生成AI時代に求められる能力とは? AIとリベラルアーツ
前回の記事の続きです。
前回は、生成AI時代に必要な人の能力は、「左脳を使う論理的思考による問題解決能力」から、「右脳を使う構想力とその構想をするために必要な発想力」になっていくと書きました。
今回は、今後より重要になってくる「右脳を使う構想力とその構想をするために必要な発想力」を身に着けるのに、リベラルアーツが必要ということについて書いてみたいと思います。
リベラルアーツとは
そもそも、リベラルアーツって何? からお話しします。
こういう時はChat-GPT君に説明してもらうのがいいですね。
総じてこの通りなのですが、僕のいうところのリベラルアーツは、もう少し狭義の意味であり、非サイエンス領域の教養のことです。
僕の言っているリベラルアーツは、非サイエンス、つまり、科学や技術(STEM分野)ではなく、哲学、文学、歴史、芸術、言語、心理学、社会学などの学問を指します。
ビジネスマンがこれまで求められてきた問題解決能力は、まさに、科学=サイエンスの世界です。
問題解決能力を司る論理的思考はロジカルシンキングと呼ばれ、多くの書籍やビジネススクールで教えられてきましたし、ビジネスの基礎能力として、今でもビジネスをする上で、とても必要とされています。
対して、僕がこの先の生成AI共生社会において、ビジネスマンに必要な知識・能力であると考える「リベラルアーツ」は、非ロジカルなものであり、人間心理、感情、歴史、文化、など、社会の仕組みそのものの理解です。
なぜ、こうしたリベラルアーツが、この先、サイエンス的な論理的思考力、課題解決力以上に大切になってくるか。それについて、いくつか事例を紹介しながら、考察してみたいと思います。
ジョブズの創造性とZENの思想
経営者とリベラルアーツという文脈で有名なのは、AppleのCEOであった、カリスマ経営者のスティーブ・ジョブズではないでしょうか。
スティーブ・ジョブズは「ZEN=禅」を自分の生き方の中心においていたことで有名ですよね。
禅(ZEN)は、日本における仏教の一部として知られていますが、禅の目的は「悟り(さとり)」を得ることであり、煩悩や執着を手放し、物事の本質を直観的に理解することを目指すとされています。
シンプルに言うと、ZENとは、宗教学の枠を超えた思考体系であり、物事に執着せず、シンプルに生きるという思想であり、生き方そのものです。
僕もZENの考え方が大好きで、ZENの思想に沿って生きています(笑)。
ジョブズにとって禅は、人生や仕事に対する根本的なアプローチを形作る要素であり、シンプルさ、直感、今を生きること、などを追求することで、Appleの製品や経営方針に強く影響を与えました。
以下に具体的な事例を挙げてみます。
iPhoneのシンプルなデザイン
iPhoneはそのシンプルでミニマルなデザインが特徴です。ジョブズは禅の「無駄を削ぎ落とす」美学を反映させ、物理ボタンを減らし、ホームボタンを中心に設計され、後のモデルではそれさえも削除されています。iOSのユーザーインターフェース
iOSの操作性はシンプルかつ直感的で、ユーザーがほとんど説明書を読まなくても使えます。禅の「自然体での行動」を意識し、ユーザーが手に取った瞬間に自然に操作が分かるようにデザインされています。削ぎ落としたプロダクトライン
Appleは製品ラインナップが非常に限定されています。これは、禅の「少なくして多くを表現する」という考え方に基づいており、数多くの製品を出すのではなく、少数の製品に集中することで品質を高めています。
こうしたことから、禅のような哲学ともいえる考え方が、ジョブズの創造性、ひいては、Apple製品コンセプトに通じていることがわかりますよね。
ジョブズは典型的なリベラルアーツを経営に昇華させた人物です。そこで、意外に知られていない、リベラルアーツの代表ともいえる「アートと経営の関係」も、ジョブズの過去の偉業から振り返ってみます。
MAC PC誕生の秘訣は「美の追求」にあり
Appleのパソコンは、クリエーターや芸術家に特に支持されているのは有名ですが、なぜそうなったのかをご存じですか?
Appleの最初のヒット作ともいえる、マッキントッシュ(Macintosh)が発売されたのは今から40年も前の1984年で、僕はその数年後に、大学でマッキントッシュPCを初めて使って、大きな衝撃を受けました。
なぜなら画面に映し出される文字=フォントが、従来の等幅フォントではなく、プロポーショナル・フォントだったため、あまりにも画面表示が美しかったからです。
プロポーショナル・フォントの発想はカリグラフィー
プロポーショナル・フォントとは、文字の幅が異なるフォントです。
マッキントッシュが発売されるまでのパソコンは、すべての文字が同じ幅を持つ等幅フォントが使われていました。それが当然でした。
しかし、当時と等幅フォントは、ヒトの書いた文字や文章と比べると、違和感がありました。なぜなら本来の文字は横幅が異なっているからです。たとえば、「i」は狭く、「W」は広いなど、ですね。
この違和感を解消したのが、プロポーショナル・フォントです。
上段が等幅フォント、下段がプロポーショナル・フォントです。
下の文字の方がきれいだし、何よりも「美しい」ですよね?
プロポーショナル・フォントをパソコンで使うことで、作成した文章の読みやすさが向上し、文章全体の見た目が「美しく」なるため、その後の印刷物やデザイン、ウェブサイトなどで使用されるようになりました。
それ以来、美的センスに秀でたデザイナーや出版業界の人々の間でマッキントッシュPCは人気を博すようになり、今のMacBook人気に至っているのですね。
ジョブズが、プロポーショナル・フォントを自社のパソコンで使うことにこだわったのは、学生時代に学んだ「カリグラフィー」にあると言われています。
カリグラフィーとは
カリグラフィーとは、美しい文字を書く芸術または技術のことです。手書きで文字や記号を装飾的に、優雅に、表現豊かに書くことを指します。
文字を書く芸術?...言葉で説明するより、次の絵をみて下さい。
カリグラフィーは単なる読みやすい文字を書くことではなく、文字自体を視覚的な芸術作品として扱い、その美しさや表現力を重視します。この芸術形式は、書道や装飾文字、ロゴデザインなど様々な分野で使われています。
スティーブ・ジョブズとカリグラフィーの深い関係
ジョブズは1972年にリード大学に入学しましたが、半年で退学します。それでも大学には残り、興味のあるカリグラフィーのクラスを聴講しました。
その授業で彼は、フォントの種類や文字間のスペース、タイポグラフィの美しさといったデザインの基礎を学びました。
1984年に発売された初代マッキントッシュは、カリグラフィーのデザインにインスパイヤーされた、美しいプロポーショナル・フォントやグラフィカルなユーザーインターフェースを備えていました。
これは、それまでのコンピュータにはない革新的な要素であり、ジョブズがカリグラフィーから得た美的センスが反映された結果でした。
ジョブズ自身「もしカリグラフィーを学んでいなければ、マックは現在のようなデザインにはならなかった」と語っています。
ジョブズはこう語っています。
「Technology alone is not enough. It's technology married with liberal arts, married with the humanities, that yields us the result that makes our heart sing.」
「技術だけでは不十分だ。技術とリベラルアーツ、人文学が融合することで、心を躍らせる結果が得られる。」と...
僕も本当にそう感じています。
事実、僕はAppleの製品を機能性だけで買っていません。使い勝手がいいのはもちろんですが、「美しい」から惹かれるし、そこには機能性ではなく、「意味性」があるからなんですね。
これだけモノがあふれた時代には、「意味があるもの」に人は惹かれて、使う時代になってきています。
生成AI共生時代のリベラルアーツの重要性
最近、インベーションを追求するテクノロジー企業では、Apple以外にもリベラルアーツの重要性を説く企業が増えています。
例えば、Googleは、ZENをベースにしたマインドフルネスを社員にプログラム提供していることで有名ですが、それだけでなく、2013年にDamon Horowitz氏を「社内哲学者」として採用し、テクノロジーと人との関係を探求して「人間中心の技術開発」のいうコンセプトを促進したりしています。
このように、先端企業は、ビジネスに「リベラルアーツ」をすでに積極的に取り入れています。左脳、すなわち論理的思考では「人の創造性」を高めるのは難しい。そこでリベラルアーツを学ぶことで、右脳を使うことを促進しています。
つまり生成AIの時代、左脳だけでは経営に限界が来る。彼らはそのことを既に予測していて、経営に積極的にリベラルアーツを採用しているのです。
「それって、米国の最先端の大企業の事例ですよね?」と言われそうですが、そうではありません。
次回は、日本でのリベラルアーツの事例や、僕自身が生成AIの仕事をしていて感じているリベラルアーツの重要性と使い方について書いてみたいと思います。