『恍惚のモナリザ』(短編小説)のヒントになったもの 視野欠損の産物

『恍惚のモナリザ』は、モナリザのパズルに夢中になった高齢女性が、何度も壊しては組み上げるうちに、ピースを少しずつなくしていくお話です。それによってモナリザの姿も、奇妙に変化していきます。これは私の眼疾、網膜色素変性症の代表的な症状である視野欠損の体験から生まれました。子どもの頃は、落とした消しゴムがなかなかみつからない、バドミントンのシャトルが空中で突然消える、「あそこ」と指をさされても、星が見えない。成長期になると、ますます視野が欠けていき、今では光が感じられる程度です。でも、失いたくないのに失わざるをえなかった、そんな体験は私だけでなく、多くの人にある。人生の終わりに近づくにつれて、誰もが否応なく自覚する衰え。その喪失感を欠けていくピースに重ねて、悲観的でなく、少し愉快に描きたい、そんな思いからこのストーリーは生まれました。ちょっと不思議なこのお話、読んでいただけると嬉しいです。


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