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ありあまる富の果て

 空虚。それが富を求めた果てに得たものだった。今俺が手に入れられないのはこの地球と月と、そして燦々と輝くあの太陽だけだ。金。そんなもの紙屑だ。女たち。やり果てて飽きた。名声と悪評。捨てておけ。世界。人間どもの動物園にはうんざりさ。豪奢と背徳の快楽を極め尽くした俺にはもう楽しめるものなど何もありはしない。今俺はアメリカの国家予算を優に超える資産をふんだんに注いだこの宮殿でアレクサンダー大王やチンギスハーンすら味わえなかった贅沢三昧の暮らしをしている。だが俺は連中とは違いかしずく召使や奴隷などは持っていない。俺にはそんな無能な人間どもは不要だ。俺はその代わり優秀なロボットをこき使っている。このロボットたちは現在世界最先端のエンジニアによって作られている。だが勿論どんなものでも時が経つと古びてしまう。だから俺は毎月新しいロボットに変える。俺の宮殿の二百体のロボットはどんな人間よりも人間的だ。そのロボットの故障やメンテナンスのために五十人ぐらいリカバリーを雇っているがそれは仕方のないことだ。全く女ならともかく男なんかと顔を突き合わせても唾を吐きかけたいほどうざいが、まぁ仕方あるまい。

 確かに富は一時は俺を満足させてくれた。田舎町で地元のバカ男や女にブサイクと蔑まれいぢめられてきた俺は絶対に世界一の金持ちになってやると誓った。そして俺はその違いを見事実現し世界一の大富豪になった。トランプの大富豪をズルして勝ったようにあっさりと。人間のトランプなんか問題にならないぐらいに。金持ちになった俺はまず金銀財宝を買い漁り、全人種の女をやり捨てた。しかしそれでも満足出来なかった俺は韓国で全身整形をした。大金を叩いた世界最高レベルの医者の手術を受けた全く新しい自分を見た感激を俺は生涯忘れないだろう。俺はハリウッドスターや韓国アイドルなどお呼びもつかないイケメンへと生まれ変わっていたのだ。それはギリシャの女神たちがオリーブの冠をかけたくなるほどの見事な姿だった。

 こうして金でルックスさえ買った俺はもう無敵だった。俺のライバルたちはスターで無敵状態の俺に触れることすらできず、ポコポコ勝手にどっかに飛んでいった。世界一の大富豪でイケメン。世界中のメディアがそう俺の事を書き立てた。あるメディアなど俺の事を現代の神とまで書いた。その神のような財力と権力とイケメンを手に入れた俺は昔いじめてくれたあのゴミみたいな連中を宮殿に招待してやった。とはいえ別に昔の恨みを晴らそうというわけではない。ただ、奴らにわからせてやりたかっただけだ。俺との天と肥溜め底ほどの身分を差を。俺は奴らを宮殿の中の映画館に案内して世界各国のトップ女優たちとのハメ撮り動画を観せた。勿論無修正だ。最高級の画質で撮られた神の如きイケメンの俺と女優たちの激しいまぐわいを観て奴らは深く俺に感謝しただろう。そして俺を自分など本来顔を合わせる事などできない人間である事を悟っただろう。だが連中はそれでもやっぱりバカで昔のいぢめを持ち出して身の程知らずにもこの俺に今すぐ稼げる仕事を紹介しろと脅してきた。そうしないと昔のいぢめをバラすぞってわけだ。だが、俺は世界一の大富豪。俺と対等に口を聞ける人間などいない。ましてやこいつらは俺をいぢめていた連中。俺は頭にきて即断ろうとしたが、その時ちょっとした興を思いついてほくそ笑んだ。俺は連中に言われた通りすぐに仕事を紹介し、友情の印として多額の金を貸し付けてやった。そしてどんでん返しとして奴らを全員入社日当日にクビにしてやった。奴らは恐らく路頭に迷っただろう。さるメディアで激しく俺を罵ったらしいが、そんなことは俺の知ったこっちゃない。これは別に昔の恨みとかじゃない。そうだな、ただの神の気まぐれさ。

 俺はこの神の気まぐれをかつての女どもにもやった。俺は昔寝た女でいまではすっかりしわだらけになっているババア一同をいぢめっこの連中をよんだように映画館に招待した。そこで俺は今もなお超絶的なイケメンの俺と若い人気女優のハメ撮り動画を上映したのだ。今だ愛されていると思っていたババアどもは俺の残酷な仕打ちに泣き喚いた。だが、俺はヨーロッパをかき集めた国家予算よりはるかに金を注いでアンチエイジングを極めつくした神だ。人間の雌であるババアが恨み言を言っても無駄だ。俺は神のごとき冷酷さでババアどもに自分が梅干しよりはるかに酷いババアであることを見せつけてやったのだ。

 だが俺はそのうちにそんな神の悪戯にも飽きてしまった。今の俺は神として人間たちの醜さに絶望して俺にとって必要な最低限の人間の滅亡を真剣に考えている。その人間に呆れ果てた俺は動物に慰めを見出した。動物ほど純粋な存在はない。動物を見ていると純粋だった少年だった頃の俺を思い出す。ああ、陸海空すべての動物をこの宮殿で育てられたら。そう、あの酷い牢獄のような動物園じゃなくて動物たちが自然のままに生きていけるそんな場所を作れたら。目の前に広がる芝生を見ながらバルミューダを取り出してエージェントに今すぐアフリカに飛ぶように命令した。


 俺の一日は宮殿の正門を出てから始まる。朝一で俺はエルミタージュ宮殿が霞むほどの豪華な室内を抜けて玄関へと向かい、ロボットが絶妙なタイミングで開けたダイヤをちりばむた扉をしばし見て庭先のテラスへと向かう。俺はそこでたった一人の自由を満喫するのだ。真上にはまだ暑くならない光をさわやかに放つ太陽。目の前の教会ガラスとダイヤをちりばめた丸テーブルにはロボットが淹れてくれた熱いティー。俺はこうしているといつも空虚を感じる。富を極めて手に入れたのが空虚だっていうのはむなしいにもほどがあるかもしれない。しかし自分のほかの人間はこの空虚さえ味わえないまま死んでゆくのだ。俺の前にいるシマウマたちが潤んだ目で俺を見つめていた。その後ろにいるライオンも涎を垂らして俺を見つめている。俺はこいつらを見つめていると純粋な神になったような気がする。ただ人間たちを慈しみ、天からは人間を見つめるあの神に。

 最近、神の気持ちがわかるようになった。動物たちは俺の子供にも等しい。俺は奴らに餌を与えず自然のままにさせる。ああ!お前たちは野生に生きる獣なんだから自然のままに生きろ。俺は間違ってもお前たちを飼ったりはしない。ただお前たちが生きていく様をここから見ているだけだ。俺はティーを飲み干ししばし庭を見つめ、それからロボットを走らせてプールへと向かった。

 プールはシャチたちの天国だ。このプールが完成したのはこの間だ。この地中海を模した海にはそいつらが五十匹はいる。この先くじらやイルカを入れる予定だし、そうなったらこのプールはまさに海になる。プールにつくと俺は来ていたガウンをぱっと脱ぎ捨てた。自分でも惚れてしまいたくなるほどのフルヌード。そいつを晒して俺はいきなりシャチたちの中に入った。ああ!シャチたちが新しい主人であるこの俺に気づいたみたいだ。五十匹が一斉にこちらに向かってくる。畜生なんて強い求愛表現だ。そんなに歯を見せて。ああ!今ガラスを割ってライオンと虎がプールに入ってきやがった。おいおい俺ってどんだけ愛されてるんだ!最高すぎるだろ!俺が神として本気で慈悲を与えようと思ったのはお前ら動物だけだよ!


「ぎゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ~‼‼」

「おい、大変だ!エーロン・マスクメロンさんの叫び声が聞こえるぞ!それとシャチとライオンと虎がなんか吠えてないか?どうやらエーロンさんをめぐって喧嘩してるみたいだけど……」

「ほっとけよ。エーロンさん、いろいろうるさいだろ?この間ロボットが故障した時にエーロンさん探して庭に行ったとき、ものすごいガチギレされたじゃん。ほっとこうよ、どうせそのうち叫び声も止むだろ?」

「ああそうだな」

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