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【後編】あの日置いてきた恋の話。

こんばんは、サブリナです。
前編はこちら、中編はこちらから。


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冬休みの間、私は旅行に行ったり、静かな寮でゆっくり過ごしていた。
彼と会えない時間は長く感じた。でも、気の合う友達との2人旅は楽しかったし、彼の方から「メリークリスマス」のメッセージが届いたことに飛び上がって喜んだりと、充実した冬休みだった気がする。


寮に活気が戻ってきたある朝、彼に再会して驚いた。

彼の髪型が変わっている。
サラサラのストレートヘアが、ドレッドヘアに。

とりあえず、冬休みどうだった?とか、髪型変えたんだね!とか、そんな雑談をし、朝食をとって授業に向かった。


私が彼のことを話すのは、一緒に旅行した日本人の友達と、仲良くなった韓国人のお兄さん(オッパ)だけだった。2人とも同じ寮に住んでいる。

授業から戻った午後、オッパが私を見るなり「彼と会った?会っちゃダメだ、ショックを受けるかもしれない…。」と言うから、思わず笑ってしまった。

もう今朝会ったよ、と伝えると、「それで?気持ちは変わらなかったの?もう僕は、100年の恋も冷めてしまうかと思って、心配で。」と言うオッパは、本当に面白かった。

確かに前の方が好みではあったけれど、少しずつ彼の内面を知って、前よりずっと好きになっていたから、ドレッドヘアになったことも気にならなかった。オッパはそれを聞くと、「本気なんだね…。」と感心していた。



彼と私は、定期的に2人で会って、お互いの話をするようになっていた。あの告白の場所だったり、カフェやキャンパス内の至るところにある休憩スペースで、お互いの家族の話や、最近あった出来事を共有した。

英語で分からない言い回しや表現を、教えてくれることもあった。

今でも覚えているのは「Frost」という単語。
「霜」のことだ。

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暗めだし、画質もあんまり良くないけれど、気に入ってる樹霜の写真。
こんな風に結晶ができることが美しかったし、彼が教えてくれたおかげで、なんだかとっても素敵に思えた。



2月。彼に日本式のバレンタインとして、チョコレートとグリーティングカードを用意した。帰国までの残りの日々を大切にしながら、想いを伝え続けたかった。

ちょっとうっかりして、「日本では女の人が、男の人にチョコレートを贈るの」と書いたつもりが、なぜかMENじゃなくてMEになっていて、「日本では女の人が、“わたし”にチョコレートを贈るの」なんて間違った説明を入れてしまったのも、今となってはクスッと笑えるエピソードだ。

恥ずかしかったけれど、彼は「本当の意味はすぐ分かったし、僕に笑顔を運んでくれたから、ノープロブレム!」と言ってくれた。



想いを伝えて、彼とちゃんと友達になってからは、恋人になりたいなんて、もう思っていなかった気がする。

たった数か月、偶然出逢った私のことを、彼に憶えていて欲しかった。
いつか学生時代を振り返ったとき、ふと思い出されるような女の子になりたかった。


帰国日の前日、彼は私に1通の手紙をくれた。手紙は封がしてあり、表面には「飛行機が離陸するまで、開けちゃダメだよ。」とあった。


翌日、出発は早朝4:30だった。もう会えないと思っていたのに、彼は見送りのために起きてくれていた。他の誰でもない、私のために。

さよならを言って、ギュッと長めのハグをして別れる。振り返って彼の顔を見たら、もう一度だけハグしたくなって、急いで走って戻った。

彼も両腕を広げて、さっきよりも強めにハグしてくれた。


空港に向かう車の中、涙が止まらなかった。



飛行機が本当にこの地を離れるまで、私は律儀に手紙の封を開けなかった。

その手紙は、開けないと読めないように折られたA4用紙をテープで留めたもので、中にはびっしりと文章が綴られていた。

本当は、一緒に過ごしたこの季節とこの土地を想い出せるように、雪景色のポストカードを探していたのだけど、しっくりくるものが見つからなかったんだ。でも、ポストカードよりもたくさん書けるから、ちょうど良かったかもしれないね。

そんな書き出しだった。

手紙には、告白されたときのことや、過ごした日々で見つけた私の良いところが、たくさん綴られていた。そして、告白の返事も。


せっかく落ち着いていたのに、手紙を読んだら、嬉しくて、切なくて、また涙が溢れてしまった。

彼は私と過ごした日々を、大事にしてくれていた。友達以上にはなれなかったけれど、この関係を大切に思って、告白の返事を入れ込んだ手紙を渡してくれた。

僕が今まで出逢った人の中で、こんなに誠実で、真っ直ぐな人は他にいなかった。だから僕も、君に対して誠実でいたかったんだ。君は素敵な人だから、素晴らしい人と出逢って、必ず幸せになるよ。
僕を好きになってくれて、ありがとう。
忘れないよ。


彼と最後にハグしたあの時。
飛行機が離陸したあの時。
私はこの恋を、彼と過ごしたあの国に置いてきた。


あの日置いてきた恋は私の原点。
心の宝箱の中の、綺麗な想い出。

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