見出し画像

怨霊鎮魂使 第1話

【あらすじ】
 歴史の表舞台には姿を現わさない怨霊鎮魂使なる者がいる。
 一説には、小野篁が閻魔と協議し設けた職ともされ、怨霊を召喚する怨霊召喚士、怨霊と交渉する怨霊交渉士がタッグを組み、非業の死を迎えた怨霊の祟りを鎮静化させてきた。
 江戸時代初期には、優秀な怨霊鎮魂使が現世に強力な結界を張ることに成功した。これによって、大きな祟りを未然に防ぐことが可能となった。
 この強力な結界のもとで月日は流れ、怨霊は弱体化し、いつしか召喚士と交渉士はバラバラになった。
 だが、今、その結界が、時間の経過とともに弱まっていた。
 怨霊鎮魂使の血を受け継ぐ高校三年生の、北畠翔太と橋本希美が、現世を救うために立ち上がる――。


第1章 北畠翔太は、18歳の誕生日に決意する
 

 ぐらり、と来た。
 また地震? なんか、最近、地震多くね?
 2階の俺の部屋が揺れやすいのか? この木造一軒家の耐震どーなってんだよ。
 1階のリビングルームに行くと、真っ先に、じーちゃんのハゲ頭が目に入る。カーペットで正座をしながら時代劇を見ているじーちゃん。あのさ、俺、テレビ見たいんだけど。土曜の夜8時は俺が優先って、何度言えば分かってくれるのかな。

「じーちゃ――」

 声を出している途中で、テレビ画面の端っこに、【山口県で震度5強】と表示されていることに気づいた。
 山口県? ここは千葉県だぞ。俺が住んでいるのは千葉県船橋市だ。震源地が山口県で、千葉県も揺れるってどういうことだろ。どうやら千葉県は震度4みたいだ。

『どうもこうもあるかぁあっ!』

 テレビ画面では、武蔵坊弁慶と思われる人物が薙刀を振り回している。弁慶に向けて放たれた矢を何本かばさばさと斬り落とすも、うち一本が弁慶の身体に突き刺さった。

『ぬおおおっ!』

 テレビの中で弁慶が、凄まじい形相で呻く。青筋立てまくり、マジ、痛そうなんですけど。ぶすうっ、とかありえねーよ。

 つか、最近、弁慶出すぎじゃね、いくら弁慶ブームだからってさ。地震、雷、火事、オヤジって、身近にある怖いものの例えでたまに聞くけど、ここまでテレビや映画に弁慶が出てくると、地震、雷、火事、弁慶だよ。うちのオヤジは全然怖くねーし。

『そんなものでそれがしを倒せると思うかぁあっ!』

 弁慶が絶叫しながら、薙刀を地面に突き立てる。
 ぶすぶすぶすうっ、と数えきれないくらいの矢が次々と弁慶の身体に命中する。

 うひー、痛そう。つうか、また弁慶の立ち往生シーンか。これも最近、何度見たことか。
 弁慶が、主君・源義経がこもる館を守るために、その身を盾にしたまま死ぬ……ってそんなことフツーできるか? 矢が刺さって死んだら、立ってらんねーだろ。

 もー、どんだけって感じ。

 そう。
 世の中は、空前の〝弁慶〟ブームに沸いていた。

 弁慶を題材にした小説、マンガ、ドラマ、映画、コマーシャル、ミュージックビデオ……とにかく何でもござれ状態だ。実際、それらは売り上げ何十万部とか、視聴率何十パーとかって、ヤフーを見る度にヘッドラインで見かける。
 最近はそれに輪をかけて、萌えキャラにデフォルメ化された弁慶グッズまでもが売り出されている。クラスの中でも、そーゆー感じのスマホストラップや、缶バッチを持ってる奴らめっちゃ多いし。なんかもー、アイドルだね。いまの弁慶は。

 ぐらぐらぐらっ――

「――っ!」

 また、揺れた。さっきよりもでかい。
 テレビ画面が、地震速報を映す。

【岩手県で震度6弱】

 え? つか、さっき西日本の山口県で震度5強、で、今度は東北の岩手県も震度6弱?

 じーちゃんは、テレビ画面の方に顔を向けたまま固まってる。地震の連続でビビってるのかな? ハゲ頭がよりテラテラと輝いてるんですけど。汗?  
 こんな時に限ってオヤジは外出してるし。あ、オフクロは既に乳がんで他界しているんだ、ウチは。

「地震ヤバくない?」

 じーちゃんに話しかけたけど、じーちゃんは振り返らない。
 耳遠くなったか? もっと大声だすべきかな? 俺は大きく息を吸いこんだ、その途中で、じーちゃんがまるで首だけをぐるりと回したように、こっちを向いた。

「ひっ!」
 
 妖怪みたいに首を回すなよ、ちょっと怖かったじゃねーか。

「翔太……」

 じーちゃんは俺の名前を呼んだっきり、黙り込んでしまった。何だよ、この沈黙。俺も口を閉ざしたままじーちゃんと向き合う。じーちゃんと目を合わせる。5秒、10秒、いやもっと長い時間を見つめ合う。何故にじーちゃんと見つめ合わなアカンのよ、とツッコミたくなったタイミングで、じーちゃんがふいと目をそらした。俺は、ひそかに安堵する。

「――何でもない。ああ、歌番組見たいんじゃったな」

 じーちゃんが俺にテレビのリモコンを渡す。その手先が少しだけ震えていた。歳とったな、じーちゃん。

 テレビ画面では、義経がこもっていた館が炎に包まれていた。立ったまま死んだ弁慶の巨大な影が、火の明かりでぬらーっとさらに大きく濃くなりながら、エンドロールが流れていく。
 
 それから、2日後だった。
 俺のオヤジが死んだ。
 他に兄弟姉妹がいないため、俺とじーちゃんだけの生活が始まった。
 

 
 オヤジが死んでから3か月が経った。
 季節はまもなく初夏を迎えようとしている。だいぶ暑くなってきたな。

 高校3年になった俺は、この日、18歳の誕生日を迎えた。

「翔太。これから話すことは、絶対に、内緒だぞ」

 朝、じーちゃんがいつもよりもいかめしい顔つきで、俺に言った。
 誕プレで、どーん、とおこづかいをもらえると期待をふくらませて、じーちゃんの部屋に来たのに。

「……はい?」

 俺は思いっきり眉間にシワを寄せて、じーちゃんに不満を伝える。
 こうすると、じーちゃんは、俺の不服を読みとって、千円札を握らせてくれる。部活帰りに腹がへるだろう、と。(俺はサッカー部なのだ)

 だけど、今日のじーちゃんは違った。
 財布に手を伸ばすことはなかったのだ。
 かわりに、爆弾発言を、落としてきた。

「おまえの父親は、車の事故で死んだのではない」
「はい?」

 すっとん狂な声が出てしまった。
 だって、俺のオヤジは、ダンプにひかれて死んだ、そう聞かされていたからだ。

「おまえは、父親の死んだ姿を見なかっただろう」

 じーちゃんが確認するように俺に目を向ける。俺はうなずいた。

「ダンプに押しつぶされて、ぐちゃぐちゃだったから、俺には見せられない、って――」

 そう言われたことは、3か月前のことだから、はっきりと覚えている。俺は、家族葬なのに、死んだオヤジに対面することさえかなわなかった。

「嘘だ」
「……嘘?」

 じーちゃんの顔をまじまじと見つめた。
 じーちゃんは、一度、大きく息を吐いた。緊張をやわらげようとしているのかもしれないが、逆効果だった。ますますあらたまってしまう。ぎゅっと、こぶしを握る。

「急なことで、おまえに本当のことを話せなかった」
「え! じゃあ、ひょっとして殺されたのか? 誰かに刺されたりして?」

 身を乗りだして、畳で正座をするじーちゃんにつめ寄る。オヤジ、恨まれてたん?

「なんというか、霊に……、殺された」
「はい?」

 今日、いったい何度目の『はい?』なんだ。つうか――ボケたか、じーちゃん。ついにこの日が来ちまったか。
 そう思うと、この話じたいも、ボケが進んだ老人のざれ言のように思えた。

 そろそろ学校に行かないと――げ、今日、朝レンの日じゃん。ヤバい、遅れる。

「じーちゃん、俺、もう行くよ。遅刻しちゃう」

 言い終えるよりも早く立ち上がり、じーちゃんに背を向けた俺に、迫力のある低い声がかけられた。
 ぐらぐらっと、今日も地震が起きる。たぶん震度3ぐらい。

「受け入れよ」
「な、何をだよ……」

 振り返ると、まぶしさに目をつぶった。
 別に、じーちゃんのハゲ頭に朝日が照って、というわけではない。
 じーちゃんそのものが発光しているみたいに感じられたのだ。
 昇天? じーちゃん死んだか?

「これは……宿命なのだ。北畠一族に受け継がれし生業。怨霊鎮魂使としての」
「……はい?」

 たぶん、4回目の『はい』。
 じーちゃん(←死んでもボケてもなかった)が、代々、俺の家系・北畠家に継承されている職『怨霊鎮魂使』について語るべく、口を開く――。
 
 じーちゃんは、一度咳ばらいをした。それから一気にしゃべった怨霊鎮魂使の内容は、次のとおりだった。

 
●怨霊鎮魂使とは、非業の死を遂げた怨霊の祟りを鎮める者のことで、能力によって2人存在する。
 ・怨霊を呼び出す(召喚)能力者→怨霊召喚士
 ・怨霊を説得する(交渉)能力者→怨霊交渉士
 ※怨霊交渉士が怨霊を召喚することも、怨霊召喚士が怨霊を説得すること 
  もできるが、その場合は、小さな祟りならば対応できるレベル。
●歴史の表舞台には立たずに、裏で連綿と、その能力が受け継がれてきた。
●長屋王や菅原道真などの祟りで疲弊した国土を護るため、千年以上前に、
冥府と行き来をできたとされる小野篁が、閻魔と協議のうえに設けた職業
とも伝わっている。
●もともとは、怨霊召喚士と怨霊交渉士の2人が一緒に、祟りを鎮めていた。
 しかし、江戸時代の初期、特に優秀だった2人の怨霊鎮魂使が、現世に強力な結界を張った。これにより大きな祟りを未然に防げるようになった。
 


 「強力な結界が張られたのに、何でオヤジはやられちまったんだよ?」
「良い質問だ」

 じーちゃんは、ふむ、と学校の先生のようにうなずいてからこう言った。

「今、結界が弱まっている。結界が張られてから四百年近く経っているからな」
「新品で買ったスマホが、だんだんボロくなって故障するようなもん?」
「似たようなものじゃ。だが、現実はスマホの故障以上に深刻じゃ。今まで結界ではじかれていた怨霊たちが、少しずつ現世に影響を及ぼしている」
「それって……つまりは、結界をくぐりぬけた怨霊がオヤジを――殺したのか?」

 俺の質問に、じーちゃんは呻くような声をあげ、首を縦に振った。遅れて「おそらくは、そうじゃろう。どれほどの怨霊が現世にまぎれておるのか考えるだけでも怖気立つ」と返答があった。

 俺は、ごくりと唾を飲み込んだ。オヤジの笑顔が脳裏を過ぎる。
 全然怒らない、穏やかな性格のオヤジだった。端的に言って、優しい。笑うとくしゃっと顔を崩し、目尻に柔らかい線が走る。その目もとが、俺は好きだった。
 オフクロがガンで死んで、ぴーぴー泣く十歳の俺をぎゅっと抱きしめてくれた……。その頼りがいのある腕や胸……そうか……オヤジはもういない、……のか。

 ぽたりとした感触が、あぐらをかく素足の上にあった。
 涙。

 泣いていた。次から次へと、涙やら鼻水やらが出る。止まらない。えぐえぐえぐっ、と自分でもわけが分からない嗚咽を漏らす。思えば、オヤジが死んだことが突然すぎて、フワフワした日々を送っていた。オヤジが怨霊なんとかってのをやってたなんて知らずに。
 3か月かかって、ようやくオヤジの死に、真正面から向き合うことができたのだろうか? 冷静に自己分析をしようとしているのに、悔しさや、悲しさが襲ってくる。自分自身を支えられない。涙がだらだら垂れる。くそっ! くそうっ!

「翔太」

 背中に、じーちゃんの手のひらの温もりを感じた瞬間、自分を保てなくなった。号泣しだした。じーちゃんに思いっきり強く抱きついた。じーちゃんも俺をぎゅっとしてくれる。最近イヤだったじじ臭い匂いが、今はそれほどじゃない。俺は身体をじーちゃんにめりこませるようにしがみついて、大声をあげて、身を震わせて、慟哭する。
 そうして何分か過ぎた。

「じー……ちゃん」

 声がガラガラだった。

「もっと、教えてくれ、その、怨霊なんとか、ってやつを。俺、俺……」

 息を吐きながらしゃべっていた。息つぎが変になっている。でもかまっていられなかった。俺の腹の底に、今まで感じたことのない熱が生まれていた。よく分かんねーそれは、人によっては情熱とか、復讐心とか、決意とか言うのかもしれない。ただ、俺はそれがどんな呼ばれ方をしようが、何だってよかった。知りたいんだ。俺、オヤジ、この世を取り巻いた〝今〟が、いったいどうなっているのかを!

「本当は、おまえの父親は、この怨霊鎮魂使を終わらせたかったのじゃ」
「オヤジの代で怨霊鎮魂使を終わらせる?」
「弱まった結界を張り直せるかもしれない、稀有で優秀な怨霊鎮魂使だった、おまえの父親は。それこそ今の結界をむすんだ四百年前の先祖のように……だが、志なかばでそれを果たせなかった」
「オヤジが殺されたから……」
「おまえの父親は、怨霊鎮魂使の中で召喚を司る『怨霊召喚士』じゃ。弱体化した結界を破壊しようとしている、おおもとの巨大な怨霊を召喚しようとして、失敗したのじゃろう。怨霊召喚士が、召喚に失敗すると、黄泉の世界に連れ去られてしまう」

 黄泉の世界に連れ去られる……って、死、だよな。普通の死じゃねーよな。
 背中を冷たい汗が、つーっと滑っていく。

「召喚しようとした巨大な怨霊って、誰?」
「分からん」

 じーちゃんが目を伏せた。しょぼんとした表情は、飼い主に見放された犬みたいだ。

「怨霊鎮魂使の能力は、次の代に引き継がれた時点で、前の代の者からは消える。すなわち、わしがおまえの父親に能力を引き継いだ時点で、もう、わしは手出しできんのじゃ。だから、誰を召喚していたのかも分からん。面目ない。いらぬ心配をかけぬために、わしにも教えてくれなんだ」

 じーちゃんがゆっくりと頭を垂れた。
 ぐらぐらと地震が起きる。あまりにも頻発するので、ちょっとやそっとではもう驚かない。

 が――、ひらめきのようなものが頭の中を走った。

「ひょっとして、この地震って、結界が弱まってることと関係あんの?」

 祟りには、大地の揺れや火災、竜巻、突風、天然痘みたいな疫病のイメージがある。地震はまさにピッタリだ。

 じーちゃんがゆっくりと顔を上げた。ショボショボとした目に少しだけ強い光が含まれていた。

「察しがいいの。さすがは怨霊鎮魂使の血を引く者。ここ最近の地震の震源地は、どれも源平合戦にゆかりがある場所だ。山口県だけならば、山口県沖の壇ノ浦の戦いで敗れた平家の怨霊も考えられるが、岩手県の平泉も度々震源地になっている。わしが推測するに、今の結界を揺るがしているのは、壇ノ浦の戦いで勝利した後に、平泉で最期を迎えた源義経もしくは武蔵坊弁慶だろう。結界を破れるほどの歴史上の大物じゃ」

 義経と弁慶。
 死ってるよ、特に、弁慶って今、すっげぇブームじゃん。
 何だよ……弁慶がヒーローみたいに扱われているけど、俺のオヤジを黄泉に連れて行ったのかよ……。奥歯を噛む。ふざけんなよ! 何が主君を守るために身を盾にして立ち往生した忠臣だ! 俺のオヤジを――。

「じーちゃん」

 俺はもう泣いていなかった。
 めそめそなんてしてられるか! 拳をきつく握りしめる。

「教えてくれよ、怨霊召喚士のなり方を、技術を、怨霊を召喚する方法を。怨霊をはらう方法を。俺にはオヤジの血が流れてるんだろ。俺、怨霊鎮魂使を継いでオヤジのカタキをとる!」

 俺の決意を聞いたじーちゃんは嬉しそうだけど、悲しげでもあった。複雑な表情だ。いったん目をつぶり、何かを思い出すように、こう口にした。

結界が破れ、怨霊が解き放たれるとき、18歳の男女が現れ、現世を救う

 厳かな口調で言い切ったじーちゃんは、何かがふっ切れたようだ。再び開いた目をらんらんと輝かせていた。というよりも、くわっと目を見開いている。ピキピキッとこめかみに立つ青筋がすんごくぶっとい。

「翔太っ!」
「なんだよ、声でけーよ。つうか、いきなり熱血キャラすんなよ! 血管ブチっといくぞ」
「怨霊鎮魂使の家系に受け継がれし言い伝えじゃ。まさか、自分の孫が現世を救う18歳の男とは思わなんだ」

 一転して、冷静に呟くじーちゃん。けっこー情緒不安定になってね? ぶつぶつ言い続けてるし。

「よいか、これはとても危険じゃ。怨霊と対峙することは命を賭すことでもある。父親と同じように、黄泉の世界に連れていかれるかもしれない。おぬしに覚悟はあるか?」
「ねーよ」
「なっ!?」

 じーちゃんが、これまでの話の流れと空気を読めよ、と言いたげに口を半開きにした。

「さっきの今で、命を捨てるヒーローになる覚悟なんてできるかっ! でもよ、俺はやるよ。現世を救うとか、そんなバカでかい目標だと、目指せ東大合格なみに無理だから(←俺の偏差値51)、オヤジのカタキをとる! そんな気持ちで俺はやる!」
「ふぁーはははははっ」

 突如、じーちゃんが笑いだした。やっぱ、情感のコントロールおかしいだろ。いきなり大口開けて爆笑したら咳でんぞ。

「ふぁーははははは―――っ、はぁーっ、ゴホッ、ゴホッ!」

 ほら見ろ。
 しばらく咳こんだじーちゃんは、苦しかったのか、もう笑顔を消していた。頭頂が茹でダコみたいに真っ赤だ。

「本当はな、この伝説が翔太に当てはまって欲しくなかった。おまえの父親もそう思っていた。なんせ怨霊を鎮めることは死と隣り合わせじゃ。だから、父親は自分の手で結界をむすび直したかったのだろう。正直、今こう話していても、本当にこれで良いのか……翔太を危険にさらしたくない気持ちがの方が強い」

 じーちゃんが立ち上がり、後ろの襖を開けた。風呂敷に包まれた古そうなものを俺の前に置く。

「これは、我が家に代々伝わる怨霊召喚士の装備だ」
「……汚ね」
「おまえ、そんな罰当たりなことを!」
「だって、この風呂敷、黒ずんでるじゃん! どんだけ手垢ついてんだよ。洗濯しろよ」

 俺が風呂敷に手を伸ばそうとすると、じーちゃんがなかば命令するように言った。

「もう1人の、18歳になる怨霊鎮魂使を見つけよ」
「見つけよって、どこにいるんだよ?」
「知らぬ」

 じーちゃんが自信たっぷりに言い放つ。数学の授業で先生から指名されたら、俺もじーちゃんみたいに「知らぬ」って言ってやろうかな。

「結界が張られた後、もう一人の怨霊鎮魂使、つまりは怨霊を説得する交渉士は、行方知らずになった」
「見つけんの無理ゲーじゃん。それって何百年もの間、タッグ組めてないってことだろ? せめて相手のヒントとかはねーの?」
「その者は、空想することに長けている女性のようだ」
「はい?」
「空想世界に没入すると、その者の瞳は、まるでネコのように黒目が細くなる。そう伝わっておる」

 見つけられるか、ってツッコミたくなるのを我慢して、俺は最後に一応確認してみた。

「ちなみに、じーちゃんが結界を張り直せばよかったんじゃ?」

 じーちゃんが、くるりと俺に背を向けた。

「わし……あんま優秀じゃなかったのよ。残念だな、わしが優秀だったら、カッコよく現世を救ったのに。ヒーローになってモテたかったのに……能力を引き継いじゃったから、もうなーんもできんし」

 じーちゃんの丸まった背中が急に老け込んだ。

 



第2話:

https://note.com/neco_machingaun/n/n58b118d2ac48

第3話:

https://note.com/neco_machingaun/n/nc511bf4803a9

第4話:

https://note.com/neco_machingaun/n/nf6b2d42a804e

第5話:

https://note.com/neco_machingaun/n/n42086aff2f2b

第6話:

https://note.com/neco_machingaun/n/n2c5340746403

第7話:

https://note.com/neco_machingaun/n/nde9927f88efc

第8話:

https://note.com/neco_machingaun/n/n10b0ce5b05ba

第9話:

https://note.com/neco_machingaun/n/n5e30a0a82da5

第10話:

https://note.com/neco_machingaun/n/n62302e5fc66b

第11話:

https://note.com/neco_machingaun/n/ne7fc9263098e

第12話:

https://note.com/neco_machingaun/n/nc98bbb5b54d3

第13話:

https://note.com/neco_machingaun/n/n15080f37d8aa

第14話(最終話):

https://note.com/neco_machingaun/n/ne0eb2bfbfc62


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?