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意思決定の場に女性を!「男女共同参画」にモヤモヤしていた弁護士がいま思うこと

(弁護士・野崎聖子さんインタビュー前半)

「リーダーは強くなくていい!」
そう語るのは、沖縄を拠点に活動する弁護士の野崎聖子さん。「意思決定の場に、女性が加わることの重要性をすごく感じます」と力を込める。DVや離婚に絡むトラブルなどに悩み苦しむ女性たちをサポートし続けてきた。弁護士になり20年余、数多くの案件を通して見えてきた、女性たちを取り巻く現状や課題、男女共同参画への思いに迫った。(2022年3月取材)

(インタビュー後半はコチラ  →  登校しぶり、嘔吐…「働く母」を拒否し続けた娘の心を変えた「魔法の言葉」)

笑顔がチャーミングな弁護士の野崎聖子さん=2022年3月、なは市民協働プラザ

◆プロフィール
野崎聖子(のざき・せいこ)/弁護士、うむやす法律会計事務所。宮古高校、琉球大学を卒業、2000年に司法試験に合格。弁護士登録後、東京の大手渉外事務所で企業法務中心の仕事をし、06年に沖縄に戻る。13年1月に「うむやす法律事務所」を設立し独立(17年に改名)。現在は企業法務・一般民事事件・家事事件など幅広く担当。なは女性センターでは法律相談を担当。21年11月より那覇市男女共同参画会議の会長を務める。


法律相談から見えた、女性たちの現状や諸課題

2012年から「なは女性センター」で離婚に関する講座をスタートし、13年からは法律相談も担当しています。ここ十数年でインターネットやスマートフォンが急速に普及し、情報へのアクセスが進んだことで、「知らなくて損をする」という人は減ってきました。けれど、加害者と被害者の構図や、それに付随するDVなどの問題は、そう簡単に変わるものではありません。だからこそ、みんなで意識して取り組まないといけません。

なは女性センターが行う電話相談「ダイヤルうない」の相談員の皆さんの存在は、とても重要だと感じます。相談員が当事者に寄り添って丁寧に話を聞き、問題を一緒に整理してくださるおかげで、ご本人の理解も進みますし、法律相談が空転しないんです。

弁護士はどうしても裁判所的にものを見る部分があります。当事者に寄り添うのは当たり前ですが、「裁判所はどう判断するか」も分かるので、当事者に不利益なことも伝えないといけません。その時に、横に当事者の立場で寄り添える相談員さんがいることは、とても大切だと思います。

なは女性センター講座「面会交流~離婚後の子どもの権利を守るために」で講演する野崎弁護士=2022年3月

「意思決定の場」に、女性が加わることの重要性を実感

近年は特に、意思決定の場に女性が加わることの重要性をすごく感じます。一人一人の問題への対処療法的な対応も絶対に必要なので、その制度や窓口の拡充は必要です。加えて、社会的弱者や女性の気持ちが分かる人を指導的立場に置くこと、リーダー的立場の女性を増やすことが、どうしても必要です。そうすれば社会の価値観も変わっていくし、現状も大きく変わると思うんです。

そして、リーダーは強くなくていいと感じます。「リーダーシップ」と聞くと、「ぐいぐい引っ張っていく」「力強くまとめる」とイメージしがちかもしれません。でも、強い意志を示すことだけがリーダーシップじゃありません。

私が企業法務で関わる企業のトップで、すごく静かに、細やかに、いろんな立場の人の話を聞きながら、大きな器で柔らかくまとめ、業績をしっかり上げているケースがあるんです。もちろん女性登用にも積極的です。いろんなリーダーシップの形があると実感します。

経営会議などに女性が加わることで、意思決定の仕方や判断が変わることは、企業法務に関わる中でもよく見聞きします。女性を参画させること自体が、立派なガバナンスだと思います。

地域では近年、女性の区長さんが増えていますし、行政の審議会に女性が参画する機会も増えています。けれど、大企業の経営方針や行政の政策を決める場には、まだまだ女性が少ないです。女性議員も足りません。

2021年11月に那覇市男女共同参画会議の会長を拝命しました。何ができるか分かりませんが、「意思決定の場」「政策決定の場」に女性が参加しやすくなる、参加のハードルを下げるお手伝いができたらいいなと思います。

かつては「男女共同参画」にモヤモヤしていた

「仕事もプライベートも気負わずチャレンジしてみるって、大切なことだと思います」と語る=2022年3月、なは女性センター

実は…以前までの私は「男女共同参画」という言葉に対して、モヤモヤした思いもあったんです。女性にばかり負担を押し付けられているような気持ちや、「私じゃなくても、女性だったら誰でもいいんだよね」という思いもありました。きっと今、そう思っている女性もいると思うんです。

私自身、仕事と子育ての両立にすごく悩みながら、それでも何とか働き続けてきて、今いろんな仕事や役割に繋がってきたと感じます。女性が社会に参画していく上で、もちろん後ろ髪を引かれる思いもたくさんするし、辛い思いもたくさんあると思います。でもね、得られるものは必ずあります。「やってみると、そんなには大変じゃないよ」とも伝えたいですね。

私が男女共同参画に、意識的に取り組むべきだと思い始めたきっかけの一つは、2018年ごろの出来事です。東京医科大学が入試の際に、女子の点数を一律減らし、男子学生の割合を増やすよう点数操作していた問題です。あの報道を見て、この時代に根強く残るジェンダーギャップ問題の被害者が子どもたちであることに憤りを感じ、「今取り組まなければ、次の世代に問題を先送りにしてしまう」と感じたんです。

ちょうど同じころ、「#MeeToo運動」などが巻き起こり、ジェンダーにまつわる社会問題が次々に明るみに出ました。「この課題を子どもたちに負担させるのはどうなんだろう」と考えるようになり、自分にできることはやろうと思い始めたんです。

柔軟に気負わず、チャレンジできる社会を

各種の役割を担うことに負担がないとは言わないし、できないタイミングもあると思います。子育てや介護など、誰しも大変な時期はありますから。でも、可能ならハードルをぴょんと飛び越えてみてほしいです。そして、今の社会課題を次の世代に押し付けないように、みんなで取り組めたらいいなと思います。

わが家の長女は幼少期、私が働くことを猛烈に拒絶し、登校しぶりにまでなったことがあるのですが、そんな彼女も高校生になり、ジェンダー問題にも関心を持ち始めたようです。世界で活躍する女性たちの本を読んだり、スピーチを聞いたりもしています。

アメリカのIT業界の経営者であるシェリル・サンドバーグさんの名言の中で、印象的な言葉がありました。「女性には、もう少し自信を持って、あえて一歩を踏み出してほしい」と。確かに多くの女性は「自分には能力がない」「見合った仕事ができていないんじゃないか」と思いがちです。男性はもっと気楽にチャレンジしているし、いろいろ要求もしているんですよね(笑)。

仕事もプライベートも、あまり気負わずチャレンジしてみるって、男女問わず大切なことだと思います。やってみたら意外とできちゃうことってあるんですよね。何事も難しく考えすぎず、柔軟な生き方ができるといいなと思います。そして、ジェンダーギャップの解消など、今の社会課題を次の世代に押し付けないように、みんなで取り組んでいけるといいなと思います。

(聞き手・佐藤ひろこ)

※年齢などは2022年3月当時

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◆登校しぶり、嘔吐…「働く母」を拒否し続けた娘の心を変えた「魔法の言葉」(後半/弁護士・野崎聖子さんインタビュー)


第16期・那覇市男女共同参画会議の委員の皆さんをご紹介するコーナーです。noteでは、なは女性センターだよりに掲載したインタビュー企画「ハイタイ ハイサイ 参画委員です!」のロングバージョンをお届けします。