず

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「時間泥棒」第十一話

「時間泥棒」第十一話

第八章作戦開始! サイレンを挟み撃て!
(1)

 ペダルを漕ぐ僕の足取りは、自分でも驚くほど力強いものだった。通信で聞いたみんなの声が僕を後押しする。だけど結局、途中の道では猫一匹すら見つけられなかった。
 コスモ小に着いたのは十時三〇分を過ぎたあたり。途中ずっとスカーフェイスを警戒していたせいか、かなり時間がかかってしまった。なんの進展もないまま自転車を止めて息を整えると、コスモ小に到着したこ

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「時間泥棒」第十二話

「時間泥棒」第十二話

作戦開始! サイレンを挟み撃て!
(2)

 双子山町の外側には同じ背丈くらいの山が二つ並んでいる。それが双子みたいにそっくりだから、ここは双子山町と名づけられたらしい。授業で習わなくても誰でもすぐに気づくダイレクトすぎるネーミングだけど、この町の人たちはその名前を気に入っていて、双子山をモチーフにしたマークが町のあちこちに貼られている。
 行楽シーズンには双子山ハイキング大会! とか双子限定カラ

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