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”幸せホルモン(脳内物質セロトニン)”を増やす方法

前回までは「脳内物質セロトニンが低下すると、動物実験では攻撃性が高まることが示され、人間においてはセロトニンレベルが高い人ではポジティブな思考パターンが多い」という研究結果を紹介してきました。
このことから、セロトニンが俗に”幸せホルモン”と呼ばれるのもそれなりのエビデンスがあることが判ってきました。
今回はこの脳内物質セロトニンを増やす方法について考察したいと思います。

前回の記事はこちら

ここで一つ注意点として、セロトニンは脳内だけに存在する物質ではありません。最も多いのは消化管由来でセロトニン全体の約90%が消化管にあります。約8%が血液の血小板に含まれるとされ、残りの僅か2%が脳内に存在するとされています(*1)。そして、一般的には消化管で産生されたセロトニンは血液脳関門という脳のバリアを通り抜けられないため、消化管由来のセロトニンは脳内セロトニン量とは直接関連しないと考えられています。この辺りが混同されている情報も見受けられるので整理しながら説明していきます。

・セロトニンの原料:トリプトファン
セロトニンは必須アミノ酸の一つである”トリプトファン”から合成されます(*1)。必須アミノ酸とは、“体内で合成することができないアミノ酸”として9種類定義されています。つまりトリプトファンも外部から摂取するしかないということです。
トリプトファンもタンパク質を構成するアミノ酸の一種なので、肉類や魚介類には豊富に含まれています(*2)。そのほかにはアーモンド、納豆やチーズなどといった食品にも多く含まれているようです(*3)。なのでまずは栄養面で、セロトニンの原料であるトリプトファンが欠乏しないようにこれらの食品をバランス良く摂取することが第一と言えます。

・トリプトファンをセロトニンに変換する際に必要なビタミンB6
摂取されたトリプトファンが体内でセロトニンに変換される際にビタミンB6が必要とされています(*4)。このため、魚介類や納豆・チーズといったタンパク質からトリプトファンを摂取すると同時にビタミンB6も同時に摂取するとセロトニンの産生効率が上がります。ビタミンB6を多く含む食品としてはカツオやマグロといった赤身魚が代表的で、肉類では豚肉や鶏肉にも多く含まれています。他にはバナナやさつまいもにも比較的多く含まれているので、これらを一緒に摂取することが効率良いセロトニン増加につながります。

・セロトニン合成と光
セロトニンのポジティブな効果を推奨する記事には「日光をよく浴びる」ことも推奨されています。これに関してはまだ不明確な点も多いです。カルシウム吸収に関係するビタミンDは紫外線によって体内で代謝が促進されるため、皮膚が日光に当たることがビタミンD産生のために良いとされています。しかし、脳内セロトニンはこのようなメカニズムには当てはまらないようです。これに関しては一般に公開されているオンライン記事でもよく見かけるのですが、その原理や出典について記載されているものはほとんど見当たりませんでした。私もこの専門家ではなくよく分からなかったので調査してみました。

セロトニンと日内周期に関する研究論文の一つが2004年にPinatoらによって報告されています(*6)。この研究ではラットを用いて脳内セロトニンとその日内変動を調べています。先に述べたように体内のセロトニンの大部分は消化管に存在していますがこれらは脳の中には入ってこれないと考えられています。それでは脳内セロトニンはどこで合成されているかというと縫線核(ほうせんかく:raphe nuclei)という脳内領域で産生されています。しかも、この縫線核は1箇所ではなく、背側縫線核 (dorsal raphe nucleus), 内側縫線核 (median raphe nucleus), 大縫線核 (nucleus raphe magnus), 淡蒼縫線核 (nucleus raphe pallidus), 不確縫線核 (nucleus raphe obscures)というように脳幹の中に多数分布し、いずれもセロトニン産生に関与していることがわかっています。

Pinatoらの実験では周期的な照明環境下で飼育されたラットが用いられました。朝の7時に飼育箱のライトを点灯し、夜7時にライトを消灯する、明12時間/暗12時間の規則正しい日内周期が用いられ、栄養が偏らないようにラットの栄養状態も良好に管理されました。その状況下で9時、13時、17時、19時、21時、1時、5時の各時点における脳内セロトニン量が計測されました。
その結果、興味深いことに13時と21時にセロトニンのピークが見られることがわかりました(図1)。反対に最も低いのは17時と5時でした。

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しかし、”照明のオン・オフがセロトニン分泌のスイッチになっているか”という点に関しては研究著者はそのようには考えていないようです。その理由は、“17時頃に脳内セロトニンは最低レベルになるが、その後照明がオフになる19時には既にセロトニンレベルの上昇が見られている”、すなわち照明がオフになる前からもうセロトニン合成が始まっている、ということを根拠に挙げています(図2)。

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この研究では縫線核を部位ごとに計測し、非常に細かく調査していましたが、いずれの縫線核でも同じような周期性が見られました(図2)。この研究で分かったことは“哺乳類の脳内セロトニン分泌には明らかに日内周期性がある”ということです。
そして、この研究は紫外線ではなく人工的な照明装置を用いているので、視覚的に“明るい”か“暗い”かの違いを感じていると解釈して良いと思われます。この実験で言えるのは”ラットに規則正しく明環境と暗環境を与えたら、セロトニン分泌も規則正しい周期性が見られた”ということのようです。

これらの研究結果から分かることは”規則正しく光を浴びて規則正しい生活リズムを持つことは、規則正しく脳内セロトニンが分泌される”と言えると考えられます。そして、自然界で最も規則正しい光というのは"太陽の光”にほかならないと言えます。

また、セロトニンは睡眠ホルモンとも呼ばれる”メラトニン”の原料でもあります(*7:
図3)。このセロトニンが十分にあればメラトニンも十分に生成され、良い睡眠がとれると言えるでしょう。やはり心が満たされていてセロトニンが十分に出ている状態の人は快眠できて、逆にストレスやうつ状態が続くとまず快適な睡眠がとれなくなる、というのはセロトニンーメラトニン合成経路が関与していると考えられます。


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この実験では“照明によって人工的に規則正しい光のサイクル”が再現されましたが、我々の生活においても"毎朝日の光を浴びて目覚め、夜も決まった時間に就寝し、規則正しい生活サイクルを送る”というのは"脳内セロトニンを規則正しく分泌させる”ということに大きな役割がありそうです。
そして、脳内セロトニンが高いほど、以前紹介したように攻撃性が低く穏やかな人格形成をもたらし、夜は十分なメラトニン合成を促進することで快適な睡眠を得られることにもつながると言えます。

今回紹介する“幸せホルモン”脳内セロトニンを多く分泌するには
・原料のトリプトファンを多く含む食事
・セロトニンに変換するビタミンB群の摂取
・規則正しい明時間と暗時間のサイクル(=日の光とともに活動する)
・規則正しい睡眠(メラトニン分泌促進)

が良いと言えそうです。

次回はこの"幸せホルモン”脳内物質セロトニンを瞑想で分泌を活性化できるかどうか、という観点について関連する研究を紹介したいと思います。

(著者: 野宮琢磨)

著者プロフィール
野宮琢磨 Takuma Nomiya  医師・医学博士
臨床医として20年以上様々な疾患と患者に接し、身体的問題と同時に精神的問題にも取り組む。基礎研究と臨床研究で数々の英文研究論文を執筆。業績は海外でも評価され、自身が学術論文を執筆するだけではなく、海外の医学学術雑誌から研究論文の査読の依頼も引き受けている。エビデンス偏重主義にならないよう、未開拓の研究分野にも注目。医療の未来を探り続けている。

引用
*1. https://ja.wikipedia.org/wiki/セロトニン
*2. 日本食品標準成分表2015年版(七訂)追補2017年 アミノ酸成分表編 https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/gijyutu/gijyutu3/shiryo/__icsFiles/afieldfile/2017/11/28/1398244_02.pdf
*3. https://ja.wikipedia.org/wiki/トリプトファン
*4. https://www.icaas-org.com/ja/トリプトファン
*5. 日本食品標準成分表2015年版(七訂)追補2017年 https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/gijyutu/gijyutu3/shiryo/__icsFiles/afieldfile/2017/11/28/1398244_01.pdf
*6. L. Pinato , Z.S. Ferreira , R.P. Markus & M.I. Nogueira, Bimodal Daily Variation in the Serotonin Content in the Raphe Nuclei of Rats. Biological Rhythm Research, Volume 35, Number 3, July 2004, pp. 245-257(13), DOI: https://doi.org/10.1080/09291010412331335797
*7. https://ja.wikipedia.org/wiki/メラトニン

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前回までの関連記事はこちらから



人間の脳、感情、行動…それらはまだまだ未知の領域。それに対する様々な疑問にお答えすべく、現在ドクター野宮が不定期連載にて医学的に検証! 次回は幸せホルモンとも呼ばれる脳内物質「セロトニン」と、昨今ライフスタイルに取り入れる人が増えてきた「瞑想」の気になる関係についてお届け予定。 続報は引き続き「NEW LIFE」でご紹介していきます。どうぞお見逃しなく。

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