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冬眠

今とは比べ物にならないくらい冬が寒かった頃、夕子の望みは冬眠だった。
酷暑の最近では夏眠が望みで、「目が覚めたら冬だった」というような体質になりたいと思いながら生きている。
昔の石油ストーブは、今のファンヒーターではなく上部が熱くなるタイプのものしかなかったので、やかんや鍋を上に置くことも多かった。
夕子の部屋にも上が熱くなるストーブがあったが、必要じゃないので上にやかんなどを置くことはなかった。
ある夜、いつもは北側に置いているストーブを、「南側に移動させよう❣」と思った。
理由はなにもなかったが、とにかくそうしたいと思ってしまったので、ずるずる引きずってストーブを移動させた。
意味のない満足感を感じながら布団にくるまって本を読んでいると、天井裏でザーザーと何かをこするような音が聞こえた気がした。
と、次の瞬間、一斉に飛び立つスズメのように、ネズミが突然走り出した。
へ? なんだぁ~?
夕子はしばらく口を開けてぽかんとしていたが、次の瞬間恐ろしい考えが浮かんだ。
ストーブの熱が一番当たる天井裏には、蛇が眠っていたのではないのかと。
ストーブが移動して寒くなった蛇が目覚め、熱を求めて移動したのでは?
突然目覚めた蛇に驚いたのなら、狂ったようなネズミの動きも合点がいく。
怪奇現象のなぞが解けてスッキリはしたが、自分の真上に蛇がくつろいでいるかと思うと、今まで観た中で一番怖いホラー映画の中に閉じ込められていいるようだ。
・・・朝だ。
天井が目に入る。
あのホラーは夢だったのか?、とちょっと安心するも、左足元に見えるのはなんだ?
昨日の朝まで頭の右上にあったはず・・・のストーブがそこに・・・。


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