じゅん

じゅんです。中途視覚障害者です。エッセーや小説や詩を気ままに書いています。現在、絵を描…

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じゅんです。中途視覚障害者です。エッセーや小説や詩を気ままに書いています。現在、絵を描く方法を模索しています。

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最近の記事

詩 滝

土砂降りの雨に 洗われた森 蒸れた土と落ち葉のにおいのすき間から 染み出すような あれは滝の音 白いペンシルの芯が 鼓膜の表面を 縦に横にくすぐる もっと白く もっと濃くと 草を踏み分けて たどり着いた 滝つぼから立ちのぼる水けむりに ほおずりすれば 私も 永遠と瞬間の仲間入り 何一つ 私の知らない しかしすべてが そこにあることだけを 私は知っている

    • 詩 せみの目

      高所と閉所のW恐怖症も 目が見えなくなると なんてことない ハーブ園行きのロープウエイ 友の誘いに 二つ返事で乗り込んだ まぶしい揺らぎの中に 運び出された友と私 パシャパシャと シャッターを切る 友の背後の肩越しに スマホを構えて せみの大合唱を 私もパシャリ 一瞬見えた セミの目に写った景色 青空と小さなゴンドラ 中年女が二人 箱詰めされて ロープにつるされている せみの目で 撮った写真は 実にシュールだ

      • 詩 笹飾り

        太陽は意地悪なスポットライト 隠れようとする場所にまで フレアーを伸ばす 逃げまどうことに疲れた人は 夜の緞帳を求めて空を仰ぐ 動いているのかいないのか わからないくらい ゆっくりと降りてくる幕 藍色のセロファンのように 月明りだけを透かして 昼間の景色を染めていく 柔らかくなった色のアスファルト 交互に踏み出す足が沈みこむ 行きついた夜の底で 短冊にしたためる 太陽を起こさないでくださいと 頭上には周波数の合わないラジオのような音 それは夜空をおおいつくす笹飾り 世界中の人

        • 詩 午前零時

          午前零時を まどろみの中でまたいだ 次の午前零時は ベッドの上 冴えた目で 0が四つ並ぶ瞬間を見とどけた。 雷鳴の今夜 とうとう寝床を抜け出して 窓枠の中の闇に 顔を近づけた 黒い空をいなずまが照らす 眼下に白く浮き上がるのは 街の骨 あらがえないむこう岸に 私の頭蓋の内幕が ニアミスしたような 不可思議な午前零時

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        • 26本

        記事

          『恍惚のモナリザ』(短編小説)のヒントになったもの 視野欠損の産物

          『恍惚のモナリザ』は、モナリザのパズルに夢中になった高齢女性が、何度も壊しては組み上げるうちに、ピースを少しずつなくしていくお話です。それによってモナリザの姿も、奇妙に変化していきます。これは私の眼疾、網膜色素変性症の代表的な症状である視野欠損の体験から生まれました。子どもの頃は、落とした消しゴムがなかなかみつからない、バドミントンのシャトルが空中で突然消える、「あそこ」と指をさされても、星が見えない。成長期になると、ますます視野が欠けていき、今では光が感じられる程度です。で

          『恍惚のモナリザ』(短編小説)のヒントになったもの 視野欠損の産物

          切り貼り絵にチャレンジ イメージ:初夏のローカル線の風景

          全盲なんだけど、絵を描いてみたくてやってみました。 (準備) ①晴眼者の人に色鉛筆の色を教えてもらって、まず、鉛筆一本一本に色の点字シールを貼りました。 ②白い紙の両面に色を塗って、細かくハサミで切ります。切った紙は色ごとに点字を貼った箱に分けて入れておきます。 (制作) ①荷造りひもを画用紙にのりで貼り付けて、大まかな下絵を作ります。 ②空と山、トンネル、畑と川、土手、樹木に大ざっぱに色を塗ります。 ③画用紙にのりをつけて、切った紙をぱらぱらと落として貼り付けていきます

          切り貼り絵にチャレンジ イメージ:初夏のローカル線の風景

          詩 一日三拍子

          やりがいなんて求めちゃいない 流れてきたものを 箱に詰めるだけ よく一年続いたもんだよ 1時間に何千回 割り算すれば一回が 1円に満たない 先は長いよ 資格取りなよ 友に言われてスクールさがし スマホの画面に整列した ~師 ~士 ~ピスト インストラクター マネージャー まるで蝶の標本さ 眺めて「ほう」と 言ってる場合じゃないんだよ あたしがやらなきゃ みんなが困る ひたすらくり返す同じ動作 あとに待ってる冷たいビール あたしの一日三拍子 ちょっと形がいびつだけれど 毎日やっ

          詩 一日三拍子

          詩 砂丘

          胸の中のがらくたが ガタガタと音を立て始めると 足はおのずと砂丘へ向かう きゅっきゅときしり音を立てながら 指のすき間を埋める砂粒 歩めば足は 粉々になったがらくたに溶け出す 仰ぎ見る空と砂丘の接線 目指して歩くと 申し合わせたように遠ざかる 砂丘は 何十億年のがらくたの墓 何十億年のがらくたの材 風紋は できごとのかすかな名残 何もない空に 相も変わらず浮かぶ半月が やがて砂丘に没するころ 私のかかとも 空と砂地の 乾いた二色の奥底の 潤いの中に しっくりと納まる

          詩 紫陽花の花びら 

          一輪の青い紫陽花が ほっとため息をつく夕刻に 花びらを数える どれを数えてどれを数えていないのか 途中で分からなくなって また一から数えなおす こうすれば簡単だよと 一枚一枚花びらを ちぎって数える賢い人には 馬鹿だと言われておこう 今 泣いている人の数を 今 死にゆく人の数を 言えないのは あなたも私も 同じなのだから

          詩 紫陽花の花びら 

          詩 テントウムシの絵筆

          手のひらを大きく開いて 大気にさらす とまったテントウムシが 宙に打った一点 そこが私の中指の爪のありか とコトコトはって降りていく くすぐったい 谷底へ降りたかと思えば また登りにかかる ほんとうにくすぐったい 急に止まって一休み テントウムシは私の絵筆 人差し指のてっぺんから飛び去っても くっきりと見える 初夏の空に描かれたVの字

          詩 テントウムシの絵筆

          詩 私の行列

          あなたの中にいる私は 私にはどうしようもない私 そんな私は 知人一人一人の中にいる それぞれ勝手な色や形の 服を着せられて 化粧をされている ピーと笛を吹いて 私を全員呼び出したら 様々な私ばかりの 長い行列ができた あなたの中から出てきた 不細工な顔の私 皆を引きつれて ほんものの私めがけて 行進してくる 急ぎ足 猫背 ひょうきんもの でくの坊 げんこつで 片っ端からノックアウトしても すぐよみがえる私 ならばと 一匹一匹つまみ上げて 口の中へ放り込んだ 増える胃酸に溺れる

          詩 私の行列

          詩 アイロン 

          左右の肩を 板に押し当て 脇の縫い目をぴしりと伸ばして 熱い鉄を 押し当てる 左脇 右脇 明日私の肉体を包むシャツ しわ一つない 前身ごろ 後ろ身ごろ これを羽織れば 最近出てきたおなかも ペタンとなりそう 猫背だって シャキッと伸びそう ああうれしい 草むしりに加えて アイロンだって 癖になりそう

          詩 アイロン 

          詩 ねんねこ

          昔むかし ねんねこに包まれて 母に負われるのが 何よりも好きだった 真っ暗で温かい あらゆる音が 真綿でくるんだように ほの白く 暗がりに灯った そこは小さな宇宙だった でもまどろみの奥底に あらがえない 波の音でもなく 鼓動でもない 母も私もそこにくくりつけられて 巨大な力で引かれる感覚 あれはなんだったのだろう 地球が回る音? 秒速463メートルの 風の音だったのだろうか

          詩 ねんねこ

          詩 すみません

          つい「すみません」と言っている この一言で理不尽も いったんは影をひそめる そんな便利な言葉 癖になって 互いにむしばんでいる 相手は肥大した足で 荒れ野をこしらえ 私は霧の中で足をくじく しょっぱなのあやまち 裏返しに置かれたカードを 表向きにして 問う勇気を持たなかった

          詩 すみません

          詩 頭数

          街灯が灯る瞬間を見た 瞬きすると また灯る瞬間が見える 瞬間と瞬間の間に とてつもないところへつながる 入り口の気配 軽い興味で中をのぞいて 後ずさり 中は針の孔よりも狭くて 入れそうにないから 肥大した頭たちは つべこべ言わずに 去りゆく秒を数える 頭数にでもなればいいかと あきらめれば チリリ チリリーン 先回りした風鈴が 時の道すがら 鳴り続けている

          詩 私を休みたいとき

          私を休みたいとき 服を脱ぐように肉体を脱ぎ捨てて 旅に出る 黙って人の胸の隅を間借りして 今日はうらやましい人の 今日は憎らしい人の 今日は寂しそうな人の その人が遠目に眺める 私は抜け殻 本物はここにいるよと 鼓膜を内側からノックして はっとその人の視線がそれたら それが旅を終えるとき

          詩 私を休みたいとき