- 運営しているクリエイター
#エッセイ
ずっと住むわけじゃない、そう決めた日のこと
新しい部屋、家具、知らないまち並み…新しい生活がはじまるときは、期待で胸がふくらむ。
愛知県から出たことがない私は、それなりに引っ越しを経験していた。
大学進学で、地元豊橋から車で2時間の知多半島の先っちょへ。初めての引っ越しに一人暮らし、興奮して前日の夜は眠れなかった。その後の引っ越しは、大学卒業と共に地元豊橋へ、そして、転職を期に豊橋から名古屋へ…地元から出ては帰ってくることを繰り返してい
卒業式に泣いたことは、一度もなかった
ざらざらと無骨な木の枝に、ぷっくりとふくらんだ蕾。
小学生の頃、職員室で先生たちが桜の花を温めていたのが記憶に残っている。私は愛知県豊橋市出身、もう10年以上も前の話になる。その頃は、まだ平均気温が低くて、3月に地元でソメイヨシノが咲くことはなかった。
職員室に入ると、むわっとするような温かい空気が流れてきた。
「早く、扉を締めて!」
卒業式で泣いたあの日は間違ってなかった。
「卒業式で泣いてるやつの気が知れない」
たかが式典。たかが通過儀礼。校長先生が定型分のような挨拶をして、卒業生は順番に卒業証書を受け取る。校歌を歌う。
新たな門出を祝う空気と、これまでの学校生活を省みる言葉に溢れた、まだ少し肌寒い体育館。
たしかにただの儀式でしかない。作られた空間でしかない。
それでも私は泣いていた。
悲しいわけじゃない。悔しいわけじゃない。嬉しいわけでもない。寂しさと
ホワイトデーのおかえしは、ほとんど記憶がない
ホワイトデーの思い出、何かあったかしら?と記憶を思い起こしてみる。
そして、はたと気付くのだ。
「あれ?ホワイトデーの思い出って特にない。」
本当にこれって思い出がないのだ。年のせいなのか、最近は「あれ?これって何年前の出来事だっけ?」と記憶があいまい。ボケはじめたのか、いや早すぎると自分に言い聞かせる。
本当にホワイトデーの思い出が…どこにいったのか。
ホワイトデーの「おまけ感」が嫌なんだ
バレンタインデー当日に向けて街中が桃色のムードに包まれるのは、あんまり嫌いじゃない。だってなんだかドキドキするじゃないか。
誰かにチョコレートを渡す予定もなければ、当然もらう予定もない。それでも渡す側のドキドキを知っているし、その後の展開を想像するだけで胸がぎゅっとなったりするのだ。
バレンタインデーに一世一代の告白をする人もいれば、そんな告白をされるかもしれないとソワソワ過ごす男性もいるかも
記憶の片隅に残る、雛人形の姿とあの日のこと
ひな祭りを祝っていた記憶がほとんどない。ただ、雛人形が飾ってあったことは覚えている。
実際にお祝いしていなかったのか、記憶が風化してしまったのか、はたまた記憶から消してしまったのか…今となってはわからないけれど、とにかくひな祭りに対して何も思い入れがないのだ。
そんな私が再びひな祭りを意識したのは、社会人になって随分経ったあとだった。当時住んでいた愛知県で「中馬のおひなさん」という祭りが開かれ
凍てつく寒さも忘れて、ただそのときを待っていた
2、3年前の大晦日。
私は旅仲間とすごく無謀な年越しを計画した。
年越しを愛知県の山にあるゲストハウスで過ごし、そこから車で3時間の海辺で初日の出を見よう!それから、フェリーに乗って伊勢神宮に初詣をするというものだった。
今考えれば、絶対にしないような旅。
その時は、なぜかこの人たちとなら楽しそうというわくわく感しかなかった。年越しの旅の計画を話すと、誰もが「え、本当にそれやるの?」とドン
拾ってきた小さな命は儚くて
小学生の頃、いつも学校が終わるとランドセルを家に置いて一目散に遊びに行く公園があった。何の変哲もない、滑り台とブランコ、砂場があるステレオタイプの公園だ。
いつものように学校の友人と公園で待ち合わせをしていると、ミーミーというか細い鳴き声が聞こえて来た。声がする方に行くと薄汚れた段ボール箱の中に、子猫が数匹いた。まだ、目も開いていない、ちまっとした子猫。
いつからここにいるのかしら?母猫は?
猫が大好きなんだとずっと思っていた。
「犬派?猫派?」と聞かれたら、「ネコ派」と即答する。
◯◯派で分けてしまうことを無粋に感じる人もいる。それでも私は犬より猫の方が好きだし、それをごまかすつもりも隠すつもりもない。
もともと猫が好きだったけれど、その中でも特別に好きな猫がいた。私の心の中には、その猫がずっと住みついている。
私の腕の中でだんだん硬く冷たくなっていったあの子のことは、きっと一生忘れない。何度も名前を呼んだことも、
失敗して、痛い思いをして上手くなる
スキー、スケート、スノーボード…私はウィンタースポーツが苦手だ。ウィンタースポーツというより、寒い冬が苦手なのだ。
中学にあがるまでは、家族で毎年冬に岐阜県や長野県のスキー場に出かけた。寒がりの私は、スキーウェアの隙間から雪が入り込むのが憂鬱だった。ソリで勢いよく坂を滑ったときは、顔面に雪化粧をして号泣したのが懐かしい。
大学生になると、冬はみんなスノーボードをしに行った。
なんで、板に足を
白銀の世界で、恋に落ちる音を聞いた
「ゲレンデでは恋が芽生えやすい」
そんなことを最初に言ったのは誰だろう。
吊り橋効果ってやつだろうか?それとも、ウインタースポーツが上手い人はかっこよく見えるっていうゲレンデマジック?
とにかく、ゲレンデってやつは恋に落ちやすいシチュエーションらしい。
でもそれで恋に落ちちゃったりしたら単純明快すぎて、哺乳類どころかもはや単細胞生物なんじゃないかという疑惑が湧いてくる。
まるでDNAに「