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短編集

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5,000文字~30000文字程度の,1話完結作品集.ファンタジー・ホラー色強いです。マガジン表紙画像は、柴桜様『いろがらあそび6』作品No.44をお借りしています⇒https:…
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#小説

野良、始めました。

野良、始めました。

――どちらに転がるにしても、相応の覚悟は必要だよ――
かつて「囲われ者」でありながら、自ら望んで「宿なし」の道を選んだ一匹の猫。
今わの際に恩師がもらした一言が、過去の記憶を呼び起こす。

ヒューマンドラマというか,ニャーマンドラマ?
よろしければ,お付き合いを.

1――どちらに転んでも、相応の覚悟は必要だよ――
 そう言って、その年寄りはこと切れた。路上で途方に暮れていた俺に、生きる術を色々と

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残り時間の数え方

「あと5分もある」
 そんな呟きが隣から聞こえて、チラリとそちらを見やった。上品なラベンダー色のワンピースをまとった女性が、ポットから自分のカップへお茶を注いでいる。
 平日の昼下がりの喫茶店には、商談中のサラリーマンや、一目でフリーランスのライターか何かと分かる若い男、そして自分と、一つ空けた隣の一人用のテーブル席にいるその女性しかいなかった。
――どうせ子供のいない有閑マダムだろう。優雅なご身

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花守人の憂鬱

花守人の憂鬱

――花守人(はなもりびと)の瑠璃(るり)は、ただじっとして、そのときが来るのを待っていた。
 彼女の仕事のうち、いちばん重要で、いちばん時間を割かなければならなかったのは、“待つこと”だった。――
 久しぶりに、短編をひとつ書き上げましたので、お届けします。
よろしければ、お付き合いを。

 ★ 本編 ★

 花守人(はなもりびと)の瑠璃(るり)は、ただじっとして、そのときが来るのを待っていた。ま

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短編3.イテュスの竪琴(後)

短編3.イテュスの竪琴(後)

夏休み、父親の実家へとやってきた少女・初音。
大学生の従姉から、この土地に伝わる伝説と、数年に一度おこる神隠しの話を聞いた夜、神隠しにあう。
迷いこんだ洞窟の中で、少女はお山の過去と、亡き母の秘密とを垣間見る。

少しホラー風味の,現代ファンタジー作品後編です.
お時間ありましたら,是非お付き合いをお願いします.

 ずいぶんと長い間、初音は膝に顔を埋めたまま、じっとしていた。そのうちに、蜂が飛び

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短編3.イテュスの竪琴(前)

短編3.イテュスの竪琴(前)

夏休み、父親の実家へとやってきた少女・初音。
大学生の従姉から、この土地に伝わる伝説と、数年に一度おこる神隠しの話を聞いた夜、神隠しにあう。
迷いこんだ洞窟の中で、少女はお山の過去と、亡き母の秘密とを垣間見る。

少しホラー風味の,現代ファンタジー作品前編です.
お時間ありましたら,是非お付き合いをお願いします.

 初音はふと、目を覚ました。何の前触れもなく、ぽつりぽつりと雨が降り出すように。薄

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短編2. ねずみたちの眠り唄

短編2. ねずみたちの眠り唄

——「ねずみに気をつけて」この母の言葉の本当の意味に気がついたとき、少女はひとつの決断を下した——

過去の作品第二弾です。よろしければお付き合いを。

 その日は朝から、ぱらぱらと雨が降っていた。雨はその勢いを増しながら日中も降り続き、夕方、小夜が小学校から帰る頃には、すっかり土砂降りになっていた。
「小夜」
 母が玄関から小夜の名を呼んだ時、小夜は居間の畳の上に寝そべって、見るとも無しにテレ

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短編1. 夕焼け色の鵞鳥

短編1. 夕焼け色の鵞鳥

——そうだね、ここは天国と言ってもいいのかも知れないよ。
だって、空の上にあるもの。——

 アップロードの練習をかねて、昔のおはなし第一弾です。 
 よろしければ、お付き合いを。

「鵞鳥が一匹足りないや」

 茜が誰とも無しにそう呟くと、その傍らでせっせと鵞鳥達の糞の後始末をしていた葵が怪訝な顔を茜に向けた。「何だって?」

「一番大きい紅色の奴。去年は居たのに」

 茜の言葉に、葵はああ、と

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