コンビニ廻るよ、どこまでも〜未明〜

「今日も何事も起きず、平和でしたね」

休憩と呼ぶには遅い時間。
深夜とも早朝とも言いづらいこの時が、店長である日比谷のひと息つく時間だ。
業務日誌を書いたりはするが、ほぼ日記と化している。思った事をそのまま書くので気は楽だ。
と言っても、彼の思う事は決まっている。
店員一人ひとりが快適に働けているかどうか、お客様が気持ちよく買い物できているかどうか。
昼勤務の氷川さんと佐山君が揚げ物を作ると、食品ロスが少なくて助かっている。仲良く働いてくれるお礼に、お節介だが、おすすめのお店を教えてあげるべきか。
畑中君は、ようやく一歩を踏み出せそうだ。
上司である自分以外の『誰か』に、背中を押してもらう必要があった。そろそろ次の段階に進めるても良いだろう。
そういえば、常連さんの為に、新しくメンチカツを始めてみようか。
まだ寒い日が続くから、一息いれてもらうために温かいコーヒーを充実させるのも良い。
などなど。
この場所へ来るすべての人達が、幸せな気持ちで過ごしてほしい。
それこそが、彼が忙しく働く理由である。
その為に、日比谷は至る所に目を配っている。店で起こる事は、手に取るようにわかるのだ。
ちなみに、何故、『日比谷店長』がこの場所でコンビニを営んでいるのか、従業員は誰も知らない。
それには深い事情があるのだが、長くなるのでここでは割愛しよう。
今日1日、コンビニで起こった事に想いを馳せながら、日誌に書き込んでいく。
そうしている内に、早朝出勤の山口さんが来る時間である。
来週には、息子の一人暮らしを心配している彼女がお菓子を仕送りするはずだ。
好きそうな商品を仕入れておかなければならない。
忘れないように日誌に書き留め、立ち上がる。

休憩は終わりだ。

ぴんぽーん。

来店の音が響く。

誰かの新しい一日が始まる。

頑張る『誰か』の為に、コンビニは存在している。

それを応援するべく、日比谷はゆっくりとレジへ歩いていくのだった。

 

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