連作ショート「行かないでと言えない」第1話
第1話「水彩画の、バス・ロータリー」
軒下のベンチに居ると、時間なんて忘れている。
このしとしと雨くらいなら、自宅に走って帰れば好いけれど。
2学期の中間テスト週間の正午過ぎ。明日の試験後は、ショウコとファミレスで、ランチ。
久しぶりに、チェリオを飲もう。微炭酸っぽいオレンジジュース。
推薦入学の願書も出して、あとは、受験当日のCall&Responceのトレーニングするだけだ。
だけど、SKI競技部って、今、強いのかな?
一応、ユニヴァーシアード目指せる大学も願書を出しておいたけど。
もう、一気飲みは出来ない。
あの頃、部活帰りに仲間とこの店の軒先で過ごしてた。バスケ部じゃ
なくっても、みんな仲間だった。
遠い昔に、なってしまうのかな。。。
少し、ウトウトしかけた時。
バッシュ靴底の、キュキュッと擦れる懐かしい音。アスファルトに刻んだ。誰だか気づいても、顔を上げなかった。
そっか。通学用におろしたんだね。。。
嬉しいけれど、喜べない。
最後まで続けるなんて、きっと就職希望なんやね。
そういえば、どっち方面に行くのか知らない。東か西か、、、留まるのかな?
バスケの部活より、冬にはゲレンデに行く事を選んだ。
合宿に行かなくって、キャプテンに怒鳴られ、仲間にハミコにされた。
2年の12月に退部した。
見かけに依らず、心配してくれたバスケの顧問の女性教師には、
「私には、スキーがありますから」
と、ツッパった。
「女の世界って、怖いね、、、」
と、珍しく呟いた。
作り笑いするしかなかった。
ちがう。先生。
ツッパったのは、トモオ君にだ。
最後まで、否定して欲しかった。その事を許せないでいた。
仲間外れだろうが、ギッチョのドリブルとロングシュートの確率は、私が2トップのポイントガードやし❗
と、言いたかったが。
だが、だからこそスキーの個人競技を選んだのだ。
そういう性格は、変わるのかな。
自分を変えられれば、人間関係が変わるのかな。。。
合わせてたって、どっちも苦しくなる。妥協じゃなければ、折り合いつけて来たんだけど。
ゆっくりと顔を上げて見た。
やっぱり。半年ぶりかな。
しばらく何も言わないで、ふたり並んで座ってた。
「終わったね。バスケも」
トモオ君は頷いた。チラッと確認してみたから。
「ナミちゃん。どこ受けた❓」
「外国語の方と、スキー部の強いとこ」
「、、、そっか」
「もう願書も2つ出して、後は一芸入試。内申書の1次選考待ち」
トモオ君もコーラを買って来た。あいかわらず、ペプシを選んでる。
「ガッコどこ❓」
「京都外大が第1志望で、第2が中京大学。必死でついて行こうと思って」
「、、、だよね。ここに居たら、どちらもナミちゃんは必死になれない」
「それ、どういう意味なん❓」
特に思惑もなく、並んでるトモオ君に訊いていた。
「、、、何でもない」
「あっ❗あれ、気持ちが軽いと、そういう行動に出られるの、私」
「、、、分かってるよ。ボクもや」
「、、、そっか」
「うん」
「ボクは岐阜やし』
トモオ君が小さめに呟いた。
私には聞こえなかった。ミニバンが通り過ぎて。
私、免許はゼッタイ、AT車にする❗
雨も通り過ぎたけど、もう一度聞けなかった。答えを知るのが怖かった。
でも、わだかまりが1つ、取れた気がした。
「受かるといいね、外大」
「うん。通訳ガイドか翻訳家に成りたい」
「先生じゃないんや❓」
「やだ。家にサンプルあるから。
家庭がどうなるか、知ってる。
好きな仕事に没頭するほど、家族が空回りするもん」
「おうちが❓」
「うん」
「、、、そうなんだ。うちも」
「、、、そやねえ。なんでもそや」
「うん」
「、、、けど、20代くらい必死に一生懸命没頭したい」
しとしと降りが、少し本格的になって来た。
「あ、トモオ君。傘は❓」
「持って来てない。バス停そこやし」
「うん」
「、、、ありがとう。話してくれて」
私は笑顔で頷く。
「ぁ、あれ。浜田省吾の唄。
遠くばかり見つめて、街を出て行く子。中学の頃から窓際席で、この盆地の外ばかり見つめてた」
「あいかわらずやな、ナミちゃんは」「どのへんが❓」
「しっかりしてるし素直やし。自分を持ってる」
「変わんないよ、ずっと。
【しっかりしてる】は知らんけど。でも、変わりたい気もする。同じ場所に居ても、ね。。。」
「そうやな」
「トモオ君は、就職決まった❓」
一瞬、かぶりを振ったかに見えた。
そこか❗ってカオした、気もした。
今、思い出すと、いつも最後は、どっちだか分からなくなる。
そして、仕事や夢に振り切ってしまうのだ。
後日、卒業式当日に配られる小冊子の連絡先で知った。
トモオ君は就職ではなく、進学だった。本当に岐阜県の大学だった。
出来過ぎとしか言いようのない、終わり方。それが言葉を交わした最後になった。
トモオ君ちが、土木建設会社だってことさえ、知らなかった。
ただただ〈ナミちゃん〉と呼んでくれるのは、唯一トモオ君だけだった。
そのセンチメンタルに浸りたい時が、たまにある。
なんて事ないおしゃべりが、いちいち心に残る言霊の、プレゼント。
そんな人だった。
ーーー to be continued.
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