マガジンのカバー画像

140字小説

17
140字以内で書く超短編。
運営しているクリエイター

#ショートショート

【140字小説】幸福のブラインド

辿る度溢れる思い出が邪魔で仕方ない。
どれも幸せで曇りない日々に見えてしまう。
「やはり心当たりはないですか」
警官の問いに唇を噛み締めて頷いた。
自分の無力さに腹が立つ。
なぜ僕は幸せな記憶しか思い出せないんだ。
彼女を殺した犯人の手がかりがこんな記憶にあるはずないのに。

【140字小説】ショートカット

ショートカットが好きだって貴方が言ったから、私の髪は1年短い。
だけど今、貴方の隣を歩く子の髪は長く伸びている。
多分好みが変わったわけじゃない。
考えればすぐにわかる話だ。
好みを聞かれたその時期の、その子がショートだっただけじゃない。

【140字小説】器のデカい彼氏

彼は器のデカい男だ。
デートに1時間も遅刻した私を笑って許してくれたし、さっき知らない人に道を聞かれた時も方向を教えてあげていた。
「それにしても、よくライブハウスの場所なんて知ってたね」
「まさか、知らないよ」
「え?」
彼は白い歯を見せて笑う。
「いずれは着くさ。地球は丸いんだから」

【140字小説】トリック泥棒

「凄い想像力だ。小説家にでもなった方がいいんじゃないか」
追い詰められた男は大仰な身振りで言った。
言われるまでもなく私は小説家だ。
そして貴方のトリックは私が昨日落としたメモ帳のものだ。
大事な復讐に人のネタで挑むなよ。
使えるトリックが1つ減ったじゃないか。

【140字小説】本はやっぱり紙がいい

昨今、電子書籍が流行っているが、私は紙の本以外認めない。重みや手触りの味わい。それこそが読書の醍醐味だ。
私は1ページ目を開いてQRコードを読み取った。
機械音声が読み上げる小説に合わせて、白紙のページをめくる。
本の重みや紙の手触りが堪らない。
やはり本は紙に限る。

【140字小説】多様性に配慮したペットショップ

「ここ、犬や猫はいないんですか?」
「アレルギーの人に配慮しました」
「蛇見たいんですけど」
「見た目が苦手な方もいますので」
見回すと、店内にペットは1匹もいない。
首を傾げて店を出ると「多様性に配慮したペットショップ」と看板が出ていた。