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養育費の不払いが沖縄で多い理由は? 「当然の権利」を得られる社会に

(弁護士・山城圭さんインタビュー)

離婚を巡るトラブルから基地問題まで、あらゆるジャンルを手掛ける沖縄の弁護士・山城圭さん。米軍基地問題の弁護団として活動する一方、離婚後の養育費不払いをなくしたいとの思いで、同期仲間と「沖縄養育費弁護団」を結成し、無料の電話相談を続けている。新聞記者だった母から社会の理不尽な現状を聞かされ、「間違ってることを間違っていると言える仕事に就きたい」との思いを抱いた幼少期を経て、弁護士となって16年。見えてきた沖縄の現状や課題について、話を聞いた。(2022年7月取材)

「みんなに当然の権利を得てもらいたい」と語る山城圭弁護士=2022年7月、那覇市松尾のあらた総合法律事務所

【プロフィール】
山城圭(やましろ・けい) 弁護士、あらた総合法律事務所代表。2004年に司法試験合格、06年に弁護士登録し「おきなわ法律事務所」に入所。12年に「あらた総合法律事務所」を設立した。沖縄弁護士会副会長、犯罪被害者支援に関する委員会委員長なども務めた。2021年11月から那覇市男女共同参画会議の委員を務めている。首里高、新潟大卒業。那覇市出身。


◆離婚から基地問題まであらゆるケースを担当


2006年に弁護士となり、金銭トラブルなどの民事事件から、離婚・養育費や相続に関わる家事事件、窃盗や殺人などの刑事事件まで、あらゆるジャンルを扱ってきました。普天間基地爆音訴訟などの米軍基地問題関係の弁護団としても活動しています。
 
2021年9月からは、離婚後の養育費不払いを解消するため、同期の弁護士仲間11人で「沖縄養育費弁護団」を結成しました。養育費の請求の仕方などが分からない人に、必要な知識を広めたいとの思いで毎週1回、無料の電話相談を継続しています。

◆県民が諦めてしまう現状も基地被害だと思う


沖縄の課題は幾つもありますが、やはり基地問題です。第一に国が沖縄を見捨て、差別を重ねている問題点があると考えています。他方、沖縄側の課題としては、県民が反対や抵抗することに疲弊しきって、この問題の解決を諦めてしまっているのではないかと感じます。
 
しかし、これまでの経緯を考えると、県民が諦め感に包まれるのもやむを得ないと感じます。選挙などで県民が何度「民意」を示しても、国が応えてこなかったからです。「国の無責任」を県民が諦めてしまう現状もまた、僕は基地被害だと考えています。
 
それを考えると、県民同士で対立したり責め合ったりするのではなく、問題の根本を無くす努力をしたいです。幸い自分は弁護士という立場で、沖縄に基地が集中する現状や国の進め方を「おかしい」と言える立場なので取り組んでいるだけです。

米軍基地問題関係の弁護団として活動する山城さん(写真左)

◆子どもの貧困につながる「養育費の不払い」


「子どもの貧困」も沖縄の大きな課題です。とりわけ、離婚後に養育費が支払われない影響は大きい。父親が非正規や不安定雇用で収入が低く、現実的に養育費を支払えない現実もありますが、法的な知識がないケースや、女性側の意識の問題もあります。
 
例えば、女性側が「離婚したのに元夫を頼っているようでみじめだ」「恵んでもらうみたい」などと、養育費を「助けてもらっている」と誤解しているケースがあります。養育費の支払いは親である以上当然の義務。子どものために支払いを求めていくべきです。
 
養育費の不払いについては、男性側の理解不足も大きな要因です。例えば、3万円の養育費を請求された父親が、「そんな高額な養育費をどうすんだ」「どうせ母親が使うのではないか」と本気で言うわけです。一人の子を育てるのには月2~3万では到底足りませんが、それが理解できない。理由はシンプルです。子育てに関わっていないからです。
 
 
例えば、子どものオムツやミルクや服、教育費に幾ら掛かるか、忙しい朝に子どもを起こして、ぐずる子どもにご飯を食べさせ、着替えをさせ、連絡帳を書いて、保育園に連れていって、それでやっと職場に行ったら、今度は熱を出したから迎えに来るようにとか、仕事が終わらないのにお迎えの時間がきて、仕事を途中で切り上げて迎える…。
 
家に帰ってからも休む間なくご飯を作り、遊ぶ子どもに食べさせて、ようやく食べさせたら、部屋中散らかっていて、片付けもそこそこにお風呂に入れ、夜遅くなると翌朝が大変だから、無理やり寝かしつけて、そしてまた朝がくる……そんな育児を日々担っていないと、子育てに掛かる費用も大変さも認識できないわけです。
 
僕は父親側の代理人につくこともあるので、その場合は権利だけでなく、父親の義務についても理解してもらうよう説明しています。

◆「正しいことを正しい」と言える仕事をしたい

弁護士として働き始めたころ

弁護士を目指すようになった理由は、特に「これだ」という決定的なものはないのですが…母、祖父、伯父、いとこなど親族に新聞記者が多かったので、子どもの頃から社会問題についてはよく聞かされていました。例えば、経済的に厳しい一家が生活保護を受給できずに餓死した話など、理不尽な現実を聞かされるわけです。そんな現実を知るにつれ、「間違ってることは間違ってる、正しいことを正しい、と言える仕事に就きたいな」とは思ってました。
 
親族の働きぶりを見ていたので、新聞記者は激務なので無理だと思っていました。弁護士は自営業なので、自分で仕事の量を調節して、今でいうところのワークライフバランスを図れると思っていました(当時は)。ただ、結局弁護士になっても仕事は忙しいですし、調整が容易な仕事なんてないですね。
 

◆新聞記者だった母を通して感じたこと


新聞記者だった母は、子どもの目から見てもがむしゃらに働いていました。
うちは、よその家のように平日も家にいて家事をしながらおやつを出してくれて、などという家庭ではなく、僕と妹の二人だけで夜まで過ごす日も多かったです。でも不満には思わなかったですね。母が限界まで働いていることを知っていましたし、社会に必要なことをやっていると、子どもながらに誇らしく思っていました。今考えると、料理や洗濯も、もっと手伝えばよかったですね。今ごろ思い出して反省しています(笑)。

◆「男女共同参画」できる環境をどう整えるか


母が社会の最前線で働いていたので「男女共同参画」は当たり前だと思っていました。けれど現実的には今もまだ、家事や育児などの負担は女性の方が重いのではないでしょうか(大変恥ずかしながら私の家庭でもそうです。)。沖縄弁護士会では現在、各委員会に1名以上の女性に加わってもらえるよう取り組んでいます。すると女性が幾つも掛け持ちする状態になり、より負担が増えているようにも感じます。
 
現状を見直す前に男女共同参画が先行すると、女性の負担がもっと増えてしまうのではないかと懸念します。かといって参画を遅らせるという話にはなりません。難しい課題ですが、社会が、夫が、参画しやすい環境をどう整えていくのかだと思います。

◆5人の子育てにも奮闘、食べることが好き!

子どもと一緒に公園で遊ぶ山城さん

3歳、5歳、小2、中1、中3になる5人の子育て中です。3人目の子はダウン症で、出生直後は医師から「心臓に穴があるので将来は手術が必要」と説明されました。私も妻も不安でしたが、元気に育ってきょうだいと仲よく遊んでいます。どの子も可愛くてたまりません。
 
週末には下の3人を連れて外に遊びに行きます。新型コロナウイルスの感染拡大以降は、外出ができないのでベランダで水遊びをさせたりしています。
 
映画も好きですが、法廷モノや社会派の作品は、子どものころに母と一緒に観すぎたので、もう観たくないですね。今は仕事とは一切関係なく、社会問題が全く出てこない映画だけ観ています。ゾンビものとかエイリアンVSプレデターです(笑)。食べることが好きなので、親しい人と飲みながらおしゃべりするのも好きです。フライドポテト、唐揚げ、焼き肉など美味しいものは全て好きです。僕が注文すると揚げ物ばかりになって同席者からクレームが入りますが、結局は皆さん残さず食べています。人は皆等しく揚げ物が好きなんだと思います。

◆沖縄がより良く変化する力の一部になりたい

「社会が変化する力の一部になりたい」と語る山城さん

沖縄は国土面積の約0.6%しかないのに、日本全体の米軍専用施設面積の約7割が集中しています。その状況に反対の意思を示すと「わがままだ」「だったら交付金を減らせ」などと言われる現状です。
 
社会が抱える課題や現状は、すぐには変わりません。それでも僕は、沖縄県のためにも県民のためにも基地をなくしていくことが必要だと思っています。その先に県民の自立や経済成長があり、税収も上がって行政サービスも充実すると考えるからです。
 
ジェンダーやLGBTQ+の問題については近年、社会認識の変化が速いと感じます。男女共同参画についても以前は「遠いところにある目標」という印象でしたが、だいぶ変わってきました。僕は弁護士として、基地問題のような社会問題も離婚のような個人の事件も淡々と進めながら、みんなに当然の権利を得てもらいたい。そのためにも現場で困ってる人、沖縄が抱える問題の解決に向け、微力ながら、社会が変化する力の一部になれるといいなと考えています。

(聞き手・佐藤ひろこ)


第16期・那覇市男女共同参画会議の委員の皆さんをご紹介するインタビュー企画です。なは女性センターだよりで掲載した連載企画「ハイタイ ハイサイ 参画委員です!」のロングバージョンです(凝縮版の場合もあります)。


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