サバンナのいちにち



太陽がそろそろボク達の真上に来る。
昨日はとても暑かった。今日も暑いだろう。
そしておとうさんも、昨日と同じあくびをしてる。
ボクのと違って、さきっぽがフサフサしてる尻尾がぱたん、ぱたんって音をたてる。
おかあさん達は、ボクが起きたらすぐに狩りに出掛けちゃった。まだお腹は空いてないから、遊んでほしかったなあ。
草や石ころで遊ぶのは面白いけど、飽きちゃうのも早い。おねえちゃんは、同い年の友達と一緒に遊んでたっていうけど、ボクにはそんな子はいないから、1人で遊ぶしかないんだ。
おとうさんも、たまに遊んでくれるけど、一緒に遊ぶっていうよりは、咥えられて運ばれるのが多い。
もうちょっと、狩りごっことかしてくれれば良いのに。
だからボクは、やる事もなく、おとうさんの立派なたてがみを眺めてた。
おかあさんは、いつかボクもおとうさんみたいなライオンになって、おとうさんみたいな立派なたてがみが生えてくるっていうけど、ホントかなあ。
「ねえ、おとうさん。おとうさんのたてがみっていつから生えてきたの?」
「ぅん?…あ~、いつからだったかな…」
「ボクもたてがみ、生えてくるかなあ」
「そりゃあ生えてくるよ。ライオンの男は、皆、いつか生えてくるんだ」
「いつから?」
「あ~…いつだったかなあ…」
おとうさんてば、アゴを地面に置いたまま、ボクにちゃんと答えてくれない。いつかじゃなくて、いつ生えてくるのか教えてくれなくちゃ。
そのまま、おとうさんは眠そうに目を閉じる。
こうなったら、ボクの話をまともに聞いてくれないんだ。
前、おとうさんが寝ちゃったと思って、少しお出かけしようとしたら、急に追いかけてきて咥えられちゃった。だから、おとうさんから離れる事もできない。
どうしようかなって思って、おとうさんのたてがみを見てたら、ん?なんだか、お尻としっぽがムズムズする…
おとうさんのたてがみが風の動きに合わせてユラユラすると、ボクのしっぽも、どんどんユラユラし始める。
なんだっけ、前におねえちゃんが「シュリョーホンノウ」とかって言ってたような…
と、思った時には、ボクはおとうさんのたてがみに食いついていた。
ぶちぶちぶちっ、とボクの牙の間に毛が挟まってくる。
これ、面白い!
引っ張る感触が面白くて、おとうさんのたてがみにもう一回突進する。
ぶちぶちぶちっぶちぶちっ
今度はもっと取れた!
ボクの中の「シュリョーホンノウ」が止まらなくなりそう!
もう一回!と思ったボクの目の前に、おとうさんのおっきなお口が突き出された。
「こら、やめなさい。痛いだろう」
「え~!もっとやりたいなぁ」
「はぁ…全く…」
「えいっ!」
「こら!」
今度は牙むき出しで怒られた。
へへ、でもおとうさんは怒ってもこわくないんだ!
ボクの顔を見ると、おとうさんは
「はぁぁぁ~…もう、全部は剥くんじゃないよ」
って、お口を閉じてごろんって転がっちゃった。
う~ん、ボクの「シュリョーホンノウ」も満足したし、これでおしまい。
いつもの遊びとは全然違って、すっごく楽しかったなあ。
ボクが少し離れた所に座ると、おとうさんは目を開けた。
「お前、口の中に毛が沢山入ってるぞ。
たてがみが生えたみたいだな」
「ほんと?!じゃあボクにもたてがみって生えるんだ!
やったあ!」
「いや、俺の毛をむしっただけだろ…
ま、とにかく、お前にもその内生えてくるから、大人しく待ってなさい。
ほら、母さん達が帰ってきたぞ」
「はーい!おかあさーん!」
ボクは帰ってきたおかあさん達に向かって、全速力で走り出した。
生えてきたばっかりの、ボクの立派なたてがみ、早く見てもらわなくっちゃ!
 


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