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Kagura古都鎌倉奇譚【壱ノ怪】星月ノ井、千年の刻待ち人(18)

18:かぐら、玉響に涙す

また、長谷に来てしまった。

星月の井とはインターネットによると
極楽寺切通ののぼり口に虚空蔵堂(こくうぞうどう)が一段と高いところあり、そのお堂の手前の道の脇に井戸がある。この井戸が「星月夜の井」(ほしずきよるのい)または「星の井」あるいは「星月の井」とも云われている鎌倉十井の一つである。星月夜の井 新編鎌倉志に次のように述べています。 
「昔はこの井戸の中に、昼でも星の影が見えたのでこの名が付けられた。 ある日、近所の人が誤って包丁を井戸の中に落としたので、このとき以来星影が見えなくなりました。」
と言う由来がある。
また、こうも書いてある。
星月夜は昔は地名であったという説があり、北国紀行(ほっこくきこう)によると
「極楽寺に到る途中に、 大変に暗い山道に星月夜と云う所があり、昔はこの道に星月堂がありました。 古僧の言うには歌に『今もなを星月夜こそのこるらめ、寺なきたにの、闇の燈』とある。 星御堂と云は、この虚空蔵堂の事であると言はれています。今按ずるに、この谷の名を星月夜と云う。 あながち井の名にあらず。」と昔からの地名であると述べているという。

星月の井の横には虚空蔵堂あるいは星月寺と呼ばれる寺がある。
もとは明鏡山円満院星井寺といい、天平時代、行基大僧正がこの地で虚空蔵法の修行を行った時、この井戸が光り輝いたので近在の人を集め、井戸の水を汲み出した。すると、井戸から黒光りした石が現れたのでそれを祀ったと伝えられている。この石と虚空蔵堂は現在は向かい側の成就院が管理しているそうだ。

新編相模国風土記稿によると
「慶長5年6月に。 徳川家康が京都からの帰り道に鎌倉に立ち寄り、 その際に星月夜の井戸を見物してから雪の下に到着したとの記録があるので、 昔から星月夜の井と言われたであろう。」と書かれています。昭和初期ごろまでは、ここの井戸で水が売られていたそうだ。


目の前の星月の井の鎌倉青年団の史跡碑を見上げて、星月の井を見る。
屋根の蓋がされていて、今はのぞき込むことができない。松の木が計算されたように井戸の方へ伸びていてなかなか風情があるが、左横にはゴミ置き場があって何だか地域の生活感を感じる。ここに昔木が覆い茂っていたとは今や想像もつかない。

上を見上げると階段を数十段登った先に小さな社があった。石段の両脇には白い地に虚空菩薩と黒で掛かれた旗がずらっと並んでいる。
源氏の旗の雰囲気を出しているのだろうか?


「その後数百年を経て源頼朝公もこの菩薩を崇敬し、ご本尊虚空蔵菩薩像を秘仏として三十五年に一度だけ開帳し衆生にそのお姿を拝することが 出来るとされております」

小舞千さんがそう携帯に表示されているインターネット情報を読み上げてくれている。
それを烏天狗やら狐少女やら、子龍やらがこぞって覗き込んでいて自分が全然見えない。子龍の為にしゃがんでいるので全員小さな輪になっている。
まあ、傍から見たら2人が超至近距離で携帯をのぞき込んでいるという風に見えるはずだが・・・。

「それで神楽、何か感じるものがあるか?」

狐少女がわくわくと小さな唇を弧にして自分をキラキラと見て来る。

「何でそんなに楽しそうなんだ?」

そう言うと彼女は笑いながら“何を言うか”と目を丸くした。

「お主らの状況が複雑すぎてこんなおどろおどろしくなってしまっておるが、本来ならお主ら華絵巻師の物語は美しくも楽しいものじゃぞ?どんな舞になるか楽しみじゃのう」

尻尾があれば振られているかのような楽しそうな姿に面食らった。
これだけ恐ろしいことが起きているのでよく夏にテレビでやっている心霊系のことが続いていくと思ったのだが、“楽しみにしている”と言われた。
それが何だかとても目から鱗だった。
さきほどから瞬きすると女性の姿と山の中の狭い道が見える気がするが、それは気のせいだと思う。何しろ一瞬だ。

立ちあがって屋根で塞がれている井戸を見た。
使わなくなった井戸は祈祷をし、こうして蓋をするのだということを聞いた気がする。そして、そのすぐ先に階段があり、ちらりと社の屋根が見える。

「とりあえずあの上にでも行ってみようかと思います」
「わかりました。行きましょう」

そう言う小舞千さんの顔をちらりと盗み見る。
真剣な瞳で井戸を見てから、虚空菩薩が鎮座する星月寺こと虚空像堂を見上げてスタスタと歩いて行く。
何かあれば彼女が見えたり感じたりするはすなので、今の所大丈夫なのだろうと思う。
しかし、あれだけ大変な目に遭ったのだからどこかで何かがへんになるのではないだろうか?と勘ぐってしまう。

狐少女達もどんどん先を歩いて行くのでゆっくりと後に着いていった。

「神楽、重い?大変?」

すぐ隣を子龍が歩いて…というか重力を感じさせないような若干浮いている足取りで着いてくる。歩いてるふりにしか見えない。

「大丈夫。大変じゃないよ」
「・・・神楽、嘘つくから…私、心配だ」

そう言うと子龍は小さな手で自分の左手を取り、握り込んできた。

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ご興味頂きましてありがとうございます。書き始めたきっかけは、自分のように海の底、深海のような場所で一筋の光も見えない方のために何かしたいと、一房の藁になりたいと書き始めたのがきっかけでした。これからもそんな一筋の光、一房の藁であり続けたいと思います。どうぞ宜しくお願い致します。