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大女優の背中

TBS系『カラダのキモチ』でスタジオ収録したときのこと。
その日のゲストは、女優の故・坂口良子さんだった。
私はいつものように、出演者の控え室へご挨拶まわり。
もちろん坂口さんの控え室にもご挨拶に伺った。


坂口良子さんと言えば、大女優。
どんな人だろう。
私はドキドキしながら、ドアをノックした。


「はぁい!どうぞー!」
軽やかな声が聞こえ、その直後スタッフの方がドアを開けて下さった。
中を覗くと、坂口さんは鏡の前でヘアメイクの真っ最中。

「メイク中に、すみません!」
「いいのよー。」
「本日ご一緒させてていただきます、六車奈々と申します。よろしくお願い致します!」
「こちらこそ、よろしくお願いします。」

優しい笑顔で返して下さった坂口さん。
明るくて、ステキな人だな。
私は爽やかな気持ちで、自分の控え室に戻った。


その一分後、コンコンと私の控え室をノックする音が。ドアの向こうで、
「すみません!坂口さんのスタイリストです!」
と声がした。
何事だ?急いでドアを開けると、


「六車さんの衣装は、今着てらっしゃる白ですか?」
「・・・はい。」
「実は、坂口さんの衣装も白なんで、六車さんがお気にならさないか確認するように言われまして、、、。」


ぎぇーっっっ!!!
しまった!
大女優と、衣装の色が被ってしまった!
私は大慌てで控え室を飛び出し、坂口さんの控え室へ向かった。


「坂口さん、申し訳ありません!私、同じ色の衣装になってしまってたと気づかず、、、。着替えます!」

すると坂口さんは、メイクを中断してわざわざ私の側まで近づいてきた。

「いやいや、違うのよ。私こそ、衣装が被ってしまってごめんなさいね。私は全く気にしないのだけど、六車さんが気になさるなら申し訳ないなぁと思って確認しただけなのよ〜。」


なんと!
大女優でありながら、なんという気遣い!
私は感動してしまった。

結局、二人とも衣装の色が被ることを全く気にしないこと、二人が横並びではないため絵的にも問題無いということで、二人お揃いの『白』を着ることにした。

リハーサルが終わって、いよいよ本番。
スタジオに白の衣装をまとった、坂口さんが入ってきた。

「先ほどは、すみませんでした。ありがとうございました!」
頭を下げると、
「とんでもない!よろしくお願いします!」
と満面の笑みで返して下さった。
その時のお顔が、何とも言えない美しいお顔だった。


『30までは親の顔。30過ぎたら自分の顔』
という言葉があるが、本当にその通りだ。
坂口さんの気遣いや心配り、優しさは全てが顔に出ていた。

坂口さんは、笑うときには顔をクチャクチャにして笑った。
ところがどんなに顔をクチャクチャにして笑っても、その顔が美しいのだ。
年齢を重ねると、シワを消すために必死になって手を加える人がいるが、シワなんて気にせず思い切り笑う人の方がよっぽど美しいと思った。

笑い方の話だけではない。
例えばトイレに行くと、キレイに化粧を直して、キレイに髪を直して、自分が散々汚した所をキレイにしないで出て行く女性をよく見かける。
見かけばかりキレイにしても、いずれはボロが出るものだ。

ホンモノの美しさは、内面からにじみ出るもの。
大切なことを、大女優の背中から学ばせていただいた。


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