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『判断力批判』で言われる「趣味判断」をおさらい。【PhilosophiArt】

こんにちは。成瀬 凌圓です。
今回は、18世紀の哲学者、イマヌエル・カントが書いた『判断力批判』を読みながら、哲学とアートのつながりを探していきます。
この本を深く理解するために、全12回に分けて読んでいきます。
1冊を12本の記事に分けて読むため、読み終わるまでが長いですが、みなさんと学びを共有できればいいなと思います。

第7回の今回は「趣味判断の可能性」について考えていきます。

これまでの記事は下のマガジンからお読みいただけます。


今回読んだ第30節〜第40節では、「趣味判断の演繹」について書かれています。“演繹”という言葉は数学で目にしたことがある人が多いかと思います。

数学などで使われる演繹法は、前提になっている法則から論理を積み重ねていくことで結論を導くことを指します。この対義語に、帰納法があります。帰納法は、具体的な事例から一般的な法則を導くことになります。

これまでカントは、美的判断の一つである趣味判断について書いてきました。今回は、その特徴をもう一度振り返り、趣味判断ができることを正当化するのが、ここで言われている「趣味判断の演繹」です。

今回は、第30節〜第40節の中で、趣味判断の特徴についてカントが言及している部分をまとめていきます。さらにその上で、カントが演繹をどのように捉えているかを見ていきたいと思います。

趣味判断の2つの特徴

まず、カントは趣味判断の性格についてこのように言っています。

第一にその判断はアプリオリな普遍的妥当性をそなえているのであるが、このアプリオリな普遍的妥当性は、概念にしたがう論理的な普遍性ではなく、個別の判断における普遍性なのである。第二にその判断は必然性をそなえているのであり、必然性はつねにアプリオリな根拠に基づいていなければならないものの、この判断の必然性はいかなるアプリオリな証明根拠にも依存していないのである。そのような証明根拠に依存するものであれば、趣味判断においてそれを提示すれば、あらゆる人々に強制的に同意を要求することができるようになろう。

カント『判断力批判』(上)(中山元 訳、光文社古典新訳文庫、2023年)
233 趣味判断の普遍的な妥当性の二つの特殊な性格 より

趣味判断には、大きく2つの特徴があるとカントは考えました。
1つ目は、趣味判断は「個別的な判断だが、普遍性がある」という点です。
第3回の記事の中で、「主観的な普遍性」という言葉で説明されていたものと同じことになります。客観的な概念が根拠にはならず、個人の判断が誰にとっても同じように下される、ということです。

2つ目は、「証明根拠には依存していない」点です。
この“証明根拠”という言葉は、客観的な根拠を指しています。
趣味判断は、主観的な判断のことなので、客観的な根拠は存在しません。

この2つの特徴を明らかにすることで「趣味判断の演繹」ができるとして、趣味判断の詳細を見ていくことになります。

趣味判断の特徴は「客観的ではない」こと

趣味判断は、主観的な判断であり、客観的なものを根拠としないことは、これまで『判断力批判』の中で、何度も言われてきました。
客観的なものを認識し、それを元に判断する“認識判断”とは異なり、趣味判断は「たんに美的な判断」だとしました。

主観的で、他人の考えに左右されない趣味判断は「自律」しているとカントは言います。
自分自身が何かを認識したときに、快の感情を抱いた、このことこそが趣味判断の根拠になるとカントは考えたのです。

「趣味判断の演繹」は、内容をギュギュッとするとこのくらいになってしまいます。その理由をカントは次のように言っています。

この演繹がこれほどたやすく行われるのは、概念の客観的な実在性を正当化する必要がないからである。というのも美しさというものは客体についてのいかなる概念でもないし、そのために趣味判断はいかなる認識判断でもないからである。

カント『判断力批判』(上)(中山元 訳、光文社古典新訳文庫、2023年)
256 演繹がたやすく行われる理由 より

客観的な根拠や概念について述べる必要がないから、というのがカントの主張です。


趣味判断とはどのようなものだったかをもう一度振り返ったカントは、ここから芸術論や、美そのものについて考えていきます。
その入り口として、カントは「美しいものへの関心」に注目しました。

第2回の記事で「美は無関心的だ」というカントの主張を取り上げました。
ここで言われている「関心」は客体があることによる欲求を指していて、客観的なものの一つである関心は、主観的な判断とは関係ない、と趣味判断から切り離して考えています。

そのため「美しいものへの関心」で用いられている“関心”という言葉のニュアンスは少し異なるかと思います。
次回はその辺りを詳しく読んでいきたいと思います。

次の記事(第8回)は下のリンクからお読みいただけます。

参考文献

「PhilosophiArt」で『判断力批判』を読むにあたって、参考にしている本を並べました。

カント『判断力批判』(上)(中山元 訳、光文社古典新訳文庫、2023年)

この訳書では、内容に応じた改行がされていたり、すべての段落に番号と小見出しが振られていて、非常に読みやすいです。

荻野弘之 他『新しく学ぶ西洋哲学史』(ミネルヴァ書房、2022年)

古代ギリシャ哲学から現代思想まで学べるテキストです。
カントについては、1つの章が設けられています。

小田部胤久『美学』(東京大学出版会、2020年)

『判断力批判』を深く読むことができる1冊だと思います。
『判断力批判』が書かれた当時の歴史的背景や、現代における影響についても書かれています。

高木駿『カント 『判断力批判』 入門 美しさとジェンダー』(よはく舎、2023年)

『判断力批判』を解説しながら、ジェンダーについて考えられる1冊。
他の解説書に比べて薄い(150ページ程度)ですが、わかりやすくまとめられています。

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