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僕のマドレーヌ

 マスターがカクテル入りのグラスをカウンターの僕の前に置いた。グラスの中に注がれた白いカクテルはどこか温かみのある感じがしてそれが僕を懐かしい気分にさせる。カクテルのリキュールはヨーグルトだ。初めて飲むものだが、まあものは試しだ。僕はグラスを手に取るとゆっくりと口元に寄せていった。僕の周りにヨーグルトの酸味のある香りが漂う。それが先程感じた懐かしさを引き立たせた。僕はグラスを口につけてゆっくりとカクテルを口に含んだ。飲んだ瞬間に過去の情景が僕の前に浮かんでくる。そうあれは僕が初めて一人部屋で寝た時だった。僕は初めての独り寝が怖くて泣きじゃくり何度もママを呼んだ。それでも来なかったので、僕はパパとママの寝室に生きドアを叩いてママを呼んだ。すると何故か下半身を膨らませたパパが現れて僕にうるさい!早く自分の部屋で寝ろ!と怒鳴りつけてきた。そのパパが立っている部屋の奥のベッドではママが肩をあらわにして毛布を巻きつけた格好で震えながら僕を見ていた。僕はパパがママをいぢめているんだと思っだが、何故かママも僕に対して早く寝なさい!と怒鳴りつけてきたのである。このヨーグルトカクテルはその時僕が嗅いだ匂いとそっくりだった。僕は両親の拒絶に耐えられず自分の部屋のベッドに飛び込んで一晩中泣き伏したものだ。あの時みたママは僕のママではなく官能に震えた赤の他人であった。下半身を膨らませたパパに魔女にでも変身させられたのだ。僕はパパに対する怒りとママを奪われた絶望に耐えられず泣きながら一晩中ママを呼んでいた。ママ!ママ!ママ!

「あのお客さん、ちょっとさっきから独り言うるさいんですけど!たった一口でもう酔っぱらっちゃんですか?他のお客さんも気持ち悪がってるしそのカクテル飲んだらさっさと出て行ってくださいよ!」


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