見出し画像

【概念変革02】中国BYD社[ドルフィン]試乗で実感した「業界破壊」の萌芽

 前回は、2007年にiPhoneが携帯電話の概念を変えたという「概念変革」の話から、話題は昨今のEV(電気自動車)に転じました。



中国BYD社「ドルフィン」の試乗をした、筆者の所感

 僕は今月、テスラに続く世界第二位のEV(電気自動車)メーカー、中国BYD社の新車「ドルフィン」の試乗をしてきました。

 所感を次にまとめます。

中国BYD社の新車「ドルフィン」の試乗をした、筆者の所感

□ 「日本車には永遠に勝てない」が数年前の正直な感想
□ しかしBYDの「ドルフィン」の性能と発売価格に驚愕した
□ 価格は、EV補助金65万円が出るので実質298万円
□ 先進の自動運転機能(ADAS)標準パネルも電子化
□ ラグジュアリー感はないものの、デザインは洗練されている
□ 走りも、シャーシ剛性が高く、しかも加速がいい
□ ちなみに、同程度の性能を持つォルクスワーゲンのID4は約550万円
□ 加えて、車体保証が4年
□ 消耗が気になるバッテリーは8年保証

 日本メーカーが「これと同じ性能のクルマを、同じ価格で作ること」は絶対に不可能です。

 なぜそう言い切るのか? 後編はその理由からお話ししたいと思います。

【理由その1】:ギガキャスティング

 まず「ギガキャスティング」。これは、車体の主要構造部分を1回のダイカスト鋳造プレスで成型する、というものです。

 簡単に言うと、今のガソリン車は、数千の部品を、プラモデルを作るように部品をくっつけて組み上げています。

 それに対して「ギガキャスティング」とは、従来の数多い部品をまるでレゴブロックのように、1つの大きなブロックにして、それをつなぎ合わせるかのように組み上げる技術です。

 ・1000個の部品を接着剤で接着
 ・レゴブロック数十個をつなげる


 どちらが安く、早く、車ができ上がりますか? ということですね。

【理由その2】:ソフトウェア・デファインド

 2つ目には、「ソフトウェア・デファインド」(SD)の技術。

 要は、クルマをスマホのよう1つのコンピュータに見立てて、ソフトウエアで車両の機能のすべてを制御する考え方です。

 旧来は、電装品、エンジン、サスペンション、カーナビ、エアコン、それぞれ別の電子機器が制御していましたが、それらを1つのチップとソフトウエアですべて賄う、という、効率的な考え方を採用しています。

 これにより、メンテナンスや、整備、機能のアップデート、が非常に高効率でできるようになっています。

 また電装品にかかるコストも大幅に削減できるし、自動運転機能の追加などのアップデートもネット経由でできてしまいます。

【理由その3】:サプライヤーとの調整不要

 そして3つ目、これが一番大きい理由です。

 現在の自動車産業はエンジンと車体のみ生産し、それ以外の部品は協力会社であるサプライヤー数十社に部品を生産委託しています。

 これを「1st Tier Supplyer」と呼びます。その川下にも、二次受けの部品製造メーカーが数百~数千社存在します。

 ですので、「EV化するから、部品をこうしてほしい」、と言っても、すぐには対応してもらえません。部品の生産・調達に、時間とコストがかかります。

 それに対して、テスラやはBYDは、自動車会社ではありません主要部品も自社で生産しています。

 彼らは、まわりのサプライヤーとの調整時間は不要です。

 ですので「こんな車が作りたい」という機能のアップデート、仕様変更、新車開発が、とても安価に、スピーディーにできます。

テスラやBYDの勝因は「概念変革」

 ではトヨタや日産、ホンダといった日本のメーカーがすぐ追随できるかというと、答えはNOです。
 
 既存のエンジン車でのノウハウ、取引先とのしがらみ……。

 そのすべてを断ち切って、新しいクルマの作り方、SD(ソフトウエア・ディファインド)のテクノロジーへ直ちに振り切るには、絶対に無理があるからです。

 なぜ、テスラやBYDが、歴史ある自動車産業の巨大メーカーであるトヨタやフォルクスワーゲンに勝てるのでしょうか? 

 そこにはこうしたクルマ作りの「概念変革」を起こしたからです。

BYDやテスラにおける、クルマ作りの「概念変革」

□ ギガキャストの考え方で、クルマの作り方を「プラモデル」から「レゴブロック」に変え生産効率を劇的に高めた
□ クルマを「機械」から「ソフトウエアで制御するコンピュータ」に、仕立て上げた
□ サプライヤーとのしがらみがない作りたいEVを、スピーディに作ることができる

 多大な資金力のあるトヨタは、生き残りをかけて2026年から米国でEV専業ビジネスを立ち上げます。しかし、体力のないほかの自動車メーカーは、コスト生産性で、EV専業メーカーには勝てません。

 現時点で活路が見出せるのは、例えば、大型のプレミアム価値のあるラグジュアリーなEV車にフォーカスし、プレミアム車専用メーカーに企業サイズを相当に縮小して、プレミアム・ブランドとして生き残る、といった戦略くらいぐらいでしょうか。

21世紀のビジネスには「概念変革」が必須

 ここまで読んで気づかれたと思います。これは、自動車業界だけの話ではありません

 こうした「概念変革」は様々な業界にイノベーションを引き起こし、業界マップはこの先10年で大きく変わるでしょう。

 この「概念変革」の一端を担うのは、間違いなく「AI」です。


 今後、この「AI」を理解してどう「概念変革」を起こせるかを考えるのが、経営者の仕事です。

 それが、企業の生き残り戦略になるでしょう。

 僕が「AI中山」を作った理由は、このAIが引き起こすであろう「概念変革」に身を投じて、誰よりも早く、その変革とは何か?を感じ取りたかったからなんです。

 こうした「概念変革」をしなければならないことは、世の中に山積しています。また機会を見て、書いていきたいと思います。


 


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?