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シロクマの子

あるところに真っ白なからだのシロクマがいました。
シロクマは一度でいいから自分のからだが真っ黒になったのを
見てみたいと思っていました。

「黒くなったらもっと強くてかっこよくなれるかなぁ」

そこでシロクマは真っ黒になるために
「黒」を探す旅にでることにしました。

シロクマはまずパンダに出会いました。

「おや、こんなところで何をしているんだい?」
そこでシロクマは訳を話しました。
「すてきだね。その黒いところ」
「そうかいそうかい。それじゃあ君にわたしの黒いところをあげよう」
そういうとパンダは自分の黒いところをシロクマにあげました。
パンダは黒い部分がなくなり、からだ全体が真っ白になりました。
シロクマはお礼を言ってまた歩き出しました。

シロクマは次に黒猫に出会いました。

「あら、こんなところでどうしたの?」
そこでシロクマは訳を話しました。
「すてきだね。その黒いところ」
「ふふふ。それじゃあ君にわたしの黒いところを差し上げましょう」
そういうと黒猫は自分の黒いところをシロクマにあげました。
黒猫は黒い部分がなくなり、からだ全体が真っ白になりました。
シロクマはお礼を言ってまた歩き出しました。

シロクマは今度は海苔に包まれたおにぎりに出会いました。

「やや、こんなところで何をしているのだ?」
そこでシロクマは訳を話しました。
「すてきだね。その黒いところ」
「そうかそうか。それじゃあ君にわたしの黒いところをあげるとしよう」
そういうとおにぎりは自分の黒いところをシロクマにあげました。
おにぎりは黒い部分がなくなり、からだ全体が真っ白になりました。
シロクマはお礼を言ってまた歩き出しました。

みんなから黒いところをもらったお陰で
とうとうシロクマのからだは「真っ黒」になりました。

シロクマは鏡の前で真っ黒になった自分の姿を見つめます。

前を見て
後ろを見て
お尻を見て
両手をあげて

シロクマは自分が望んだ通り
どこもかしこも真っ黒になりました。

けれどシロクマは気づいたのです。

「これは僕じゃない」

シロクマは「真っ黒」になってみて、やっとわかったのです。

みんなひとりひとり違うことは自然なことであり
またそれは、とても大切なことであると。
みんながくれた「黒いところ」は
やっぱりみんな「それぞれのもの」だということを。

「よし。みんなに黒を返しにいこう」

シロクマは今度はみんなの元へ
黒いところを返しに行くことにしました。

パンダは喜びました。
「やっぱりこの黒がなきゃ自分じゃない気がしてね。感謝するよ」

黒猫も喜びました。
「やっぱりこの黒じゃなきゃなんだかしっくりこなくて。ありがとうね」

もちろん、おにぎりも喜びました。
「何度も塩むすびと間違えられたわい。やっぱりこの黒がないとな。助かったよ」

シロクマはみんなにお礼を言われました。
シロクマもみんなにお礼を言いました。
助けてくれたみんなはとても優しいひとたちでした。

「シロクマはやっぱり白いのが一番だね」

シロクマは忘れかけていた自分の良いところを思い出しました。

そしてそれはシロクマが初めて真っ黒になったからこそ
気づけたことでした。


(おしまい)



ではまた。

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