いつもの場所

「今日ポテト150円じゃん」
「Lにしたから充分」
いつものファストフード、いつもの窓際席。西日が入らないようにブラインドは閉まっているから、外を意識する必要もない。
向かいに座ったカナは、ポテトのLサイズを2つ頼んでいた。
いつもと違うのはそれくらい。
「リサ、いつもそれだよねー。フィッシュサンドて、あんま頼まなくない?」
「だって旨いじゃん。
てかカナ、ポテトばっかじゃ太るよ。サラダも頼みなよ」
「えー、お金無いもん」
「それめっちゃ聞いた…」
フィッシュサンドはいつ食べてもおいしい。でも、ここに来なきゃ食べられない。だからオーダーは決まっている。
「あー、バイトしときゃ良かった!ほぼ毎日来るし、ここでバイトしても良かったなー」
「そしたら一緒に食べれないじゃん」
「いやワンチャン一緒に食べれね?」
「無いっしょ」
特に意味の無い会話、意味の無い時間。たまに勉強したりもあるけど、そんなのは気まぐれみたいなものだった。
確かなのは、ここに来れば間違いなくお腹はふくれるって事。
「あーあ、バイトしとけば良かったなー」
「ムリムリ、それより女子高生って肩書き持ってる内に楽しんどこ」
「そんな事言ったってさあ…」
カナが言葉に詰まる。
分かってる。その先は、自分も同じ気持ちだったから。
「リサは家庭教師ついてたんだっけ」
「うん。それではっきり決めた。カナだって早かったじゃん」
「あー、まあ産まれる前からいたし、家族の一員だしね。
なんとなくだったけどさ」
「ダンゴロウ、だったっけ?渋いよね、犬の名前にしては」
「や、ダンだから!おじいちゃんが付けたらしいけど、ダンゴロウは渋すぎ。長いし、ダンの方が呼びやすいし!」
「それもめっちゃ聞いた。トリマー志望が飼ってる犬がダンゴロウってウケる」
「うっさい。リサだって、家庭教師が行ってる大学行きたいって分かりやすすぎ」
「私が行く時には卒業してるけどね」
ヤバかったかな、と思ってカナを見ると、頬杖をついたその表情は見たことがない位真剣だった。
「でも、好きっしょ、学校」
どきん。
と、心臓が鳴った気がした。けど、それは嫌な感じじゃなくて、見透かされたような響きだった。
「リーダーってわけじゃないけど、クラスみんなの色んな事に、ちゃんと目が届いてたっていうのかなあ。
リサがいると、すっごい楽だったし。なんだかんだ、みーんな頼りにしてたよ。
そーゆー人が先生になりたいっていうの、良いと思う」
「…別に、学校が楽しかっただけだし…学校の雰囲気、嫌いじゃないし」
「いーじゃん。私は嬉しかったしさ。
…あ~、ポテト2個はさすがに多かった~」
「いや食べ終えてんじゃん」
変な空気にならなくて、ほっとした。
こんなやり取りが出来て、その相手がこの友達で、本当に良かったと思う。
「ちょっと早いけど、帰ろっか~。明日は長いかな~」
「ん。明日もよろしく」
「う~い」
明日は私たちの卒業式。
この時間、この場所で、フィッシュサンドセットを頼む日は、もう無いとしても。
一緒に過ごした日々は、間違いなくそこにあった。


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