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茜(家族)

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茜(あかね)という女性の家族を巡る物語です。 家族の個々を織り込みながら、時空は散文的に進みます。
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箸が落ちた

箸が落ちた

ある日、台所仕事をしていた時に手が滑って箸を落とした。
2本の箸が古い台所と一緒になったリビングで転がる。

コロコロ。。
あっ、やってしまった。と、母が思った瞬間、リビングの椅子に座っていた父から声がかかった。

「すみません。私が悪いんです」

なんの事だろう。
箸を落としたのは私なのに、なんでこの人が謝るだろう。
リビングでテレビを観ていたと思ったのに、箸が転がる音なんて、聞こえたの?
私の

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15.ぼくを探しに

15.ぼくを探しに

「ぼくを探しに」という絵本がある。
もう40年ぐらい前の絵本だ。

この絵本が、茜の人生に大きな影響を与えている。

絵本は、欠けている なりそこないの主人公の 丸 が、自分にピッタリのカケラを探す為に、クルクル回って旅をする話だ。

この絵本の欠けた丸は自分だ!!と、新宿の本屋さんで出会った時に直感し、すぐにその絵本を買って握りしめた。

絵本に出会ってから、10年後。

自分のカケラと、運命?

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14.2つで1つ、あるいは母と娘

14.2つで1つ、あるいは母と娘

二つで一つ。
この言葉は茜にとって、ずっと呪縛の言葉だった。

茜がまだ20代の頃、会社の上司からプレゼントされた高級旅館の宿泊券で、母と2人で旅行をした事があった。

宿に着いて、
美味しい料理を食べ、
寝たことも無いようなフワフワのベッドで寝て、
気持ちよいお風呂に入り、幸せな1日だった。

翌日、観光タクシーに乗って1日案内をしてもらうという贅沢をした。

タクシーの中では、父の話、会社の話

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13.アルバム

13.アルバム

茜の家には、過去のアルバムがほとんどない。

幼い茜がどういった顔をして、何に喜んでいたか
若い母がどんな手料理を家族に振舞っていたか。
若い父が、茜をどんな眼でみていたか。

そして、家族てどんな所に旅行に行ったか。

すべて、各自の頭の中のアルバムの中だ。

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ある日、茜が
「私の赤ん坊の時からのアルバムが見たいのだけど、ある?」と、母に尋ねた。
「えっ??ないよ、そんなの」

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12.白くて大きな丸いケーキ

12.白くて大きな丸いケーキ

白くて大きな丸いケーキは、家族の象徴。。。

夕暮れ、
お父さんは、白くて丸い大きなケーキとプレゼントを持って家路を急ぐ。

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茜は、ダンナさんと一緒に暮らし始めるまで、クリスマスや誕生日をお祝いし、
丸い大きなホールケーキというものを、食べたことがなかった。

だから、ダンナさんと暮らし始めた最初のクリスマス。彼が大きな丸いケーキを買うと言い出した時、本当にビックリした。

えっ!

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11.パートナー ダンナ

11.パートナー ダンナ

茜とダンナは同棲から始まり、結婚式、新婚旅行、結婚リングなと、およそ「結婚」というものに、女の子が夢みるものを、ことごとくやっていない夫婦た。
オマケに、「家族」を構成するための子供もいない。

なんで、こんなにないない尽くしで、「籍」をいれたのか。
経済的に2人に余裕がなかったというのは、たぶん言い訳で、2人共あまり「結婚というセレモニー」が重要ではなかったのだと思う。

@@@@
茜の収入とほ

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10.雪の道 ダンナ(母)

10.雪の道 ダンナ(母)

その日、関東地方は深夜から降った雪で、道路は雪景色だった。

茜は、その日箱根まで車を運転して、母と柴犬を連れて温泉を予約していた。しかし前日ダンナと言い争いをしてしまっていた。

なにが原因でいい争ったのか、覚えいない。
たぶんダンナは、何回目かの免停で仕事かできなくなっていて、イライラしていた時期だったかもしれない。

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雪の日の出発の朝は、雪は止んでいた。
しばらく雪道を普通に車を運転

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9.前に行かないと 母

9.前に行かないと 母

茜は、母を好きだと思っていたいが、苦手だ。

どうして今、表裏の言葉になるのか分からないが、こんな言葉になってしまう。

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ここで立ち止まっていてはいけない。
前に進まないと。

母が無意識に呟く、呪いの呪文だ。

彼女は、自分が上手くいかなくなる(父と喧嘩をした時など)と、娘の茜に愚痴を話し最後にこの言葉を呟く。

以前、茜が母に話していた愚痴(ダンナの事や、茜の病気の事など)の最後にも

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8.夕食をたべる

8.夕食をたべる

茜の家庭は、4人一緒にご飯を食べる事がない家庭だった。

弟は、自分の分をなぜか、自分の部屋で1人で食べ、父は晩酌をしながら、つまらなそうにTVを見て食べ終わると自分の部屋に篭る。
茜は、父が部屋に行った頃にバイトから帰り母と話ながら1人ご飯を食べる。

母は、父と食べていたのだろうか。。
母が美味しそうに食卓を囲んだ光景が、茜には浮かばない。

茜は、そんな家族の姿が嫌いだった。

だから、茜が

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7.えんぴつ 父

7.えんぴつ 父

その日、茜は父が誕生日だと母に聞いたので、自分の中でできる限りの誕生日プレゼントを用意した。それは.茜のお気に入りのえんぴつとノートだった。

夜、ドキドキしながら父を待った。

「はい、茜からの誕生日プレゼント」
つまらなそうに、袋を開ける父。
「ありがとう。でも、いらない」

その誕生日プレゼントは、茜の手に戻ってきた。

。。。一体、何歳位の時のエピソードだろう。父との少ないエピソードの一つ

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6.大きな人、父

6.大きな人、父

茜の父親は、凄く身長も高く185センチ以上あり、体格もいい。世の中の父親という者はみんな大きい人だと思っていたので、友人の家で小柄なお父さんをみてビックリした程だ。

父との最初の思い出は痛い。

一緒にお風呂に入り、お風呂の煙突(当時は、風呂桶の横に煙突が出ていた)で、腕を大きく火傷をした所から始まる。
大きな父と、小さな私(なぜか、何歳頃なのか全く覚えていない)が2人でお風呂に入り、火傷をして

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5.子供

5.子供

茜は34歳になっていた。

1人暮らしをして、ダンナさんになる男性と同棲をしていた。2人の同棲生活は経済的にも余裕がなく月末には、いつも茜は頭を抱えていた。

そんな時、茜はお腹がどうしても痛くなり、ネットで調べて3つ先の駅の産婦人科に行った。

「茜さん、手術をして子宮筋腫を取り覗かないと、赤ちゃんは望めないよ」医者は、残酷な事を茜に宣告した。

「茜さんの場合、子宮筋腫をとっても、妊娠はしにく

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4.母の生家と、父の生家

4.母の生家と、父の生家

母と、父は隣町住まい出会った。当時の主流であったお見合い結婚で結婚している

父の生家は、牛乳屋さんで12人兄弟の三男。12人兄弟なので、勉強部屋などはもちろんなく、屋根裏部屋のようなところの一角に勉強机をおき、そこがスペースで、あったときく。
高校卒業後、硬い今の仕事につく。

母の生家は、繊維工場。
手広く事業をしており、一時は母の娘の頃は女工さんがたくさんいたそうた。
3人兄弟の中の、真ん中

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3.おばあちゃんが死んだ

3.おばあちゃんが死んだ

3日前、茜の父方のおばあちゃんがしんだ。

その日、父が珍しく早く帰ってきた。父は自分の部屋に行くまでに茜の部屋の横を通る。茜は、その時課題の絵を描いていた。

「もう、嫌だ」「やめたい」うめくような声が聞こえた。その声は、父から発生られていた。

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食堂兼リビングに、家族全員が父によって集められた。
父が口を開く

「会社をやめようと思う」
「なに、勝手な事言っているの!」
「俺は、どうな

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