怨霊鎮魂使 第11話
第11章 北畠翔太は、交渉が下手だ
「近寄るな!」
俺は精一杯に怒鳴る。だが、弁慶が伸ばす手は、たじろぐことなく迫ってくる。アホみたいにぶっとい腕。たぶん俺の太ももよりも逞しくがっちりしている。ちくしょう、俺だって部活で一生懸命きたえてるのに、と妙な対抗意識が芽生える。
「消すぞ!」
咄嗟にその言葉を吐いた。俺は同時に手で印を切る仕草をしようとした。
「!」
明らかに、弁慶がひるんだ。この言葉は効いているようだ。実際に、じーちゃんに教えてもらった消滅呪文を使うかどうかはさておいて、怨霊にとって『消される』ことは恐怖なのかもしれない。
弁慶の動きがピタリと止まった。
めちゃくちゃおっかない顔で、俺をガン見してくる。きっと、俺が消滅呪文を使う気があるかを見定めようとしている。
だったら、俺も弁慶に強い眼差しを向ける。ちょー怖いけど、ガン飛ばしで目をそらしたら、ケンカは負けだ。そう思う俺って単細胞なのかな。
「む」
弁慶が意外そうな表情を見せた。少しだけ眉が動く。張りつめていた空気が、ちょぴりやわらいだ気がする。このチャンスを逃すか! 俺が交渉して、弁慶の怨念を鎮まらせてやる! 祟りを起こさないように説得してみせる!
「弁慶、どうして結界を壊そうとするんだよ」
「貴様にそれがしの気持ちがわかるかぁああああっ!」
弁慶の顔が一気に真っ赤になった。ひっこんでいたぶっとい腕が再び俺の方へ迫ってくる。だああっ、ソッコーで俺の交渉が決裂するって……つうか、弁慶、気が短すぎだろ。もっと広い心で接してくれよ!
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