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往復書簡ゆのみのゆ 三通目


雨季さんへ

こんにちは。お手紙を読んで、ちょうど私が話そうと思っていたことを問いかけてくださったことに驚いています。香央は「かさだ」と読みます。(難読)これは上田秋成『雨月物語』の「吉備津の釜」から取りました。主人公の吉備津神社の娘、香央の「磯良」が私の本名に近い漢字なので、もとは「磯良」の名でTwitterをやっていましたが、大学用の連絡アカウントとして「かさね」を作ったので、それに合わせて読みの近い「香央」に変えた、とこういうわけです。(ここで雨季さんが私の本名を知らない可能性に思い当たりました。いつでも連絡ください)この「吉備津の釜」については個人的に思い入れがあって、なんとなく磯良と自分が似ている気がしていとおしいのですが、その話はまた今度にします。
丸実商店、いい古着屋さんですよね。初めて買ったのは透ける素材の、紺色の地に濃いピンクで細かなパラソルの柄が浮き出たボウタイブラウスでした。ボウタイが異常に好きなので、私のクローゼットにはボウタイの似たような形のブラウスが四枚もあります。この間ZARAのオンラインショップを見ていたら、丸実で買ったのとそっくりな台形スカートがあってびっくりしました。でも、現代の量産ものにはない、後ろの飾りポケットとか裾の隠しボタンとか、着るにつれて明らかになるディテールが古着の魅力です。丸実の服をドレスコードにオフ会をしたいものですね。早く春が来て欲しいです。


よし野さんへ

 レポートで疲れた頭でこれを書いています。よし野さんの方には生活のことを書こうかなと思ったので、おうちでしていることを書きます。煮だした紅茶に適当に牛乳とスパイスを入れてスタバごっこをしたり、母の煮たお汁粉を勝手に餡子に変えたりと忙しい日々を送っています。
なんだか、自分の勉強について、頭がうまく働かなくて歯がゆくてたまりません。そんな時期もあるのかな。近頃唯一外に出るのがバイトなのですが、国語の文章が難しくなり、比較的複雑な構造を取るものが多くなってきたので、予備校の現代文の先生のことを思い出しています。よし野さんはもしかしたら取っていなかったかもしれないけれど、丁寧に言いかえや具体例、補足などを取ってから論を抽出してゆく先生で、今でもまだ「同内容が~」と張り上げられる声が頭に残っています。おかげで言いかえをいつも同内容と言ってしまい、言い直しています。おんなじ意味だけどね。
 レポートのおかげでネット上に公開されている論文を検索しまくった結果、意外にも多くの資料があることに気づきました。でもやっぱり、図書館でふらふらと本を探しながら、要る本でなくて全く違うものを借りてきてしまうような、そういう偶発的喜びに替わるものはなくて、改めて紙媒体っていいな、と思っています。
偶発的喜びといえば、私は小さな嬉しい出来事のことを「偶然の祝福」と呼んでいます。これは小川洋子さんのエッセイの題名で、とても心にしっくりくるなと思って名付けました。この「偶然の祝福」たちのことも話したいのだけれど、それはまた次の書簡で。

p.s 読みさしの詩集 川野芽生『Lilith』
 聞いていた曲 ラフマニノフ2番 辻井伸行

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