マガジンのカバー画像

往復書簡・ゆのみのゆ

12
よし野、雨季、香央。学生3人で交わす往復書簡。日々のこと、文学のこと、そのほか好きなカルチャー、ちかごろの関心分野のこと、等々。週交代で、送りあいます。ゆのみのなかの、温かいおさ… もっと読む
運営しているクリエイター

記事一覧

往復書簡ゆのみのゆ 十二通目

往復書簡ゆのみのゆ 十二通目

雨季さん、よし野さんへ

ご無沙汰しております。今年は自分の中で公私ともに大きな出来事が重なる時期で、このお手紙も滞らせてしまっていました。

近況報告としては、実習、レポート期間、試験準備にそれぞれ一か月ずつ取られてしまい、それにワクチン接種で熱を出すなんて言うことも重なったのであまり自分を芸術に浸せている感覚がないのですが、一番衝撃だったのは『なっちゃんはまだ新宿』を観たことです。二年前くらい

もっとみる
ゆのみのゆ・十一通目

ゆのみのゆ・十一通目

ねもちゃん、香央さんへ

またまたずいぶんご無沙汰してしまいました、ごめんなさい。

メールもそうなのだけど、返信って読んだ瞬間に返さないと永遠に返さないかものすごく時間が空いてしまうかのどちらかになってしまうのですよね。よくないくせです。

近況報告としては、東京を離れました。というところからでしょうか。
おそらくこの時期に東京を離れることになるだろうというのは去年からずっとわかっていたことで腹

もっとみる
往復書簡ゆのみのゆ 十通目

往復書簡ゆのみのゆ 十通目

雨季さん、香央へ

初夏ですね、いや、6月に入ったのだから梅雨というべきなのかもしれないけれど、今日はカラッと晴れていて、暑い。それに近頃は草木の緑も空の青も日に日に濃くなるし、迫りくる夏の勢いにつぶされてしまいそうな、気を抜くとすぐ眩暈で倒れてしまいそうな、そんな6月のはじめです。私も書簡を送るのがずいぶんと遅くなってしまいまして、お待たせして申し訳ない、ですが、手紙や書簡というのは待つのも楽し

もっとみる
往復書簡ゆのみのゆ 九通目

往復書簡ゆのみのゆ 九通目

雨季さんへ

 ご無沙汰しています。こんなに長い間溜お便りせずにすみません。書かないと、という思いは頭の片隅にありつつも、少しずつ少しずつ先延ばしにしていたところ、前回のお手紙の日付を見て戦慄して、今これを電車の中で書いています。卒論の目処が立たず、図書館に行けば解決するような気がして、学校へ向かっているところです。
 林芙美子がお好きだと前回の書簡でおっしゃっていましたが、わたしも好きです。少し

もっとみる
往復書簡・ゆのみのゆ 八通目

往復書簡・ゆのみのゆ 八通目

よしのちゃんへ

こんにちは、ご無沙汰しています。

ついに新年度が始まってしまいました。よしのちゃんは休学ですね、実りの多い一年となりますように。

わたしは晴れて社会人になりましたが、これから身を置く組織に10月から通ってそれなりの修羅場を通ったので澄んだ瞳で出社する新社会人にはなれませんでした。そもそもみんな自宅からオンラインですし……。

というわけで、気持ちの上では2~4月が学生から社会

もっとみる
往復書簡・ゆのみのゆ 七通目

往復書簡・ゆのみのゆ 七通目

雨季さんへ

 ふと、降りたことのない駅に降りたい気分になって、今日は、家からそう遠くもないけれど今までにきた記憶はない街を歩いています。駅から少し歩けばすぐに住宅街の、そして小さな神社がある街です。いまは2軒目のカフェに入りまして、そこではフランスのラジオが流れています。私が通っていた高校は、国際関係に力を入れているところだったので、かつて私もそこの授業でフランス語を学び、2年の終わりにはプログ

もっとみる
往復書簡・ゆのみのゆ 六通目

往復書簡・ゆのみのゆ 六通目

雨季さんへ

卒論お疲れ様です。私も今年度は卒論や研究計画書に追われる日々を送る予定なので、戦々恐々としています。『雨月物語』映画になっているのは知っていたのですが、残酷な描写があることが分かっている映画に手が出ず、そのままになっています。文字の上での残酷な描写は最近大丈夫になってきたのですが、映像の中ではどうしても慣れません。以前大島渚『儀式』を観たのですが、途中がかなりきつかったです。でも画や

もっとみる
往復書簡・ゆのみのゆ 五通目

往復書簡・ゆのみのゆ 五通目

ねもちゃんへ

2周目にしてこんなに溜めてしまってたいへん申し訳ないです。
もともと書きものができるペースにかなりムラがあるタイプなのですが、卒論を書きおえたら本当になにも書けなくなってしまいました。
気分に頼らずに一定のクオリティで書き物を続けるのが大学4年の目標だったので「しっかりしてよ」という気持ちが自分にもあります。がんばります。

前回のお手紙でわたしと仲良くなれてうれしいというような旨

もっとみる
往復書簡・ゆのみのゆ 四通目

往復書簡・ゆのみのゆ 四通目

雨季さんへ

こんばんは、最近はずっとレポートを書いていたので、ひとつ、またひとつとこなしている間に一月は終わってしまって、こうして淡々と目の前のことをやり続けているうちにすぐに春になってしまうんだろうなと、それ自体は楽しみではありつつ、あまりに早い時の流れを前にしてぶるるとふるえてしまうような怖さもあって、今日は夕飯に恵方巻を食べながら、そんなことを考えていました。

緊急事態宣言も延長が見込ま

もっとみる
往復書簡ゆのみのゆ 三通目

往復書簡ゆのみのゆ 三通目

雨季さんへ

こんにちは。お手紙を読んで、ちょうど私が話そうと思っていたことを問いかけてくださったことに驚いています。香央は「かさだ」と読みます。(難読)これは上田秋成『雨月物語』の「吉備津の釜」から取りました。主人公の吉備津神社の娘、香央の「磯良」が私の本名に近い漢字なので、もとは「磯良」の名でTwitterをやっていましたが、大学用の連絡アカウントとして「かさね」を作ったので、それに合わせて読

もっとみる
往復書簡・ゆのみのゆ 二通目

往復書簡・ゆのみのゆ 二通目

よし野ちゃんへ

こんにちは、ひきこもり仲間の雨季です。
わたしは16歳のときに本格的なひきこもりになろうとしたことがありますが、家から一歩も出ないのは3日が限界でした。
おうちにずっといるのは良くないことなのだとつい一年前まで思っていたし、まさかずっと家にいることが推奨される世の中になるなんて考えたこともありませんでした。世界が想像力の外側に来てしまったなとさいきんはよく思っています。

世界の

もっとみる
往復書簡・ゆのみのゆ 一通目

往復書簡・ゆのみのゆ 一通目

雨季さんと香央へ

まだ17時にもならないのに、外が暗い。こんな日々にはもうなれっこ、というより、あきあき、という方が、しっくりくるもので、今日はとくに寒くて仕方ないし、やっぱり春が待ち遠しくなる、そんな一月の半ば。

年が明けてから、もうずいぶん経ったような気もする。年末は、個人的にすこし大変なことがあって(雨季さんにも香央さんにもおはなししていたっけね、その節は、話を聞いてくれてありがとう)、

もっとみる