金澤直子

声優のお仕事をしてます。 本を読むのが好きで、小説を書きはじめました。 短編小説を楽し…

金澤直子

声優のお仕事をしてます。 本を読むのが好きで、小説を書きはじめました。 短編小説を楽しんで頂けたら嬉しいです♪

最近の記事

仏様と、〇〇

私は今、仏様に会っている。 とはいえ現代の仏様は、お寺ではなく、オフィス街のおしゃれなイタリアンレストランに現れる。 そのお姿も、銅像で良く見るふっくらとした姿、ではなく、何を食べたらそんなになるんですか!と問い詰めたい程のつやつやお肌と、しゅっとした顔つき。 螺髪と呼ばれる、小さいくるくるがたくさん付いた頭髪でもなく、さらさらのロングヘア。 服もゆったりとした布じゃなく、ごく一般的なスーツ。 私の目の前にいるのは、仏様…えっと、本当の名前は柴崎リリさん。私が勤める会社の上司

    • コンビニ廻るよ、どこまでも〜未明〜

      「今日も何事も起きず、平和でしたね」 休憩と呼ぶには遅い時間。 深夜とも早朝とも言いづらいこの時が、店長である日比谷のひと息つく時間だ。 業務日誌を書いたりはするが、ほぼ日記と化している。思った事をそのまま書くので気は楽だ。 と言っても、彼の思う事は決まっている。 店員一人ひとりが快適に働けているかどうか、お客様が気持ちよく買い物できているかどうか。 昼勤務の氷川さんと佐山君が揚げ物を作ると、食品ロスが少なくて助かっている。仲良く働いてくれるお礼に、お節介だが、おすすめのお

      • コンビニ廻るよ、どこまでも〜夜〜

        昼勤務の女の子、なんだか嬉しそうだったな。 時々ニヤニヤして、ちょっと怪しかったけど… 時刻は21時頃。帰宅ラッシュも落ち着いてきた。 畑中真守は発注する商品の確認をするため、店内を見回る。一息つける時間帯になると、つい色んな事を思い出してしまうのだ。 今日は煙草が品切れにならなかったな、店長は今日も出勤してるけどいつ寝てるんだろ… 浮かんでは消えていくが、最後に考える事はいつも同じ。 「俺…この先どうしたら良いんだろ…」 愚痴めいた言葉は、胸元の名札に落ちていく。 はた

        • コンビニ廻るよ、どこまでも〜昼〜

          お腹が減っているのに食べられないのはツラい、と氷川さつきは思った。 そろそろお昼時である。 このコンビニは住宅地にあるため、サラリーマンが押し寄せる事はないが、住民たちがお昼ご飯を買いに来るためそれなりに忙しい。 特にレジ横のショーケースに入っている揚げ物が、この時間の売れ筋である。 ジュウウゥゥッという空腹を刺激する音を聴きながら、さつきは紙の箱にせっせと唐揚げを詰め込んでいた。 朝の時間に入っているパートさんは、いつも昼間の準備まで終わらせて帰っていく。その丁寧な仕事ぶり

        仏様と、〇〇

          コンビニ廻るよ、どこまでも〜朝〜

          コンビニの朝は早い。 正確に言うなら、コンビニ店員の朝は早い。 山口まりの出勤は朝の4時だ。 「おはようございまーす。品出ししますか?」 「山口さん、おはようございます。 じゃあ煙草、お願いします」 『店長 日比谷』の名札を付けた男が答える。 深夜から働いているはずだが、いつもと変わらず落ち着いた声だ。 まりは大量の段ボールを開けるべく、気合いを入れる。 あと一時間もすれば出勤前のお客さんが来るから、品切れは無くしたい。 「山口さん、頑張ってくれて有り難いです。シフトも沢山入

          コンビニ廻るよ、どこまでも〜朝〜

          眠れぬ夜は、難しい

          眠れない。 その時、芙美の頭にあるのはそれだけだった。 時刻は深夜。何時になったかは恐くて見ていない。 普通なら、明日の仕事がいやだから、初デートだから、という理由が思い浮かぶだろうが、違う。 久しぶりの連休、残念ながらというべきか、特に予定は詰まっていない。しかも今日は連休二日目、何を心配する事もない、はずだ。 金曜日に送ったデータに不備があって気になるという事も無いし、後輩の関根さんにイラっとする一言を言われた事でもない。というか関根さん、その発言を聞いていたイケメンの先

          眠れぬ夜は、難しい

          サバンナのいちにち

          太陽がそろそろボク達の真上に来る。 昨日はとても暑かった。今日も暑いだろう。 そしておとうさんも、昨日と同じあくびをしてる。 ボクのと違って、さきっぽがフサフサしてる尻尾がぱたん、ぱたんって音をたてる。 おかあさん達は、ボクが起きたらすぐに狩りに出掛けちゃった。まだお腹は空いてないから、遊んでほしかったなあ。 草や石ころで遊ぶのは面白いけど、飽きちゃうのも早い。おねえちゃんは、同い年の友達と一緒に遊んでたっていうけど、ボクにはそんな子はいないから、1人で遊ぶしかないんだ。 お

          サバンナのいちにち

          後の、のち

          「あぁぁあああああ!くっそおおおおおぉぉぉ!!」 「なにがお前は強いから大丈夫だーーー!」 「くそ上司いいぃぃぃ!しねええぇぇぇぇ!!」 ばらばらばらばら、ばらばらばらばら。 本日の雨予報は30%。なのに午後の天気は大雨。 使い物にならなくなったビニール傘が景気良く雨に打たれている。 「あ~、やっぱさいこー!ストレスは外に出すに限るわ~」 「ニコさん、見た目より大分口悪いんですね…」 「一郎さんはオリジナリティがないけど、シンプルでいいわね!」 「はあ…」 「ほんっとにもーム

          後の、のち

          暁と落陽

          砂浜が続いている。 視線を向ければ、眩しいほどの煌めきを放つ海。 朝方の海が、こんなにきらきらしているとは知らなかった。 「うぅ…あああ」 「あなたも知らなかった?って、そりゃそうか」 ゾンビは太陽の光に弱い。この世界では常識だ。 彼、恐らく彼だろう─ゾンビの彼は、まるで救いを求めるように海に向かって移動している。 他のゾンビと違って見境無く人間を襲う様子が無かったが、弱点は同じのようだ。 少しずつ、朝日に浄化されるかのごとく、足取りがおぼつかなくなっていく。 世界がゾンビ病

          暁と落陽

          いつもの場所

          「今日ポテト150円じゃん」 「Lにしたから充分」 いつものファストフード、いつもの窓際席。西日が入らないようにブラインドは閉まっているから、外を意識する必要もない。 向かいに座ったカナは、ポテトのLサイズを2つ頼んでいた。 いつもと違うのはそれくらい。 「リサ、いつもそれだよねー。フィッシュサンドて、あんま頼まなくない?」 「だって旨いじゃん。 てかカナ、ポテトばっかじゃ太るよ。サラダも頼みなよ」 「えー、お金無いもん」 「それめっちゃ聞いた…」 フィッシュサンドはいつ食べ

          いつもの場所

          10年後の輝石

          オパールの指輪。 それが入った小箱を、そっとなぞる。ジュエリーショップで買う時はあーでもないこーでもないと悩んだし、「これをください」という時はあまりの緊張に目の前が真っ白になる所だった。 店員さんによって白い布の隙間につめられて、藍色の箱をそっと閉じられる。 それを受け取った時には考えられないほど、愛おしい気持ちでいっぱいになる。 不思議である。 さっきまで、ただの道具でしかなかった物が、今はこんなにも、大切なものに。 「ぼくと…結婚してください」 その言葉を受けた君が、み

          10年後の輝石

          お金×愛情

          お金と、愛情は、等価値だと思う。 愛はお金で買えないと言うけれど、お金が無ければ愛を感じる事も難しいと思う。 生きていく余裕が無ければ、愛なんて感じている場合じゃないのだ。 「それ、食堂のラーメン食べながら聞ける話?」 常に煩い大学内でも、その声は良く通る。 目の前に座ってるから、という理由を除いてもだ。 「だってそうだろ。生きてくのに必死だったら、他人にかまう余裕ないじゃん」 「人が一人生きるのって、それだけで周囲に影響やら迷惑やらかけてると思うよ。それ全部無視するの?」

          お金×愛情