怨霊鎮魂使 第5話
第5章 北畠翔太は、目撃する!
一瞬、目を疑った。いや、まさか、と思った。
図書室に入ろうとすると、ネコみたいに黒目を細くした橋本希美がいたからだ。
しばらくの間、声をかけずに、橋本希美を見ていた。高3になって初めて同じクラスになった彼女だが、こんな表情をしているのを見かけたことはなかった。
――空想世界に没入すると、その者の瞳は、まるでネコのように黒目が細くなる。そう伝わっておる。
じーちゃんの言葉が頭をよぎった。つうか、その言葉がぶっ刺さる。ぶすう、と。
まさか……、ひょっとして……嘘だろ。こんな身近に、……いたのかよ!
って、ありえねえ。
だって、交渉士って行方知れずになってもう何百年か経ってんだろ。
それが、いきなり、同じ学校にいるなんて、フツーあるか? しかも同じクラスだし。
でも、フツーじゃないことに、俺は今、巻き込まれてるんだよな。そもそも、怨霊鎮魂使ってフツーじゃねえよな……。弁慶の怨霊を鎮めるのも……フツーじゃねえよな。橋本希美が俺と同じ18歳……は、フツーだ……ダブってねえよな、留年してねーよな。
……マジ、なの……?
声をかけると、俺以上に橋本希美はうろたえた。
「な、ん、で、……そんな、とこに、い、る、の?」
ロボットみたいな口調で聞いてきた。
「学校の図書室なんだから、いてもおかしくないだろ。つうかさ、」
俺は、核心にせまる質問を投げる前に、一度、深呼吸をした。いつのまにか拳をぎゅっと握りしめていたことに気づき、ゆっくりと掌を開く。なんか、使命感っぽいのがぎゅんぎゅん俺の血管に漲っているんですけど。だから、俺は恐れずに尋ねた。凍りついたままの橋本希美に。
「おまえ、いま、……空想してた?」
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