マガジンのカバー画像

「時間泥棒」完結済み 全16話

16
平和な僕らの町で、ある日、イエローバスが衝突するという事故が起こった。ライオン公園で撮った覚えのない五人の写真を見つけた千斗たちは、意味ありげに逃げる白猫を追いかけて商店街まで行…
運営しているクリエイター

#捕物帳

「時間泥棒」第一話

「時間泥棒」第一話

第一章動かない猫

「いってきまーす!」
 スニーカーを履いて玄関から飛び出すと、四月の風が頬をなでる。通いなれた道を歩いて今年で六年目。満開まであと少しの桜と日差しが、気持ちいい。
 急にぽかぽかしてきた陽気のせいなのか、ベンチで眠りこけてるお年寄りや、バスが来てるのにぼーっと立ち尽くしているスーツ服のお姉さんなんかで目白押しだ。
 大人になると忙しすぎて、みんな疲れちゃうのかな。
 そんなこと

もっとみる
「時間泥棒」第十一話

「時間泥棒」第十一話

第八章作戦開始! サイレンを挟み撃て!
(1)

 ペダルを漕ぐ僕の足取りは、自分でも驚くほど力強いものだった。通信で聞いたみんなの声が僕を後押しする。だけど結局、途中の道では猫一匹すら見つけられなかった。
 コスモ小に着いたのは十時三〇分を過ぎたあたり。途中ずっとスカーフェイスを警戒していたせいか、かなり時間がかかってしまった。なんの進展もないまま自転車を止めて息を整えると、コスモ小に到着したこ

もっとみる
「時間泥棒」第十三話

「時間泥棒」第十三話

第九章『5…4…3…2…1…‼』

 風を切って走る町の風景の色合いが、僕の横を通り過ぎるたびに混ざりあっていくようだった。感じるのは顔に当たる風の感触だけ。自分の呼吸も、周りの音も、まるで抜き取られてしまったように何も聞こえなかった。腕時計も沈黙したままだ。この瞬間がとても長く感じる。同じ一秒が、まるで違う長さの物差しで計った一秒みたいに長く……。
 次に腕時計から聞こえたのは、うろたえたジョー

もっとみる
「時間泥棒」第十四話

「時間泥棒」第十四話

第十章不法の器の代償

 カラス神社に着いたのは、それから十分ほど経ってからだった。窮屈そうに虫網に押し込められたスカーフェイスは、まだ意識を取り戻していない。
「マルコ! ミチル! おまたせ! 本当におつかれさま!」
「おまえらマジでクレイジーにすごいぜ!」
 自転車を止めて二人に駆け寄ると、マルコとミチルは照れくさそうに顔を見合わせた。
「みんな、気をつけてね。クロの意識が戻ったら、目を見ない

もっとみる
「時間泥棒」第十五話

「時間泥棒」第十五話

第十一章ミチルのフラッシュ

 紅葉とジョージの意識が戻ったのは、それからすぐ後のことだった。気がつけば、状況がガラリと変わった様子を見て、ジョージも紅葉も目を丸くしている。
「おぃ⁉」白地の黒ぶち猫を見たジョージが突然叫んだ。「うし?」
 どう見たって猫だよ、ジョージ。
「これは、一体どうなってるのよ?」
 時間をかすめ取られて状況がつかめていない紅葉たちに、その間に起きたことを説明すると、二人

もっとみる