恋愛小説を書く
結局の所小説なんて作者の願望の具現化でしかないんだ。ずっと小説を書いてきてそれがよくわかった。どんなキャラクターを書いてもうんざりするほどお馴染みの人しか書けない。勝ち気な主人公、その主人公を時に励ましてくれる同僚。小説の途中から登場する主人公と対立するアイツ。だけど主人公はいつのまにかアイツが好きになって……。バカバカしいって思う。主人公もアイツも結局私の願望が生み出したキャラでしかない。私はそれなりに人生を送ってるから主人公みたいにバカじゃないし、アイツみたいな男なんてこの世にいない事はわかってる。主人公は理想化された私。アイツは私が理想だと思う男。本当に書いてて惨めになる。こんな妄想を書いてる自分に腹立たしくなる。だけど書いてていつも思うんだ。小説のように現実を塗り替えられたらいいのにって。そしたら……
「君、生意気だよね。僕の言うことにいちいち逆らうんじゃないよ」
な、なんでアイツが私の前に立ってるの?そんな私が小説を書きながら想像した通りのカッコして!
「フッ、びっくりしたかい?僕朝起きたら目が二倍ぐらい大きくなってなんか電球みたいに輝き出したんだ。君もアゴが45度になって目も大きく輝いているよ」
ほんとだった。これはまんま小説の私だった。美人の勝ち気OLそのまんまだった。
「な、何よこれ?私全然変わっちゃってるじゃない!」
「何が変わってるんだ。変わったのは君じゃなくて現実なんだよ。見ろよテレビを」
アイツはそう言うとリモコンを押してテレビをつけた。
「フッ、生意気だよ君は。僕を誰だと思っているんだい?」
「あなたなんかとチーム組む気なんかありませんからね!」
「フッ、生意気だよ君は。僕を誰だと思っているんだい?」
「あなたなんかとチーム組む気ありませんからね!」
これが現実ですって!こんなものが。
「いや、現実じゃないよ。正確にいえば現実の作りかけさ。これを完全に現実にするのは君なんだよ。君の力で彼らをちゃんとした人間にしてやるんだ」
そういうとアイツはふっと消えてしまった。後に残ったのは書きかけの原稿だった。私は原稿を机に戻して再び執筆を始めた。
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