オキシトシンの抗抑うつ不安作用と瞑想の効果
今回も“愛情ホルモン/幸せホルモン”とも呼ばれるオキシトシンに関する4本目の記事になります。その基本的な機能、授乳や子育てにおける重要な役割について(*1)、オキシトシンは肌と肌のスキンシップで分泌が高まること(*2)、そしてオキシトシンは抗ストレス効果があり、瞑想でもその分泌が増加すること(*3)を過去の記事で紹介していますので興味のある方はそちらも読んでみてください。今回はオキシトシンの“抑うつや不安に対する効果”についての研究を紹介します。
今回紹介する研究は「うつ病患者における血中オキシトシンレベルと不安の関係(*4)」というもので2007年にベルギーの大学から発表された研究速報です。研究対象は国際的基準(DSM-IV*5)によって診断されているうつ病患者25人で、女性が18人(平均年齢41.4歳、S.D. 11.3)、男性が4人(平均年齢38.6歳、S.D. 10.4)、全体では年齢幅19〜59歳の患者が含まれました。
25人の対象患者はいずれも精神症状のみで身体的な病気を持たず、研究時点の2週間前から抗不安薬を内服していない、という条件に合う人が含まれました。女性は月経周期がオキシトシン分泌に影響するため、生理不順や月経周期が不規則な人は除外されました。
抑うつの評価にはハミルトンうつ病評価スコア(HRDS/HAM-D, *6)が使用されました。これはうつ状態を自覚的他覚的に評価するもので、「抑うつ気分」「入眠障害」「精神的不安」「体重減少」等といった17項目につき評価しスコアリングする国際的評価方法です。
不安の評価には状態・特性不安検査(STAI*7)が用いられました。これは「気分が落ち着いている」「緊張している」「不安を感じる」「神経質になっている」等といった40項目の質問からなり、それに対して「1(全くない)〜4(とてもそう感じる)」というように被験者自身の今の気分を自己申告する国際的評価方法でスコア化されました。そして精神症状検査当日の血液を採取し、オキシトシンレベルが測定されました。
結果は図1に示される通りで、抑うつスコアとオキシトシンレベル(左)、不安スコアとオキシトシンレベル(右)いずれのグラフも右肩下がりのグラフになっているのが分かります。これは“抑うつ/不安スコアと血中オキシトシンレベルの間に有意な負の相関がある(p=0.003/p=0.005, p値が小さいほど統計学的に有意)”ということを示しています。つまり、“抑うつ/不安スコアが高い人ほどオキシトシンレベルが低い”、言い換えると“オキシトシンレベルが高い人は抑うつ/不安傾向が低い”ということが言えます。
研究著者らの考察では、これらはストレスホルモン(CRFーコルチゾール系)に対するオキシトシンの抗ストレス作用が不十分である場合に不安や抑うつという精神症状が強く出ると推察しています。また一方で、脳内でオキシトシンは縫線核という部位に作用し、セロトニンの分泌を促す可能性があると論じています。このセロトニンの安心感をもたらす作用も抗不安効果につながると考察しています。セロトニンについては過去にも触れた“幸せホルモン”の一つとしてもご存じの人も多いと思います (*8)。オキシトシン−セロトニンシステムは連携して安心感をもたらす、というのは嬉しい情報ですね。
また、もう一つオキシトシンを増やす研究についても紹介します。こちらはユタ大学のLipschintz博士らより2015年に発表された研究(*9)でがん治療後生存者に対して行った研究です。対象は研究参加の3ヶ月以上前にがん治療(手術/抗がん剤/放射線治療等)を受けたことのある30人(29〜74歳、女性21人、男性9人)。被験者らは以下の3つのグループ、i: SHE(従来の睡眠衛生教育)、ii: MM(マインドフルネス瞑想)、iii: MBB(マインドボディブリッジング瞑想)に振り分けられました。
睡眠衛生教育(SHE群: Sleep Hygiene Education, コントロール群)とは従来型の指導で、薬/不安の原因/食事療法/薬の副作用/不眠への対処法などを記した資料を提示して説明が行われるものです。マインドフルネス瞑想(MM群: Mindfulness Meditation)はインストラクターによってマインドフルネス瞑想(呼吸/思考/感情の認識、ボディスキャン、ウォーキング瞑想等)の指導が行われ、3週間実践するというものです(*10)。マインドボディブリッジング瞑想(MBB群: Mind-Body Bridging/Connection)とは、これも瞑想法の一種で視覚/音/感覚に注意を払うプロセスや、「Requirements(要望)」という自分に必要なものの想起によって自分の不安や恐れなどネガティブな感情の原因を引き出すというプロセスからなります。これらによって「気づき」や「心と体の一体感」「自己統一感」を高めていく療法と言えます(*11, *12)。
これらの3つのグループの介入を3週間行うことによって被験者の唾液中のオキシトシンレベル、睡眠障害/抑うつ/幸福感/生活の質/ストレス/“今在る”という意識/自己肯定感についてスコア評価が行われました。結果は図2のようになりました。データが多くて煩雑ですが、右端列の赤い下線部分(各群で有意差が見られた組み合わせ)だけに注目すると良いと思います。
差がついた項目に注目すると、唾液中のオキシトシンレベル/睡眠障害/“今在る”という意識/自己肯定感においてMBB群が従来のSHE群より有意に良いスコア、またMM群では睡眠障害においてのみSHE群よりも有意に良いスコア、という結果が得られました。
この中で唾液中のオキシトシンレベルをグラフ化したものが図3になります。これを見るとMBB群(マインドボディブリッジング瞑想群)で介入後のオキシトシンレベルが有意に上昇しており、さらに2ヶ月後も高い状態を保っていることが分かります。MM群(マインドフルネス瞑想群)では今実験では大きな差は見られず、従来のSHE群ではむしろ初期状態よりも低くなっているという結果でした。
今回は2編の研究論文を紹介しましたがまとめると、
以上のことがヒトの研究で立証されました。
オキシトシンレベルが低い状態では不安や抑うつへの耐性が低下し、精神的な病気につながる可能性が示唆されました。これらへの対策としてある種の瞑想によってオキシトシンレベルを自発的に上げられるということが分かりました。そして習慣的にそれらの瞑想を行うことで長期間オキシトシンレベルを維持できることも示された研究でした。日々の日課として瞑想を行うことが心の平安や身体の健康へとつながります。目に見えない“意識”を使いこなすことで脳を活性化していきましょう。
(著者:野宮琢磨)
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