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【事例付】カスハラ,炎上防止にAIで対応 -業務効率化だけでない 生成AIのビジネス活用

 生成AIについてビジネスパーソンと話していると、「Chat-GPTを導入したけれど、なかなか使われない」といった悩みをよく耳にします。

 また「RAG(ラグ、社内文章を読み込み回答できる仕組み)を簡易的に導入してみたが、一部ユーザー以外は使わない。RAGの検索精度をもっと上げられないだろうか?」といった問い合わせも絶えません。



生成AIの回答精度を上げれば使われるのか

 僕がいつも思うのは、「生成AIの回答精度を上げれば、本当に使われるようになるのだろうのか?」ということです。

 正直なところ、回答精度を上げようが、部署ごとの業務に即した推奨テンプレートを配ろうが、今の生成AIのレベルでは多少は利用率は改善されど、たいして効果はないな、と思っています。

 なぜなら、今の生成AIは、劇的な驚きや感動を、ユーザーにみせてくれないからです。

 生成AIは、思うような回答をなかなかしてくれません。プロンプト入力を何度も繰り返してるうちに、「あ~もう面倒だし、使うのやめた」となるのです。このことは以前、記事に書きました。


仕事で使われない理由

 Chat-GPTやCloud3、Geminiなどの生成AIの性能は、1年前より段違いに向上しました。想像を絶する速さで、です。

 でも、依然として「弱いAI」のままで「強いAI」になったわけではありません。ですので、使い方や、テンプレートなどのノウハウが今でも流行っているのです。

 そもそも、生成AIが一発で気の利いた回答をしてくれる、と期待することが間違いで、対話しながら使うのがコツで、それが楽しい、ということを記事に書いてるのですが、そのように認知はされていないようです。

日本企業で生成AIが流行らない理由

 業務効率化に生成AIを使う、がいまひとつ盛り上がらない理由のひとつは、日本の労働基準法です。業務効率化が実現し、仮に今まで100人でしていた仕事が30人でできるようになったとしましょう。でも、残りの70人を解雇はできないし、配置転換も容易ではない、という事実です。

 欧米のビジネス現場で、日本より生成AIが使われている理由は、業務効率化を実現すれば、人をリストラして販管費を企業はいくらでも下げられるからです。

 それゆえに、従業員も、必死になって生成AIを使って業務を効率化しようとします。なぜなら、自分が生成AIを使って業務効率化を実現しているとアピールしないと、いらない人と企業に認知され、リストラされるからです。


「人がすべきでない」仕事こそAIで

 こうした、業務効率化、コスト削減効果が出ないと嘆いているクライアントに対して、最近、僕が提案している使い方があります。

 それは、人がすべきではない仕事をAIにさせる、ことです。

 例えば、最近、「カスタマーハラスメント(カスハラ)」が話題になっています。暴言や嫌がらせ、度を越えたクレームを付けるといった顧客です。コールセンターに勤務する人の30%は、顧客対応によってメンタルに支障を来たしていると聞いたことがありますが、僕もそれは実感しています。

 ここ数年で、企業のコンプライアンスリスクはとても高くなってきています。経営者なら、こうしたリスクマネージメントは、まさに、プライスレスに取り組む必要が出てきているのではないでしょうか。

カスハラ対策,満足度UP…AI化の事例

 こうした、人がやりたくない仕事、人がすべきでない仕事のAI化の事例をいくつかあげてみたいと思います。

【実例01】携帯ショップ

 とある携帯ショップでは、接客カウンターの後ろにAIカメラを設定して、お客様との会話の様子を画像と音声でAIが見張るようにしています。

 音声を文字起こしして会話をテキスト化し、会話中に、カスハラっぽい表現があれば、それをサマリーにして携帯ショップの本社に報告レポートとして通知します。

 また、カメラがととらえる音声や表情で、明らかに威圧している声や態度がカメラに写ったら、ランプがつく仕組みを導入しています(こちらは生成AIではなく厳密には動画解析、音声解析のAIを使っています)。

 こうしたことで、何かあれば、店長が奥から出てきて代わって対応する、本社でハラスメントの傾向を分析するなど、カスハラから従業員を救うために、生成AIを活用しています。

【実例02】鉄道会社

 鉄道会社でも顧客対応にAIが使われています。駅員は胸にピンマイクをつけており、ホームや駅構内での利用者との会話を、AIがリアルタイムに聞いています。

 会話の中で、そのまま会話していたら、明らかに騒ぎになりそうなことがあれば、駅員に連絡がいき、利用者を駅長室に連れて行って、そこでクレームをじっくり聞くようにしています。

 この例は、カスハラから従業員を守る携帯会社の例とは少し異なり、利用者が鉄道会社の文句をネットに上げる前に対応すべく、AIにより企業の評判悪化防止策を講じているわけです。

【実例03】ホームセンター

 ホームセンターは、広い売り場の場合、数万点の商品があります。顧客の立場では、例えばDIYを行うなどの目的がある場合、製品のことの細かいことを聞きたいし、ちゃんと答えてもらえることを期待しています。

 しかし、すべての店員が答えられるとは限りませんし、適切な対応が受けられない場合の顧客満足度は、おおいに下がるでしょう。

 コンビニもそうですが、膨大な商品知識を持たなければならない仕事が増えてきています。質問に答えるためにバックヤードに入って商品を調べ、またベテラン社員に聞いて10分後に売り場に戻ると、お客さんがいなくなっていた、ということも起きます。

 こうした場合のAI活用は、例えば、マイク付きのBluetoothイヤホンから、「XXとは何ですか?」、「XXする場合の部材を教えて」と聞きます。するとバックヤードに置かれている商品情報が格納されたAIサーバーから、回答が音声で返ってきます。店員は聞いた情報をもとに、接客を続けることができるのです。


生成AIを使わない選択肢はない

 3つの事例をあげましたが、これ以外にも、ビジネスのユースケースは多数存在しています。

 このように、経営者もコスト削減がしにくい業務効率化よりも、お金じゃない価値を持つ、会社の評判に影響する分野にAIを使いませんか?というメッセージは、特に日本の経営者には響くのです。

 ところで。

 そもそも「生成AIなんて、無理に使わなくていいのでは?」という声もよく聴きます。

 それはその通りなのですが、やがて確実に、生成AIは強いAIになっていきます。今年1年の生成AIの進化スピードをみてれば、2030年までにその時代が来てもおかしくないですよね。

 こうしたAGI(汎用人工知能)が到来した時に、ずっと生成AIを使いこなしてきた人は生成AIを使う人に、使ってこなかった人は生成AIに使われる人に、確実に二分化されます。

 残念ながら、生成AIが強いAIになると、生成AIを使いこなして、生成AIを使う人になれるのは、おそらく全体の20%程度の人だと思います。

 その対極のAIに使われる人とは、AIが苦手な肉体労働や、AIシステムのメンテナンス(お世話)をする人で、これも全体の20%程度でしょう。
 
 残り60%の人は何をするか? たぶん何もしなく……いや、できなくなります。

 ベーシックインカムが導入される可能性が高いでしょうが、国から定額のお金をもらって生きていくことが楽しい人生かと問われれば、勤勉な日本人には厳しく、受け入れにくい生き方かもしれません。


 今後、こうした、業務効率化以外の、ビジネスでの生成AIの使われ方がますます増えてくると僕は感じています。そして生成AIが、日本のビジネス現場でもっと使われるようになればいいな、と思う毎日です。


 




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