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小説ショートショート

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ヨスガ

「やっほー、元気してる?来月実家に帰るんだけど、よかったら久しぶりにご飯でもどう?」

 ピコン、という通知音と同時に画面に表示されたのは高校の同級生からのメッセージだった。

「智花、久しぶり。もちろん!帰国日わかったら教えてね」

 当たり障りのない返信をして、スタンプを送った。智花は高校三年間クラスが同じで、部活も同じだったからそこそこ仲が良かった。お互いが大学へ進学してからは会う機会も減っ

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私の命と、世界の狭間

私の命と、世界の狭間

「綺麗な絵ですね」

 その瞬間は突然訪れて、私はすぐに反応できなかった。かじかむ手をポケットに入れたカイロで暖めながら、なぜ日光はこんなにあたたかいのか、なぜ反比例するように空気は冷たいのか考えて、よくわからないなと結論を出した、穏やかだけどどこか寂しい冬の午後だった。

 東京郊外の、小さな公園で開かれたフリーマーケット。道路に面して作られた花壇沿いのブースD5で、私はひとり絵を売っていた。

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ねぇ、私は、禁忌だろうか。【創作小説ショートショート】

ねぇ、私は、禁忌だろうか。【創作小説ショートショート】

 君は無口だ。

 「おはよう」、といつも通り話しかけたところで「おはよう」とは返ってこない、そんなことはわかりきっているから毎朝私は、ただ君に寄り添って座る。

 一日も欠かさずAM7:00にアールグレイを飲む私と対照的に、君は私が差し出したときしか水を飲まない。ぶっきらぼうに水を受け取り、顔を背けて少し微笑む、そんな君の素直さが好きだ。だけどたまには、一緒にアールグレイを嗜んで、「この香りは好

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