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壁(現代詩に初挑戦)
私の前にある
高くて大きな壁は
すきとおっているけれど
打ち寄せる人々の波の
防波堤だ
こちらは壁の外
そしてあちらも壁の外
壁にははしごがかかっている
触れるとそれは向こう側
どうかみなさん
そんなものには足をかけないで
自分のことばかり
考えていてくださいと
祈る
こっちにおいでと
もしもだれかの手が
壁を通りぬけて
私の手を引っ張ったら
ごつんとおでこを壁にぶつけて
眼球を裏返しにして
暗い
現代詩 おばあちゃんの寝床
点滴のチューブが
おばあちゃんの体を
おなかのあたりで二つに分けている
枕の上の茶髪の頭は
絶え間なく生まれる時間に
かわるがわる抱えられて
どこかへ運び去られてしまった
でもはだしの足は
昔へ昔へと伸びて
いつかのステージの
ハワイアンに絡みつく
気ままに舞う
十枚の爪
光の尾を引いて
細かいふるいを編み上げる
風に舞う
氷点下の粉
炎天下の砂
そこに太陽は
命をあまた寝かせて去った
しゃれこう
詩 眠れない真夜中に
眠れない真夜中に
見つけた
空っぽの物干しざお
水たまりの中の満月
自販機の明かり
光るプルトップ
雀のなきがら
埋めてあげたいけれど
ごめんねとつぶやいて
寝返りをうつと
掛けぶとんのきぬずれが
私を
嫌というほど尊大にする
身動きを止めて
息をひそめると
あるのは
自分の体の形の穴だけ
深い深い穴の底から
聞こえてくる
赤いビーズを連ねたような
救急車のサイレン
ずんずん近づいてくる
熱い
窒
詩 オデュッセウスのひげ
地面に手をかざす
手のひらをくすぐる細い草
連日の雨のあとの五月晴れ
また生えてきた
不死身のオデュッセウスのひげ
つまんでむしり取る
根がぼろぼろと土をくつろげ
小さな生き物のすみかを壊す
お隣さんからもらった除草剤は
やっぱり使わずに返そうと思う
草の生えるところに
古い英雄は
また生まれてくるだろうから
詩 言うことを聞かせたい人は
言うことを聞かせたい人は
言うことを聞かない人が怖いのか
大きな足音をさせてやってくる
言うことを聞かせたい人は
自分の言うことが不安なのか
ゆっくりとしゃべらない
言うことを聞かせたい人の
言うことを聞きたくない私は
どうしたらいいのだろう
考えて思いついた一つ
何度でも聞きますと言って
ICレコーダーをオンにするのはどうだろか
詩 太陽が眠るところ
西日のまぶしい
浜辺に座って
缶ビールとつまみをあけた
不意の風に舞い上がる用なしのレジ袋
砂に足をとられながら
追うこともせず眺める
からめとられた波の舌先
色だけ似せた空っぽのおごり
太陽が眠るところと呼ばれる島に運ばれて
少年に拾われた
これは何をするものなの?
物を運ぶための袋だよ
何から作るの?
石油からね
それはどこにあるの?
地面の下から染み出すの
水みたいだね
赤黒い粘り気のあるね