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【精神科の勉強法3】精神科の知識をその後どう活かすか:非精神科の医師へ

精神科は病理との直接的関連は小さいが、
診断学が重要である点で実は類似している。
精神科の勉強法について浅学ながら述べる。

【本日の内容】
(1)精神科の概要と勉強法:誤解するなかれ!
(2)精神科のオススメ教科書
(3)精神科知識をその後どう活かすか:非精神科の医師へ👈今日はココ

(3)精神科知識をその後どう活かすか:非精神科の医師へ

まず、文章がただただ長いが読んでいただければ幸いである。日常診療および自身の経験から思うところがある。医療従事者、特に非精神科の医師(になる方)には理解してほしいことである。特に教科書に書かれていることではない。僕自身が思う精神疾患の問題点である。

註:あくまで個人的見解であるので、思うところがあれば医療従事者・非医療従事者のいずれでも、思いの丈なり、意見なり、改善案なり、コメントいただければ有難く思います。なお、デリケートな問題でもあるので(そうでなくてもですが)誹謗中傷のようなコメントは差し控え、建設的なディスカッションができる内容をお願いします。

【精神疾患に優しく、そして理解を】
 医師・医学生・医療従事者向け


1.背景

精神疾患をかかえる人が最初に受診するのはどこだろうか?今では随分改善しているが、【精神科】という診療科がいきなり受診するにはハードルが高い、という風潮が日本にはあると思う。

多くの精神疾患の患者は、自分が精神疾患とはじめ気づいていないように思う。多くの精神疾患の症状は【身体的症状】として出現するし、真の精神症状は【気持ちの問題】として病気の認識がないことが多い

その結果、最初から自分の病気を理解し、精神科を受診することは少ないと思われる。個人的な見解だが、精神疾患患者の多くは、はじめ救急外来を受診をする。特にパニック発作をもつ患者は症状が急性的であるので救急受診が多い。しかも、いざ受診すると「すでに」あるいは「少ししたら」症状が改善することが多い。

【患者さん、一般の方へ】
ちなみに、シリーズを通して【心療内科】という言葉を使わずに【精神科】という言葉を一貫して用いているが、これには理由がある。【心療内科】を全否定するつもりはない。内科という名称を使用するで患者が受診しやすくなるのは確かだと思うし、厳密には【心療内科】と【精神科】のカバーする範囲は若干異なるとは思う。しかし、現実の医療の世界の中で問題と感じるのは、【なんちゃって心療内科】の存在だ。【なんちゃって心療内科】では客引きはできても、適切な患者の診療ができていない。内服薬の不適切な調整(多くは薬の出し過ぎ)のため、本来の疾患のコントロールも悪く、薬の副作用も出て、苦しんだ状態の患者がしばしば救急外来を受診する。多くの医師が経験することだと思う。【精神科】を標榜している病院ではこのようなことは少ない。精神疾患の診療の適切なトレーニングを受けていない一般内科医が【なんちゃって心療内科】として精神疾患を扱うことは不適切である。精神疾患という響きが日本人に抵抗感があるのかもしれないが、精神疾患は基本的には脳の病気であり、心臓が悪い、肺に持病がある、といったことと同じだ。心臓が問題なのに泌尿器科にかかる、これががおかしいとのと同じである。なお、もちろん【心療内科】を標榜している病院でもきちんとした病院はある。


2.医療従事者の気持ち(もちろんすべての人ではないとは思っている)

精神疾患の患者は「精神科 Psychiatry(サイキアトリー)」にちなみ「サイコ」とは流石に言わないが、「プシコ」「P(ピー)」と呼ばれる。医療業界の隠語の1種であるが、肯定的に使われる場合と否定的な意味で使われる場合がある。肯定的に使われるシチュエーションは少ない。鑑別診断で用いられる「VINDICATE」に「P」を足した「VINDICATE+P」というときくらいだ。あとは、救急の担当になったときに「あ~、今日、Pの患者がきて大変だったよ~」とか「昨日プシコ多かったんだよね~」という感じだ。悪気はないのであるが、気を悪くする人はいるだろう。このような発言があることは一医療者として申し訳ないと思う。ここに載せるべきかも悩んだが、僕自身ここに問題点があると感じているので、載せることとした。

救急外来は一般に「今すぐ治療が必要な急性疾患を見つけ治療に結びつけること」を目的としている。その観点からすれば、精神疾患は「自殺企図」がある場合を除いて緊急性はないのである。医療従事者の多くはわかっている。ああ、この患者さんは身体疾患ではなく、精神症状だな、と。

「落ち着いたら精神科を受診してください」
「症状が繰り返すようなら心療内科に相談してみてください」
「またきつくなったら、もう一度受診してください」

これで終わることが多いのではないだろうか。家族にも説明し、安心してないだろうか。僕の個人的見解からすると、これでは患者は救われないケースが多いと思う。

【サイドメモ】
VINDICATE+P とは、鑑別診断を上げる際に病態生理学的な視点からみる方法である。それぞれ頭文字となっており、
V:Vascular(血管系)
I:Infection(感染症)
N:Neoplasm (良性・悪性新生物)
D:Degenerative(変性疾患)
I:Intoxication(薬物・毒物中毒)Iatrogenic(医原性)Idiopathic(特発性)
C:Congenital(先天性)
A:Autoimmune(自己免疫・膠原病)
T:Trauma(外傷)
E:Endocrine(内分泌系)
P:Psychogenic(精神・心因性)/Pregnancy(妊娠)
の意味である。これに解剖学的の病変部位を組み合わせて鑑別診断を挙げていく。なお、この方法は見落としをなくす、という意味合いが強いと個人的には思っている。VINDICATE+P で考えても正直ピンとこない。訓練が足りないかもしれないが。


3.患者のことを考える:精神疾患への理解と共感を

先に述べたように、精神疾患の患者の多くは、自分を精神疾患と自覚していない。それは多くの場合、頭痛、めまい、倦怠感、嘔気、冷汗、手足のしびれ、息苦しさ、今にもどうにかなりそうな感じ、いてもたってもいられない感じ、何にせよ身体症状と思って受診するのである。

患者の立場からすれば、苦しいから受診しているのだが、少し時間が経って落ち着いたら帰される。帰されるのはいいとしても、単に帰されるだけだとほぼ必ず症状は再発する。これは絶対に避けなければならない。治療が遅れ、症状を繰り返すたびに精神への負担は大きくなり、社会復帰にかかる時間が長くなる。

精神科を受診するように言われて帰されたとしても、精神科を受診するというハードルが高い。これは患者および患者家族に自覚がないことが多いので、本当によくよく説明する必要がある「まさか自分が精神疾患なんて」と多くの患者は思うものである。十分な理解が得られ、きちんと理解してくれているのであれば、そのまま帰っていただいていいだろう。

もし症状が苦しく、しばらく安静にしていてもよくならないのであれば、ベンゾジアゼピン系を使ってあげた方が楽である。病院に来てまで辛いまま寝かされているのは結構しんどい。もちろん器質的疾患の除外は必要であるが、精神症状と確信が持てれば、個人的にはできればためらわず使ってあげてほしい。苦しい時間が長ければ長いほど、それがトラウマになる。

症状がきつくて帰るのが難しそうな場合は、そのままその足で精神科を受診してもらうのも手である。夜間であれば(大抵夜間のことが多い)、一旦入院してもらい、翌日に精神科受診の手はずを整え、そのまま受診してもらうのがいいかもしれない。

実際、帰して受診してくださいと言っても、精神科をいざ受診しようとしたときには、予約待ちで何週間も待たされることがザラである。精神科に通い始めてもそう簡単には治療効果が出てこない、など問題は山積みなのである。治療を始めても、本当にある程度落ち着くまで時間がかかる。


救急また一般内科外来は精神疾患の入り口である

たしかに、その場で命の危険はない。急がなくていいようにも思える。しかし、治療が遅れれば遅れるほど、患者の社会復帰にかかる時間は長くなる。今は大丈夫だから、ではなく、今ここで適切に受診させないと、と思って精神科紹介をできれば、患者の人生の辛い時間が何か月も何年も減るかもしれないのだ。たらいまわしにされ続け、社会復帰に何年も要する、長期の入院を余儀なくされるという状態になる前に、医療者は気づいて対処してあげなくてはならない。

以上が僕の考える非精神科の医師・医療従事者に必要な姿勢である。


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