暁と落陽

砂浜が続いている。
視線を向ければ、眩しいほどの煌めきを放つ海。
朝方の海が、こんなにきらきらしているとは知らなかった。
「うぅ…あああ」
「あなたも知らなかった?って、そりゃそうか」
ゾンビは太陽の光に弱い。この世界では常識だ。
彼、恐らく彼だろう─ゾンビの彼は、まるで救いを求めるように海に向かって移動している。
他のゾンビと違って見境無く人間を襲う様子が無かったが、弱点は同じのようだ。
少しずつ、朝日に浄化されるかのごとく、足取りがおぼつかなくなっていく。
世界がゾンビ病と呼ばれる病におかされてから、長い時間が過ぎていた。
私が対病原菌研究所に入ったのは、他に良い就職先が無かったから。
そんな私が彼を見つけたのは、本当に偶然だった。
人間を襲う様子はなく、何かを語りかけるように相手を見つめてきた彼を見て、役に立つかもしれないと血液や皮膚を研究した。
それは大成功だった。彼の血液から作り出された血清は、世界中のゾンビを無力化したのである。
でも、彼には効かなかった。どうしてかは分からない。彼はひたすら、私を見つめ続けた。
「出会えて良かった、なんていうのはおかしいのかもしれないけど…あなたが居なければ、元の生活には戻れなかった。
だから、何て言うのかな…ありがとう」
聴こえたのかは分からない。
「ああ…う…あ」
「ありがとう、ございます」
「…ぁ」
音もなく倒れた彼の指先を、波が静かになでていった。

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