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トンガ坂文庫へ行ってきた


三重県尾鷲市(おわせし)の小さな漁村にぽつんと建っているトンガ坂文庫さんに行こう。


岡野先生がそう言い出したのは1月の中旬ごろだったように思う。


そもそもなぜ岡野先生がトンガ坂文庫さんに行きたくなったのか。
 
おおよその想像はつくが、それはわたしの想像でしかないのでここには特記しない。
 

さて、そのトンガ坂文庫さんに行く計画は水曜日に実行された。
 
午前10時に駅に集合して岡野先生の車にみんなで乗り込む。
みんなというのは、ふみくら倶楽部4代目部長M先輩と6代目部長のM後輩のこと。わたしは5代目M部長。書いていて全員Mなので驚いた。
 
道中は、トンガ坂文庫さんについての話から始まり、本の話、卒論の話、就活の話、ふみくら倶楽部の話なんかをした。ドライブは楽しい。わたしは何にもしていないのに景色はどんどん変わっていくし、心地よい音楽は流れ、楽しい雑談が聞ける。ドライブは気持ちい。


お昼前に尾鷲に着いた。「豆狸(まめだ)」というお店に連れて行ってもらった。お店のあらゆるところに狸の置物があった。なぜ狸なのか聞けばよかった、お魚の店なのに。何を食べようか迷ったが、郷に入っては郷に従えということで海鮮ユッケ丼を食べた。普段あまり魚を食べないので魚のおいしいの基準は確かではないが、おいしかった。魚も悪くないなと思った。魚のおいしさを教えてくれるのはいつも大人だ。後日、尾鷲市で働いている人に聞いたのだが「豆狸(まめだ)」さんは当たりのお店らしい。
 


さて、トンガ坂文庫さんの話をしよう。トンガ坂文庫は本澤さんという20代後半くらいの女性の方と、豊田という30後半くらいの男性の方が経営している。
人口400人弱しかいない、三重県尾鷲市(おわせし)の漁村、九鬼町(くきちょう)で金・土・日曜日限定でやっている本屋さんである。なぜそんな辺鄙なところで本屋さんを?どうやって生計を立てているの?本を売る楽しさってなに?聞きたいことはたくさんあった。
 
トンネルを抜け、すこし進むと目の前に海が現れた。海には漁船がいくつか浮かんでいた。天気が良かったのもあり、海はきらきらしていてとてもきれいだった。岡野先生が駐車場を探している間に、車から降りて海を見に行った。海は透き通っていて、小魚の大群が泳いでいた。気持ちよさそうだと思った。覗いたついでにそのまま落ちて、しばらく海底に住んでみたいとも思った。あれだけ水がきれいならわたしでも1週間くらい生きられるだろう。そんなことを思っていたらトンガ坂文庫の本澤さんがお店から出てきてくれて出迎えてくださった。トンガ坂文庫に行くまでにトンガ坂がある。トンガ坂にさしかかるすこし前に、空に向かって話しかけているおばあちゃんがいた。すると空から笑い声が降ってきたのだ。ぎょっとしてその方向を見ると、屋根の上に別のおばあちゃんが座っている。ひゃー!そんなところに登って!落っこちちゃったらどうするんですかー!と思いながらも、可笑しくて笑ってしまった。布団を干して日向ぼっこをしながら、お友達と屋根の上からおしゃべり。なんてうらやましいことなんだ。わたしもあんなふうに歳をとりたい。本澤さんいわく、日常的な光景だそうで。愉快なまちだ。
 
トンガ坂文庫に着くと、豊田さんとネコがお出迎えしてくれた。名前は「まだ」ちゃんと言うそうだ。お察しの通り、夏目漱石の『吾輩は猫である』の冒頭からつけられている。 まだちゃんは人懐っこくて、先輩や後輩に近づいていきすりすりと体をこすりつけていた。
 
お店には靴を脱いで上がった。建物はレトロな感じで、本棚が木だったので落ち着いた。新書も古本も両方あった。本屋さんへ行くと新しい本に出会えてうれしい。でも、知っている本があるのもうれしい。知っている本に出会うとすこし安心する。
 
タイトルに惹かれて5冊ほど買った。本も人も背中で語る、とときどき思う。
 
各々の本棚めぐりが終わったころに、本澤さんが紅茶を入れてくださった。


紅茶を飲みながら、なぜここで本屋さんをやっているのか?という質問が飛んだ。
「そうですねえ、成り行きなんですけどね、本屋を始めようと思って始めたわけではなく、たまたま物件が空いてて、たまたま設計とかデザイン関係の仕事をしている人がいて、そこにたまたまわたし(本澤さん)がいたという感じですかね。」
というような回答が返ってきた。そんな気軽に本屋を始められるのか、と思った。それなら私でも開けるのではないか……。
どうやって生計を立てているのかと尋ねたら、普段は別のお仕事をされていて、本屋さんは趣味だそうだ。金銭面でマイナスにならなければいい、というような感じだった。なんて素敵な趣味なんだ。私も趣味にしたい。
本を売る楽しさについて尋ねるとたくさん回答してくれた。まず、本の仕入れをするときに、お客さんの顔が浮かぶそうだ。あの人ならこんな本を読みそうだ、このジャンルに興味を持ってくれそうだ、など本を通じて人が見えるらしい。夏葉社の島田さんもそんな感じのことをおっしゃっていたように思う。また、九鬼町という小さな漁村に本が増えていくことが楽しいし、本一冊を一人、つまり人口として考えたときに、今はこのまちに1800人くらいいるんだなーと思うと面白いのだという。本一冊を一人とする概念がいいなと思った。本の可能性が広がる気がした。あとは、トンガ坂文庫がここになければだれもと通ることがなかったであろう道に、人がいることが面白いのだそうだ。確かにわたしもトンガ坂文庫がここになければこんな辺鄙なところに来なかっただろうな、と思った。本は人を動かす、そう感じた。九鬼町に本屋さんはトンガ坂文庫しかないそうだ。だからまちの人が「ええ本、面白い本ないか~」と集まって来るらしい。まちの人が集まる本屋さんって理想的だな。
 
と思っていると、来客が。「下にバイクが止まってたからもしかしたら今日開いてるのかと思って」と言いながら入ってきた。目の前でまちの人が集まるようすが見れるなんてラッキーだ。
 
本が売れると新しい本を購入するらしい。つまり今日、我々が本を何冊か購入することによって、このまちに新しい本が増えるのだ。われわれ読者も間接的に本を動かしているということになる。
 
本澤さんの考えでいいなと思ったのが、本屋さん以外の仕事でお金を稼いできて、本にかかわる仕事でお金を落とすというお話だ。だれも損をせず、みんながうるおう。素敵なお金の回し方。そういうの大好き。「そうやってほかで稼いできたお金が本や出版に関する人たちに届けばいいなって。外貨稼ぎって呼んでるんですけど……」とのことだった。手品の世界でもそうで、ほかから稼いできてお金を持ってこればいいのだ。自分で持ってこれないのであれば、他の業界を同士を繋げるればよい。それがそれぞれの業界の発展に繋がるんじゃないかなと思っている。繋げるとかいうとなんか難しそうに聞こえるけど、簡単に言えば「コラボ」すればいいのだ。自分の発展させたい業界、または顔の利く業界との「コラボ」。簡単なことだ。素敵なことじゃないか。好きな業界同士がくっつく。ただ企画すればいい。100回企画すれば1回くらいは通るだろう。
 
こんなことを考えていると、豊田さんと岡野先生から楽しそうな企画案が出てきた。あぁ、経営や企画の話が1番楽しい。また新しいことが出来そう。忘れないようにきっちりメモした。
 
そんなこんなで話は終わり、お暇した。

さようならトンガさん。
ありがとうトンガ坂文庫。
たくさんお話を伺えて面白かったです。
いい刺激になりました。

 
記念にみんなで写真を撮った。
 
帰り道、また来たいなと思った。

今度はほかの人と来よう。
ドライブ好きのだれかと。
海が好きなだれかと。
本が好きなあの人と。
 

まい

2020/02/19

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