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「&So Are You」完結済み 全50話

50
バラは赤い、スミレは青い、お砂糖は甘い、そうして君も……。 一九六三年ミズーリ。代々トウモロコシ農家を営むベンの住む田舎町へやって来たハンナは、初対面でズケズケものを言う嫌味な…
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#戦争

「&So Are You」第一話

「&So Are You」第一話

プロローグ
 照りつける太陽の光が、僕の背中をローストターキーの表面のようにこんがりと焼きつける。
 目前に広がる湖面には零れんばかりの光の粒が溢れ、宝石箱を埋め尽くしたダイヤモンドみたいに煌めいていた。

 この場所で共に長い時を過ごした僕たちは、なにひとつ色褪せることなく同じ輝きを放っているはずだ。
 すべてあの頃のままに。

 そうして君も、あの日のキラキラした笑顔のままで……。

 耳を澄

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「&So Are You」第二十九話

「&So Are You」第二十九話

ドッグタグ

 君は、僕に「すべてを失う」と言っていたね。あのときの僕は、その意味がまったく理解できていなかったけれど、今になってようやくその言葉の重みがわかるようだ。

「すべてを失う」とは「命」のことなんかじゃなかった。この戦争で、僕は自分を含め同胞たちの命を何度も失いかけたし、実際に失った。でもそれだけじゃない。今の僕は人格すら失いかけている。

 戦争という名の大義名分に従い、これから僕は

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「&So Are You」第三十話

「&So Are You」第三十話

ハンナからの手紙

 次に届いたハンナからの手紙は、ぼくとグレッグへの連名になっていた。

「ベン、グレッグ、
 君は、僕に「すべてを失う」と言っていたね。あのときの僕は、その意味がまったく理解できていなかったけれど、今になってようやくその言葉の重みがわかるようだ。

「すべてを失う」とは「命」のことなんかじゃなかった。この戦争で、僕は自分を含め同胞たちの命を何度も失いかけたし、実際に失った。でも

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「&So Are You」第四十三話

「&So Are You」第四十三話

名もない駒

 なんのために戦い、そしてなぜ死んでいくんだろう? このジャングルの暗闇と同じに視界が闇に染まる。

 僕たちは所詮、ルールを知らない子供がプレイするゲームの盤上に置かれた名も無い駒でしかない。彼等は相手の駒を減らすのに躍起立ち、駒の持つ役割も考えずに、ただ単純に消耗戦を繰り広げていくだけ。

 きっと手持ちの駒が無くなれば、優しいパパとママが新しい駒を勝手にいくらでも補充してくれる

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「&So Are You」第四十六話

「&So Are You」第四十六話

赤い雨

 これでもかというほど傾斜を転げ落ちた。デッドエンドに体が叩きつけられる。相変わらず敵兵の叫び声や銃声は耳には届いたが、追っ手は上手く退けたようだった。

「ベン! お前生きてたんだな! 良かったよ!」

 グレッグが水筒を取り出し僕の右目を洗い流す。なんとか瞼を開くと、懐かしい親友の苦々しい笑顔が僕を覗き込んでいた。

「よう、相棒!」
「グレッグ……、生きててくれて本当に良かった……

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「&So Are You」第四十七話

「&So Are You」第四十七話

空を切り裂く

 そのときだった。僕たちは何者かに狙撃を受けた。弾は当たらなかったものの、弾みで地面に転がった。

 グレッグは一早く体勢を立て直すと、木の陰まで僕を引きずってM60の残弾を確認し銃を構えた。

 現時点で、おそらく西側はほぼ制圧されている。敵の部隊は南東全域に渡って進撃しているはずだ。嫌な予感が過る。そしてそれは見事に的中していた。

 第一・第三中隊の攻撃をすり抜けたゲリラ部隊

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「&So Are You」第五十話(最終話)

「&So Are You」第五十話(最終話)

エピローグ Missouri, Later新たな家

 やがて、親しい友人や家族が僕の前から去っていき、そしてさらに時が流れた。

 慣れ親しんだトウモロコシ畑と、グレッグの愛したリカーショップ、そして金物屋くらいしかないこの退屈な町が、どれほどにその姿を変化させていったとしても、ただこの湖だけは、今も昔も変わることなくこの場所に在り続けた。

 どんなに町が姿を変えても、たとえ、この目が光を失っ

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