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 いくら大人なったからってこの胸の思いを押さえらるわけがない。休日出勤日の朝、僕は衝動のままに家を飛び出した。この思いが本当だってのはもうわかりすぎるほどわかっているんだ。もう医者に行ったら重症だって診断されるほどだし、実際にされたんだ。あなたこのまま溜め込んだら変な方向に爆発するから薬飲めってマジ中のマジ顔で医者に言われたんだ。でも恋の病気なんて薬なんかじゃ収まるわけがない。やっぱり告白しなきゃだめだ。僕はそう決意して電車に飛び乗った。飛び乗ったってのは間違いだ。実際は歩道橋から電車に飛び降りたんだ。今電車は僕の足となって彼女の下に連れていく。通り過ぎる線路わきにいる人が電車の上の僕を指さして叫んでいるがそんなこと知った事っちゃない。僕は早く君に会いたいんだ。

 目的地の駅の手前で僕は電車から華麗に飛び降りた。まるでアメコミのヒーローのように。完璧な無銭乗車。僕は電車から飛び降りて颯爽と僕と彼女が休日出勤するビルへと駆ける。届け僕の想い。君のまっすぐ届け!

 僕はそのままビルに入って階段を駆け上る。ああ!エレベータなんかじゃ遅すぎてこの恋のタイマーが爆発してしまうよ。一刻も早く君にこの恋を伝えなきゃ!僕は息せき切ってオフィスのある階まで登るとすぐさまオフィスのドアをこじ開けて自席でこちらに背を向けて座っている君に向かって叫んだ。

「突然だけど告白するよ!俺は君が好きなんだ!」

 君は驚いて背をピンと伸ばして後ろを振り向く。さあ見せておくれ、その可憐なる姿を!

「えっ、私が好きなの?」

 見たら掃除のババアだった。えっ、なんでお前みたいなババアが彼女の席に座っているんだよ。彼女はどこだよ。ババアは突然顔を真っ赤に染めて僕に近づいてきた。

「ホントに私のこと好きなの?一目ぼれってあるのね。私掃除のおばさんなんだけど、朝掃除していたら眠くなっちゃってしばらくここで寝ていたの。その時夢見たんだけど、まんまあなたそっくりの人が出て来て私に告白してきたの。ああ!正夢ってホントにあるのね。あの、今から私とホテルに行かない?ずっとうずうずしてしょうがないの」

「お間なんかとするわけないだろ!ババアさっそとこっから出て行けよ!」

 その時僕の後ろから本物の彼女が現れた。僕は彼女に向かって掃除のババアが君の席に座っていたから叱っている所だと説明した。だけど彼女は僕をダニでも見るような目で睨んでこう言った。

「あなた最低!私さっきからずっとあなたと掃除のおばさんとのやり取り見てたのよ!あなたよくそんなに酷いことが出来たものね。掃除のおばさんの純粋な気持ちを弄んで!最低!月曜日に人事課にあなたが掃除のおばさんにどれだけ酷いことしてたか訴えてやるから!」

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