異文化コミュニケーション
「日本の可愛いもの、何だろうな〜!」
14歳の私は、 日本の可愛いものを探していた。
なぜなら、Because 、、、My friend's birthday is coming soon!
おっと、失礼。つい英語で話してしまいましたわ。
14歳の私は、海外文通を始めた。
今のように簡単に海外の人とメールなどできない当時、『ペンパル』といって海外文通が流行った。
学校だったか英会話スクールだったか忘れたが、私も申し込んだ。紹介されたのは、アメリカに住む同い年のウェンディちゃんだった。
初めて英語で手紙を送った時の興奮。
初めてエアメールが届いた時の喜び。
海を越え、遠い国にいるウェンディちゃんとの文通は、とても楽しかった。
そんなウェンディちゃんのお誕生日がもうすぐやってくる。
思いきり喜ばせてあげたい!
日本の素晴らしいもの、可愛いものを送ってあげたい!
私はウェンディちゃんが喜んでくれそうなものや日本の可愛いものを、あちこち探しまわった。
「アメリカの消しゴムはあまり綺麗に消えないから、消しゴムをあげたら喜ぶんじゃない?日本のは優秀だからね。」
京都大学に通う家庭教師の先生が教えてくれた。
よっしゃ!まずは、消しゴムを買うぞ!
私は近所の文房具屋さんで、一番消える消しゴムを教えてもらい、購入した。
あとは何があるかな。
私は自分がよく通っていた雑貨屋さんへ行き、可愛い文房具品や小さなぬいぐるみなど、ウェンディちゃんの顔を思い浮かべながらをいくつか購入した。
金額にすれば、2000円ほどだったろうか。
14歳の私にとっては、大金だ。
お小遣いをコツコツ貯めて買った、ウェンディちゃんのお誕生日プレゼント。
よし!いいんじゃない?
我ながら、なかなかのプレゼントだ。これなら絶対に喜んでくれるはず!
あちこちの店で買ってきた品々とバースデーカードを可愛い箱に入れ、可愛い包装紙でラッピングをし、可愛いリボンをつけた。そしてウェンディちゃんへの大切なプレゼントなので、少し高くても飛行機便で送ることにした。
数週間して、ウェンディちゃんから手紙が届いた。私が贈ったお誕生日プレゼントに興奮している様子が伝わってくる。
『Amazing!』『Fantastic!』などが何度も書かれていた。
良かった〜!ウェンディちゃん、喜んでくれたんだ!
私も幸せな気持ちになった。
数ヶ月後、今度は私のお誕生日だった。
ウェンディちゃんはエアメールで『ナナに誕生日プレゼントを贈ったよ』と書いてくれていた。
私は一日千秋の思いで待ち詫びた。
しかし誕生日当日になっても、一日過ぎても、一週間過ぎても、いっこうに届かない。
私はだんだん不安になってきた。無事に届くのだろうか?
結局のところ、誕生日のことなど忘れた頃にプレゼントが届いた。船便で送っていたため、時間がかかったのだった。
待ちに待ったウェンディちゃんからのプレゼント。その外見は、私が想像していたものとは全く違った。
可愛い包装紙とリボンの代わりにラッピングで使われていたのは、英字新聞だった。新聞でプレゼントを包むなんて想像もしなかったので、私は驚いた。この新聞は、ウェンディちゃんの家にあったものだろうか?
新聞を開けると、白い可愛い箱が出てきた。私がウェンディちゃんに贈った箱だった。
「これ、、、私があげた箱だよね?」
一瞬、私が贈ったプレゼントを送り返されたのかと思って思ってしまった。
そんなわけない。ウェンディちゃんは、あんなに喜んでいたではないか。
私は気を取り直して箱を開けることにした。
ウェンディちゃんは、何を贈ってくれたのだろう?
どんなプレゼントを選んでくれたのだろう?
可愛いシールとか入ってるかな!
お洒落なシャープペンシルとかだと嬉しいな!
ドキドキしながら開けてみると、、、
・使い古した人形
・大量の松ぼっくり
が入っていた。
「何コレ!?」
私は思わず声が出た。
人形は、三つ編みをしたネイティブ・アメリカンの少女で、ほっぺたや体のあちこちが黒く薄汚れていた。
モノの価値がお金だとは言わない。
でもウェンディちゃんのお誕生日には、喜んでもらえそうな品々を探しまわり、なけなしのお小遣いから奮発して贈っただけに、ショックだった。
どうしてウェンディちゃんは、お古をくれたのだろう?
モヤモヤした気持ちのまま日にちが過ぎ、私は家庭教師の日、先生にぶつけた。先生は手紙とプレゼントを見てニコっと笑い、こう言った。
「それはね、お互い大事に思うものが違うだけだよ。」
「どういうことですか?」
「日本では、お誕生日プレゼントは『買うもの』だと思ってるでしょ?でもね、他の国では、必ずしもお誕生日プレゼントは買うものとは限らないんだよ。ウェンディちゃんのように、自分が大切にしていた人形をプレゼントしたりね。自分が大切にしているものを贈るのも、立派なプレゼントでしょう?松ぼっくりは、きっと日本には無いだろうと思って送ってくれたんじゃないかな。ウェンディちゃんの気持ちのこもったプレゼントだと思うよ。」
目から鱗だった。
そうか。国によって、こんなにも価値観が違うんだ!
日本の常識だけで育ってきた私には、衝撃だった。
先生は、続けた。
「箱やラッピングに関しても、そうだと思うよ。心がこもってないわけではなくて、合理的なんだと思う。箱はわざわざ買わなくても、奈々ちゃんが贈ってくれた綺麗な箱に入れればいい。ラッピングは無駄遣いしなくても、家にある新聞で包める。船便だって、誕生日に間に合わなくても、無事に届けばいいからじゃない?」
そうかぁ。
そういうことかぁ。
私は、ウェンディちゃんからのプレゼントにガッカリした自分が恥ずかしくなった。
そうかぁ。
ウェンディちゃん、私のために大切にしていた人形をくれたんだ。
自国の文化に誇りを持ち、他国の文化を敬う。
これぞ、異文化コミュニケーションの真髄ではないか!
私は一歩、大人の階段を上った気がした。
でも本当のところを言うと、それでもやっぱり、アメリカの可愛いシャープペンシルとかハンカチとか、1つでいいからワクワクするものが欲しかったなぁ。。。
なぁんて思ってしまったのは、ナイショの話(笑)
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