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《連載小説》おじいちゃんはパンクロッカー 第十八回:全員集合

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 エレベーターから垂蔵の病室まで向かっていた露都は部屋の前でサーチ&デストロイのメンバーとスーツ姿の若い男がいるのを目にした。サーチ&デストロイの連中はこの間と同じというか、いつものような年に似合わなすぎる派手なパンクファッションに身を包んで、昔のヤンキーのように壁に寄りかかったり、うんこ座りしてしていた。一番手前でウンコ座りしている髭面のやたらガタイのいいジジイはベースのイギーという。名字が井尻とかいうらしいが、下の名前は知らない。この男がサーチ&デストロイのリーダーで垂蔵が倒れた事を露都に連絡してきた。そのちょっと奥の向かい側で立っているのがギターのジョージ。この本名が某大物演歌歌手と姓名が漢字まで一緒な男は、モヒカンの痩せ切った歯抜けのジジイで、入れ歯をはめてないのでたまに喋りが聞き取れない事があった。イギーの後ろにいるのがドラムのトミー。このデブについては何も知らないがそれは別にどうでもいい事だ。その三人の間で青白い顔をした若いスーツ姿の男が縮こまって立っていた。その光景はもうチンピラとカツアゲされるサラリーマンそのままで、見るだけで気恥ずかしいものだった。

 このスーツの男は初めて見る顔だった。恐らくこの男が朝電話をかけてきたのだろう。自分よりも少しだけ若く見える。露都は彼らを見て一瞬立ち止まった。が、しかし行かねばと自分に喝を入れて足を進めた。病室の近くまで来た時、露都に気づいたサーチ&デストロイのメンバーの一人が片手を上げて彼を呼んだ。露都は彼らの元に歩み寄り軽く一礼した。するとベースのイギーが一歩近づいて彼に声をかけてきた。

「よう坊主、朝っぱらから足運ばせてすまなかったな。ちょっと大事な相談があってな。それできてもらったんだが」

「父は今どうしているんですか?」

「いやぁ~ぐっすりと寝てるよ。まるで死人みてえに」

 イギーはニヤリと笑ってそう答えると意思を確認するかのように周りの連中をゆっくりと見回した。そして露都の肩を叩いて言った。

「まぁ、ここじゃ話せねえからとりあえずそこの休憩ルームで話そうや」

 露都はこのイギーという男の胡散臭い口調と態度にやっぱり電車の中で考えていたことは正しいと思った。しかし向こうがそれをはっきりと言葉に出して言わなくてはこちらも何も言えない。だから彼は大人しく彼らと一緒に休憩ルームまで行く事にした。

 休憩ルームにぞろぞろ歩いてきたサーチ&デストロイのメンバーの凄まじい格好を見て、そこでたむろって世間話なんかしていた他の患者たちは思わずのけぞった。メンバーたちはこの自分と同じ年ごろであろう患者たちに向かって「おい、ジジイども。こっちは大事な話があるんだから自分の部屋に帰れ」とか言って脅しまくった。露都はこのこのイキがったジジイたちの行動を見て本当に恥ずかしくなった。イギーたちメンバーは休憩ルームの真ん中あたりのテーブルを占拠して椅子に大きな音を立てて腰を掛けると、口々にスーツの男に向かって早く飲み物買ってこい!と急かした。イギーは立っている露都を見てお前も座れと声をかけた。それで露都が言われた通り向かい側に座ると彼はニタニタと下品な笑いを浮かべながら「いやぁ~、まさかこうして来てくれるとは思わなかったよ。お前オヤジ大嫌いだもんンなぁ~」とか嫌味たっぷりに言い出した。露都はこの言葉を聞いて心底不快になった。ああ!クズども!こういう連中のせいで母さんは死んだんだ!もうひと時だってこんな連中とはいたくない!さっさと用件を話せ!だが露都はこのこみ上げる怒りを無理に抑えて出来るだけ冷静に言った。

「で、今日はどういう相談なんですか?僕は事務所の方に父を交えて話がしたいって言うからここに来たんですが」

 その時ジュースの買い出しに行っていたスーツの男が戻ってきてメンバーの座っているテーブルに飲み物を置き始めた。スーツの男が飲み物をイギーと露都に向かって「コーヒーです」と言って飲み物を置くとそれを手にうさん臭さ満開の笑みで露都に缶コーヒーを差し出しながらこう言った。

「まあまあ、そんなに急くなよ。時間はたっぷりあるぜぇ~。ほらここに温かいコーヒーだってある。ほら、まずは飲んでからにしろよ」

 だが露都は目の前に置かれた缶コーヒーをイギーの方に戻して断った。

「いえ、ご厚意はありがたいのですが、僕は昔からコーヒーは飲まないので遠慮します」

「ああん、コーヒーじゃダメだってのか。じゃあミルクティーがいいのか?おい、毛ジラミ!この坊やにミルクティー買ってこい!」

「いいえ結構です!」と露都は思わず声を張り上げた。その露都の声の強さに今毛ジラミと呼ばれたスーツ姿の青年はビクッと震え、ニタニタ笑っていた他のメンバーも一瞬にして真顔になった。露都はその彼らに向かってこう言い放った。

「さっさと用件を言ってください。僕はあなた方のように暇じゃないんだ」

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