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記事一覧

悪い男

「彼の結婚式の前の日に、私から言ったの」 ワークショップで出会って間もない妙さんが、休憩時間に突然話し出す。 「あの子と結婚する前に私を抱いて、って」 「抱いて」…

ポンタ
1か月前
7

壊れないポケット

「この曲、何でしたか?」、聞こえるかどうかわからないくらいの声を出す。 言ったとたん、山にかかり始めた霧の中に、突進しそうになる。 隣に立つその人は、無視できるレ…

ポンタ
4か月前
6

ん❓

・・・・・/////・・・・・///・・・・;;;・・・・~>゜)~~~ 何もない。 何もないから「ある」もない。 何もないって、そういうことよ。 それがいつだったかなんて、…

ポンタ
5か月前
9

春節

「東京じゃスーパーのレジでは間隔開けて並んで、みんなマスクもしているよ」、と東京在住の同級生が電話口でしゃべっている。 「あはは、田舎じゃそんなことする人間はい…

ポンタ
5か月前
12

本当に幸福な「幸福の王子」

町の高いところに、幸福の王子の像が立っていました。 王子の体は、小さなダイヤの粒でおおわれており、目はブルートパーズで、剣の柄には、大きなガーネットが輝いていま…

ポンタ
6か月前
11

冬眠

今とは比べ物にならないくらい冬が寒かった頃、夕子の望みは冬眠だった。 酷暑の最近では夏眠が望みで、「目が覚めたら冬だった」というような体質になりたいと思いながら…

ポンタ
9か月前
7

秋の味覚

「今」を研究している学者がいるのを、テレビで知った。 うろ覚えだが、【人が「今」という概念を持ったことで、未来への希望や過去への後悔を持つことになったそうだ。 幼…

ポンタ
10か月前
9

ゾンビとゾンビ その4

「哲学的ゾンビ」という言葉を聞いたことがある。 【言動や社会性の面でも、生理学解剖学的にも普通の人間そのものだが、内面的な思考を持たないという、思考実験上の存在…

ポンタ
10か月前
4

ゾンビとゾンビ その3

楽しいはずなのに、3人でお茶しながら、夕子はどんどん疲れていくのを感じていた。 話せば話すほど、自分の身体から何かが吸い取られていくようなのだ。 「そんなはずは無…

ポンタ
10か月前
5

ゾンビとゾンビ その2

会いたかった友里さんに会えることになったのは、思いのほか早かった。 山田さんが遊びに行くついでに、連れて行ってもらえることになったのだ。 ご主人が大企業の役員の友…

ポンタ
10か月前
6

ゾンビとゾンビ その1

友里さんが地元に戻ってきていると聞いたのは、友里さんの幼馴染みの山田さんからだった。 夕子は山田さんを知らなかったのだが、何かの折に同級生だと知ってから、時々会…

ポンタ
10か月前
6

雨 その2

今朝は雨が降ってたけど、もう止んだ。 低学年は給食もないので、昼で帰宅する。 夕子んちは学校からは遠く大人の足でも30分はかかるので、まじめに歩いても子供なら一時間…

ポンタ
1年前
5

出張で来た久しぶりの都会。 地方都市なので都会というほどでもないが、田舎者の夕子にはそれでも十分きらめいて見える。 研修が早めに終わったので、少し街を歩いてみる。…

ポンタ
1年前
6
悪い男

悪い男

「彼の結婚式の前の日に、私から言ったの」
ワークショップで出会って間もない妙さんが、休憩時間に突然話し出す。
「あの子と結婚する前に私を抱いて、って」
「抱いて」という言葉にドキッとして、思わず目を伏せる。
「彼のことが本当に好きだったから、どうしても抱いて欲しかった」
淡々とした語り口の妙さんの顔に、私はよろよろと視線を移動させる。
「彼は抱いてくれたけど、その日から辛くて辛くて辛くてたまらない

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壊れないポケット

壊れないポケット

「この曲、何でしたか?」、聞こえるかどうかわからないくらいの声を出す。
言ったとたん、山にかかり始めた霧の中に、突進しそうになる。
隣に立つその人は、無視できるレベルの私の声を拾い上げ、「〇〇」と映画のタイトルだけをつぶやく。
その声を私は、壊れることのないポケットにしまった。

いつもは無視する同窓会の案内を、捨てようとして見直す。
卒業してからもう40年か~、行くとしたらこれが最後のチャンスか

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ん❓

ん❓

・・・・・/////・・・・・///・・・・;;;・・・・~>゜)~~~
何もない。
何もないから「ある」もない。
何もないって、そういうことよ。
それがいつだったかなんて、わからない。
どうしてか、なんてわかりようがない。
しいて言えば、「何かの拍子に」・・・だったんじゃない?
時があるとすれば、その時が始まりかもね。
何かの拍子に「ん?」って感じたの。
その時かな?、「ん?」って感じる存在の始

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春節

春節

「東京じゃスーパーのレジでは間隔開けて並んで、みんなマスクもしているよ」、と東京在住の同級生が電話口でしゃべっている。
「あはは、田舎じゃそんなことする人間はいないよ」、と私。
その時の私はコロナは知っていたけれど、そのウイルスの本当の怖さをまだ知るよしもなかった。
のんびりと笑ったあの日から4年、私が屈託なく笑うことはもう二度とない。

日本で初めてコロナの発症例が報告されたのは、2020年正月

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本当に幸福な「幸福の王子」

本当に幸福な「幸福の王子」

町の高いところに、幸福の王子の像が立っていました。
王子の体は、小さなダイヤの粒でおおわれており、目はブルートパーズで、剣の柄には、大きなガーネットが輝いていました。
王子は、町の人々の自慢でした。
ある夜のこと、一羽の小さなツバメが飛んできて、王子の足元にとまりました。
疲れたツバメが寝ようとすると、大つぶのしずくがポタリと落ちてきました。
「ひやっ!雲もないのに、雨かいな?」
ツバメが不思議に

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冬眠

冬眠

今とは比べ物にならないくらい冬が寒かった頃、夕子の望みは冬眠だった。
酷暑の最近では夏眠が望みで、「目が覚めたら冬だった」というような体質になりたいと思いながら生きている。
昔の石油ストーブは、今のファンヒーターではなく上部が熱くなるタイプのものしかなかったので、やかんや鍋を上に置くことも多かった。
夕子の部屋にも上が熱くなるストーブがあったが、必要じゃないので上にやかんなどを置くことはなかった。

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秋の味覚

秋の味覚

「今」を研究している学者がいるのを、テレビで知った。
うろ覚えだが、【人が「今」という概念を持ったことで、未来への希望や過去への後悔を持つことになったそうだ。
幼子を見ていると、なるほどと思う。
幼子には「今」すら存在しないので、明日を思い煩うこともなく、昨日を悔やむこともないではないか。
人が認識出来る「今」は、0.1秒だとか言ってたなぁ。

夕子が低学年の頃から気づいていたことが、二つある。

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ゾンビとゾンビ その4

ゾンビとゾンビ その4

「哲学的ゾンビ」という言葉を聞いたことがある。

【言動や社会性の面でも、生理学解剖学的にも普通の人間そのものだが、内面的な思考を持たないという、思考実験上の存在】だそうだ。
この言葉の提唱者によると、「喜怒哀楽など様々な感情を表出したとしても、それは内的な情動にの発露ではなく、機械的な反応・演算の結果として出力しているにすぎないが、現実の人間がそのような存在でないと証明することはできない」とある

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ゾンビとゾンビ その3

ゾンビとゾンビ その3

楽しいはずなのに、3人でお茶しながら、夕子はどんどん疲れていくのを感じていた。
話せば話すほど、自分の身体から何かが吸い取られていくようなのだ。
「そんなはずは無い」と何度も自分に言い聞かせるが、貧血で倒れる直前のようになっている。

相手に関心のない友里さんは、聞かれなくても自分のことは話すのだ。
優しいポツポツとしたかわいい話し方だが、その口から出てくる言葉を聞くたび、夕子は「行き倒れ寸前のお

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ゾンビとゾンビ その2

ゾンビとゾンビ その2

会いたかった友里さんに会えることになったのは、思いのほか早かった。
山田さんが遊びに行くついでに、連れて行ってもらえることになったのだ。
ご主人が大企業の役員の友里さんは、お金持ちらしかった。

高校生の頃友里さんと眼科で出会ったことがあるが、待合室で友里さんの方から声をかけてくれたことがあった。
地味で引っ込み思案な私はそのことが嬉しくて、ずーっと忘れていなかった。
少しずつ少しずつ私に近寄り、

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ゾンビとゾンビ その1

ゾンビとゾンビ その1

友里さんが地元に戻ってきていると聞いたのは、友里さんの幼馴染みの山田さんからだった。
夕子は山田さんを知らなかったのだが、何かの折に同級生だと知ってから、時々会うようになっていた。
山田さんは公務員で転勤もあったし、シングルマザーの上に高齢の両親と暮らしていたので、ものすごく忙しかった。
なのに山田さんは、いつも笑っていた。
自分の不幸な結婚生活のことを話す時も、手のかかる二人の子供の話をする時も

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雨 その2

雨 その2

今朝は雨が降ってたけど、もう止んだ。
低学年は給食もないので、昼で帰宅する。
夕子んちは学校からは遠く大人の足でも30分はかかるので、まじめに歩いても子供なら一時間近くかかる。

いつも一緒に帰るのは、近所のわこちゃん。
わこちゃんはいつも落ち着いていて、あまり感情を表さない。
この頃の夕子は今みたいに品行方正じゃなかったので、槍が飛んできても動きそうにないわこちゃんを、ひそかに尊敬していた。

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雨

出張で来た久しぶりの都会。
地方都市なので都会というほどでもないが、田舎者の夕子にはそれでも十分きらめいて見える。
研修が早めに終わったので、少し街を歩いてみる。
あてもなく本通りから逸れた通りを歩くと、色あせた写真のような店が現れた。
古臭いショーケースには、変哲もないコーヒーカップの食品サンプルが置かれているだけで、他には何も無い。
ここにしよう、夕子はそう決めるとドアを押す。
ちょっと渋めの

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