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映画『君たちはどう生きるか』とChat-GPT -科学的,論理的思考からの脱却

 先日、遅ればせながら、ジブリの最新作映画『君たちはどう生きるか』を見てきました。公開してすぐ行かなかったのは、「意味が分からない」という評判が多かったため、躊躇していたからです。

映画 『君たちはどう生きるか』より

 映画を見ての感想は、「なるほど、ストーリーがわからない、何を言いたいのかわからない、という意見が出るのは納得」でしたが、同時に「意味が分からない映画って素敵だな」と思いました。

 「意味がわからない映画がいいとはどういうこと?」と言われそうですが、僕は本心からそう思い、鑑賞していて、とても楽しかったのです。

 僕は、この映画を見ながら、昨年末に登場した「Chat-GPT」が、どのような論理で、このように話せるのか、を探求していた頃を思い出していました


Chat-GPT理解のジレンマ

 僕は、大学時代、コンピュータを専攻していて、第二世代のAIの研究もしていました。

 コンピュータというのは、ヒトがコンピュータをこう動かしたい、このような入力をしたら、このように出力させたい、と思って、プログラミングして動かすものです。

 そこには、必ず、ロジック(アルゴリズム)と呼ばれる論理的な構造があり、システムは僕の指示した通り、僕の期待する(予想する)通りの答えを「するもの」です。

 いや、「するものでした」と言った方がいいかもしれません。Chat-GPTが出てくるまでは、です。

 Chat-GPTは、以前もお話ししましたが、問いかけられたことに、論理的に回答を考えて答えているわけではありません。ただ関数の計算をしいてるだけです。

 Chat-GPTなどの大規模言語モデル(LLC)は、大半が、「Transformer」という、ヒトの脳を模した複雑な計算をする仕組みで成り立っています。GPTのTは「Transformer」の頭文字の「T」です。

Chat-GPTは考えた「ような」回答をする

 例えば、家賃相場を計算するとした場合、土地の相場や間取りの他に、駅から徒歩何分か、築年数、近所にスーパーがあるか、など、考慮する点がいくつかありますよね。

 家賃=a  × 徒歩時間+ b × 築年数 + c × 環境の便利さ だとしましょう。

 で、ある物件の徒歩時間が駅から5分、築年数は10年、環境は◎、とした場合、最初、a、b、c、に適当な値を入れて計算するのです。当然家賃は正しく出てこない。

 そこで、徒歩時間をもっと重視するかも、と、aの値を増やしてまた計算するのです。だめなら、築年数はそれほど重要でないかも、とbを小さくして、また計算する...を繰り返し「計算」することで、abcの最適値を見つけ出す、これが関数計算をするという意味です。

 つまりです。Chat-GPTは考えてない、つまり論理的思考回路がないのに、論理的に考えた「ような」回答をするのです。
 
 これは、僕のような、コンピュータ=論理的に動く、回答は、期待したものを必ず出す、という世界に生きてきたエンジニアには、なかなか理解できないのです。理解するのに抵抗がある。

 なぜなら、関数を計算するだけで、Chat-GPTのような回答を返すことについて、その論理が、説明できないし、理解できないからです。


世の中には「非科学的、論理的でないこと」が在る

 ですので、僕は、ChatGPTの存在を最初、認められなかったし、理解できませんでした。理解したくなかったのかもしれません

 世の中には、論理的に理解できるものと理解できないものが存在します。でも僕たちは、論理的、科学的なものしか、基本的には認めてきませんでした。

 でも、それだけではダメだ、というのを、僕は、Chat-GPTを理解する過程で、葛藤しながら、自分の考え方を徐々に変えていったのです。

 つまり、「世の中には、論理的なことや科学的に証明されること」ばかりではなく、むしろ「非科学的、論理的でないこと」が多く、それを受け入れないといけない、ということを、Chat-GPTの登場で学び、受け入れたわけですね。



「科学的、論理的なことしか認めない」ことからの脱却

考えるな、受け入れろ

 この「葛藤」のプロセスを、映画「君たちはどう生きるか」を鑑賞していて、思い出したのです。「ああ、これは、理解できないものだし、理解すべきものでない、ただ受け入れて、楽しめば、それでいいんだ」と…。

映画 『君たちはどう生きるか』より

 僕は、Chat-GPTの登場は、こうした、現代社会の「科学的、論理的なことしか認めない」ことからの脱却をしなさい、というメッセージではないかな、と思っています。

 この先、こういうことが、多く起きるのではないか、それに気が付くことで、僕たちは、また一歩、進歩するのではないか…。

 その思いを『君たちはどう生きるか』を鑑賞する中で、より確信した。それが、僕がこの映画を見て、すごくよかったと感じた理由です。

 まさに「考えるな、受け入れろ」ですね。



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