マガジンのカバー画像

「&So Are You」完結済み 全50話

50
バラは赤い、スミレは青い、お砂糖は甘い、そうして君も……。 一九六三年ミズーリ。代々トウモロコシ農家を営むベンの住む田舎町へやって来たハンナは、初対面でズケズケものを言う嫌味な…
運営しているクリエイター

#兵士

「&So Are You」第一話

「&So Are You」第一話

プロローグ
 照りつける太陽の光が、僕の背中をローストターキーの表面のようにこんがりと焼きつける。
 目前に広がる湖面には零れんばかりの光の粒が溢れ、宝石箱を埋め尽くしたダイヤモンドみたいに煌めいていた。

 この場所で共に長い時を過ごした僕たちは、なにひとつ色褪せることなく同じ輝きを放っているはずだ。
 すべてあの頃のままに。

 そうして君も、あの日のキラキラした笑顔のままで……。

 耳を澄

もっとみる
「&So Are You」第二十八話

「&So Are You」第二十八話

少年兵のリボン

 乾いた射出音を辿って茂みを進むと、棒立ちでマシンガンを乱射する孤立兵を発見した。

 グライムス軍曹が周辺を警戒しろと指示を出すが、辺りに他の敵兵は見当たらない。兵士は血に染まった片腕を垂らしており、負傷で錯乱しているかと思われた。

「姿勢を低くして挟みうちにするぞ! エーカーと俺は左! お前たちは右側から回り込め!」

 軍曹の指示で二手に別れて匍匐で進む。大きな木の裏まで

もっとみる
「&So Are You」第三十四話

「&So Are You」第三十四話

内通する村

 ベトナムの地を六ヶ月生き延びた僕たちに与えられた祖国からのご褒美は、たった一週間の休暇だけだった。

 休暇が近づいたある日、本部からの無線で北と繋がっていると思われる人物が近くの村に出入りしているという情報が入り、僕たちはその村を目指した。

 古ぼけた小さな村に暮らしていたのは、ほとんどが老人と女子供たちだった。村に入った僕たちは、手あたり次第に捜索を始める。ベトコンと繋がる証

もっとみる
「&So Are You」第四十話

「&So Are You」第四十話

蟻の砦

 カンボジア国境付近のジャングルを巡回しているときだった。南ベトナムの雨季に、最後の一花を咲かせようかという強烈な雨が突然僕たちを襲うと、タイミングを計ったかのようにベトコンが隊の後方を襲った。

「敵襲!!」

 声はスコールに掻き消される。派手な手榴弾などなくとも、彼らは雨季の性質を利用して槍や銃のみで巧妙に僕たちに襲い掛かり、隊の連帯を崩し大きな痛手を負わせていった。

 後方へと

もっとみる
「&So Are You」第四十一話

「&So Are You」第四十一話

待ち伏せ作戦

 闇に支配された密林を風が通り抜ける。揺れる木々の葉が不気味に音をたて、そこにいるはずもない敵の軍勢が、すでに僕たちを取り囲んでいるような気配を呼び起こす。

 張り詰める怯えを振り切るように落ち葉を踏み続け、目に染みる汗は、もはや鼻水とも涎ともつかない。

 日が暮れるに連れ、上官たちの様子が次第に慌ただしくなるのが傍から見ても明らかだった。兵士の間では様々な憶測が飛び交い始め、

もっとみる
「&So Are You」第四十三話

「&So Are You」第四十三話

名もない駒

 なんのために戦い、そしてなぜ死んでいくんだろう? このジャングルの暗闇と同じに視界が闇に染まる。

 僕たちは所詮、ルールを知らない子供がプレイするゲームの盤上に置かれた名も無い駒でしかない。彼等は相手の駒を減らすのに躍起立ち、駒の持つ役割も考えずに、ただ単純に消耗戦を繰り広げていくだけ。

 きっと手持ちの駒が無くなれば、優しいパパとママが新しい駒を勝手にいくらでも補充してくれる

もっとみる
「&So Are You」第四十四話

「&So Are You」第四十四話

悲しいこだま

 穴の中は兵士たちの流した血でぬかるみ、火薬と死肉の臭いで満たされていた。おびただしい数の死体が積み重なりもはや敵か味方かも判別できない。

 激しく響く爆撃音と銃声をかい潜り、穴を覗いてはグレッグの名を呼んだ。

 穴のひとつから僅かにうめき声が聞こえた。中に転がり落ちるように飛び込むと、エリオットとジェフの姿があった。エリオットは頭部の大部分を失っており、すでにこと切れていた。

もっとみる