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ゾンビとゾンビ その1

友里さんが地元に戻ってきていると聞いたのは、友里さんの幼馴染みの山田さんからだった。
夕子は山田さんを知らなかったのだが、何かの折に同級生だと知ってから、時々会うようになっていた。
山田さんは公務員で転勤もあったし、シングルマザーの上に高齢の両親と暮らしていたので、ものすごく忙しかった。
なのに山田さんは、いつも笑っていた。
自分の不幸な結婚生活のことを話す時も、手のかかる二人の子供の話をする時も、介護の必要な両親の話をする時も、仕事との両立でにっちもさっちも行かなくなっている話をする時も、いつも笑っていた。
それは笑顔というのではなく、「笑っている」としか言えない不思議なものだった。
山田さんの目は暗い色のビー玉に似ていた。
澄んでいるいるようで澄んでおらず、奥まで覗けそうで覗けなかった。
そしてニコちゃんマークをコピーして貼り付けたような形の口も、決して崩れることが無かった。

友里さんが夕子の友達だったかと言えばそうではないのだが、夕子は友里さんに会ってみたかった。
だって高校時代の友里さんは綺麗で、化学室の授業で友里恵さんの顔を見ることが出来る位置に座れると、うっとり彼女の顔を眺めるのが夕子のささやかな幸せだったのだから。
友里さんの綺麗さを表現しようとしても、ピッタリな言葉を探せない。
どんな顔が趣味の人でも、友里恵さんの顔を見て素通りは出来ないのだ。
夏休みに見た友里さんの、清楚な夏ブラウスにそっと揺れるスカート。
やや広めのつばのある麦わら帽子、その下にのぞく瞳はダイヤというより黒曜石に近く、目が合ったとたん吸い込まれそうになるのだ。

オードリーヘップバーンの初期の映画で「緑の館」と言うのがある。
若き日のオードリーの妖精のような瞳に吸い込まれそうになったことがあるが、友里恵さんのは、それとは違っていた。
何が違うのかわからなかったし、違っていて当たり前なのだが、「違う❕」とだけ高校生の夕子は感じていた。

続く

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