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感じられる世界が すべてではない

 目に映る、すべてのものが気持ち悪い。

 気持ち悪いと、感じてしまう。

 特に何があるわけではない。何をされるわけでもない。ただ、目に映る、というだけで、それだけで、気持ち悪くなる。

 あの看板がだめだ、通りにいる鳩がだめだ、過ぎていく車が、ゆれる木々が……。

 なんで、だろう。

 なんで、こんなに、気持ち悪くなってしまうのだろう。

 世界はこんなにも、気持ち悪いもので溢れているのかしら。

 あぁ、いやだ。

 何も、見たくない。

 何も、感じたくない。

 何も 何も……

 私には、わからない。

 この世界が、気持ち悪くないものだなんて。そうは思えない。この世界がよいものだなんて、けっして。

 そんな人の、気持ちはわからない。
 わかりようもない。

 私には、こんなふうにしか、感じられないから。

 それは、否定されるべきものなのかしら?

 だとしたら…‥私は、私は、生きていてもいいものなのかしら。

 否定されるようなものであれば、ここに。

 私の目に、映るものに、気持ち悪さしか感じない、この世界に。この世界を、否定、されてしまうなら。

 わからない。

 わからない……。



 こんなにも、美しい、美しい、と思う。

 目に映るすべてのものが、美しい。

 ううん、目に映るものだけではない。

 肌に触れて、鼓膜をゆらし、鼻腔をくすぐり、舌で砕く。

 この世界に存在している、ことそのものが、こんなにも美しさを感じさせる。

 わたし、に届く、すべてのものが、あまりにも美しい、美しさに、溢れている。こぼれ落ちている、そのかけらに、心地よさを感じる。

 歩くたびに見つける、そうした種々のものたちが、わたしの心を穏やかにさせて、わたしの身体を構成している。そんな、気持ちになる。

 立ち止まって、目を閉じて、耳を澄まし、この世界に存在を投げ出してみるのも、また、よい。この世界そのものにわたしが満ちて、わたしは世界の一部である。その圧倒的な力の前に、ほほえみを覚え、呼吸をしている。

 息を吸う 息を吐く

 息をしている ことが 生を わたしを ここにいる ということを こんなにも 実感させて くれる

 あぁ、もっと、いろんなものを触れてみたい。いろんなことを、感じてみたい。

 世界はこんなにも、美しいのだから。

 この世界が美しいものではなく、つまらない、嫌なものである、なんて、わたしには、わからない。

 きっと、この世界の美しさを、まだ知らないだけで、そういうふうに、感じてしまっているのだろう、と、思う。
 
 わたしには、それは、わからない。

 わたしには、こんなふうに感じられるのだから、この世界は美しいものなのだ。

 それを、わたしは、教えてあげたい。

 伝えて、いきたい。

 それでもわからなければ、どうしよう。

 わからないなぁ。


いつも、ありがとうございます。 何か少しでも、感じるものがありましたら幸いです。